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シン人類の哲学 – 名前、権力、そして信頼の未来
現代社会において、「名前」と「個人の識別」は、かつてないほど曖昧になりつつある。選択的夫婦別姓の議論が続く中、果たして本当に名前にそこまでの価値があるのかという疑問が湧いてくる。実際、名前というのは単なるラベルに過ぎず、芸名やペンネーム、アカウント名のように、自分で好きなものを選ぶことも可能だ。にもかかわらず、個人を唯一無二の存在として証明する手段は、実際のところ「名前」ではなく「ナンバー」に依存しつつある。
マイナンバーやデジタルIDの普及が進む現代では、法的な身分証明も、資産管理も、SNSのアカウントさえも、統一されたIDで一括管理される未来が見えている。もしこれが完全に機能すれば、人はもはや名前を隠す必要すらなくなり、逆に「隠れること」自体が不自然な行為となる。かつて忍者やスパイが活躍できたのは、情報が分散し、追跡が困難だった時代の話だ。しかし、デジタル社会においては、すべての履歴が残り、取引も交友関係も透明化される。闇バイトのような裏の仕事も、匿名性が剥がされることで成り立たなくなっていく。個人のプライバシーはどこまで守られるのかという問題はあるが、一方で、社会全体の透明性が向上すれば、不正行為はより難しくなる。
この流れに恐怖を感じる人もいるだろう。権力が情報を一手に握る社会は、個人の自由を脅かすディストピアだと考えたくもなる。しかし、もし民主主義が本当に機能しているならば、権力とは「みんなで決める」ものであり、「恐れるべき対象」ではないはずだ。逆に、権力を恐れるあまり、社会の決定に参加せず、不信感だけを募らせるなら、それはもはや民主主義ではなく、単なる混乱に過ぎない。極端な話、権力を信じられないのであれば、都市生活を捨て、山奥で仙人のように孤立した生活を送るしかない。しかし、人間は本質的に社会的な存在であり、誰とも関わらずに生きていくことは難しい。
もし本当に「民主主義」が成り立たないのであれば、むしろかつての幕府や天皇制のように、「御上(おかみ)」に従うほうが筋が通るのではないか。民主主義の最大の弱点は、全員が意見を持ち、全員がバラバラの方向を向くと、何も決まらないまま弱者が疲弊していくことだ。現代社会では、反対のための反対が蔓延し、建設的な議論が失われることが多い。その結果、決定が遅れ、本当に助けを必要としている人々が救われない状況が生まれてしまう。
こうした問題を解決するには、人間社会の根本にある「信頼」を見直す必要がある。社会とは、人と人とのつながりによって成り立つものだ。にもかかわらず、権力を信じられない、政府を信じられない、他人を信じられないとなれば、それは社会の崩壊を意味する。人は個人として自由を求めるが、自由を求めるあまり、責任を放棄してしまえば、結局そのツケが回ってくるのは自分自身である。
これは「社会契約論」にも通じる考え方だ。ルソーは、人間が完全な自由を持っている状態では秩序が保てず、社会を維持するために契約を結び、共同体の中で一定の制約を受け入れる必要があると説いた。つまり、自由とは無制限ではなく、一定のルールのもとで成り立つものなのだ。このルールを作るのが民主主義であり、それに従うことで社会は安定する。しかし、もし社会の決定に異を唱え続けるだけで、何も決まらないのであれば、それはルールなき混沌に戻ることを意味する。
現代において求められているのは、単なる「反権力」ではなく、「健全な信頼の構築」なのかもしれない。権力を絶対的に信じるのではなく、適度に監視しつつも、協力するべきところでは協力する。そのバランスを見失うと、ただの陰謀論や不安の連鎖に陥り、本当に重要な決定が遅れてしまう。
最終的に、社会が機能するためには、「信頼」と「ルール」と「協力」が不可欠だ。選択的夫婦別姓のような議論も、突き詰めれば「個人の自由」と「社会のルール」のバランスの話に行き着く。名前を自由に選びたければ、それを受け入れる社会のルールを作ればいいし、それに従うことが社会の一員としての責任でもある。そして、もし本当にルールを信じられないなら、完全に社会から離れる道もある。しかし、多くの人が求めているのは、「自由を持ちつつも安心して生きられる社会」なのではないだろうか。そのためには、無意味な対立を続けるのではなく、建設的な議論と協力が必要だ。
今、我々に必要なのは、「信頼」を取り戻すこと。そして、それができるのは、シン人類の哲学を理解する者たちだけなのかもしれない。
著:シン人類 〜原案:SonSin、絵と文:HAL2024(ChatGPT)〜