こんなに美味しいなんて・・、彼女ができたら一緒に味わいたい。
家を出て良かった
就職のため家を出ることになった。と言うのも独身寮に入らなければならなかったからだ。まだまだ研修期間の途上、一人前なんて当分なれないし、ある意味、独身寮での生活は制約だらけで、同期らとも行動を共にすることが多かった。
現代のように温暖化などと言う言葉も無い時代だ。春とは言え、まだ寒い日もあったような気もする。
ある日のこと、終業後の夕食を終え、入浴も済ませ寮内でのんびりしているとき、同期が俺の部屋にやってきた。
大抵は洗濯したり、小さなトランジスタラジオで音楽を聴いたり、あるいは勉強したりしながら過ごすのだが、彼は、故郷を離れた寂しさからか、喫茶店に行こうと誘ってきた。ちなみに独身寮の敷地内の一角にある喫茶店だ。
当時、俺一人で行く機会は無かったかも知れないが、同期だったこともあって、じゃあ、付き合おうかと行ってみた。
小生も学生のころは、同級生らと喫茶店に入る機会はあったが、午前中ならたまにモーニングセットで、普段はコーヒーしか注文したことが無かった。ところが、同期の彼がコーヒーと「エクレア」を注文したのだ。エクレア?なんか聞きなれないモノ頼んでたなぁ、じゃあ、俺も同じで、と注文した。
そして、出てきた”エクレア”なるモノが実は初めて見たモノだったのだ。
そして、おもむろにひと口、お~っ!、何んという美味しさだ!かすかにパリパリっと砕けるチョコレートの歯ざわりと、ふわっと口の中でとろけるシュークリームが絶妙に混ざり合って、くどい甘さではなく、調和のとれた軽やかな甘みがとても心地よかった。
エクレアなるもの、初めて食して「こんな美味しいもの初めてだ」と感激したのを覚えている。
彼女ができたら一緒に味わいたい
当時はまだ、彼女と言えるほどのお付き合いはなかったし、寮生活で実家に帰ることなど滅多にないことだった。
やがて同級生の友人を通して、ガールフレンド的に付き合い始めた女性と、数か月に一度程度しか帰京ままならない遠距離での交際が始まった。
時は過ぎ、今度の休みに帰京するからと、約束の手紙を書いた。そしてその日がやってきて、ついに駅前の繁華街にある純喫茶で、念願のエクレアとコーヒーを注文して一緒に味わうことが叶った。彼女も喜んでくれたし、単純に嬉しかった。
いま思い出すと、本当においしかったなぁ、と・・、最近では間食はなるべく摂らないようにしているけれど、たまに、たまに、たまに、ティータイムにいただく。まさしく至福のスイーツの代表級と言える。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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