見出し画像

アニメ・メダリスト4話を原作と比べながら批評する[メダリスト4話の感想]

他の今期アニメの感想を先に書こうと思っていましたが、他のを書く前にこのnoteを書きたくなりました。

メダリスト4話、みなさん見られましたでしょうか。

私の感想をメダリスト風に言うと、「ちゃんと見てたよ、すごくすごくカッコよかったよ(以下略)」になるんですが、
4話が1〜3話までの起承転結の『結』になる重要なエピソード、文字通り『本番』の話なので、深掘りして評したいと思います。

前回の感想はこちら↓


そもそもメディアミックスとはどうあるべきか?

そこまで立ち返るのかと思われるでしょうが、今話を評する際に重要な観点になるので、ここで前提を共有します。
斜め読みでも大丈夫ですし、わかってる人は飛ばしてください。

商業的に言えば、
『派生製品であるミックス先を売る+原作を売るコマーシャルである』
ことになるでしょうか。
この2点の主従関係は媒体や資金の構成、組織間の力関係などによって変わるので、どちらが上位かは媒体や作品によって異なるはずです。

そして作品価値の話をすると、
『原作に対し、付加価値を加えて売る
ことになります。
ただし、これは誤解が生じる表現であり、クリエイターであっても認識が正しくない人がいるので説明します。

まず、媒体が異なる限り、必ず『媒体差』が生じます。小説から漫画になれば絵が、アニメやドラマになれば動きと音がつきます。商業の連載漫画やアニメはページ数や分数の制約が着く分、構成に差が生じます。
ライトノベルの挿絵が漫画絵と同じになることは(多分)ないですし、漫画絵がそのままアニメになることもないでしょう。
無論、かけられるコストもそれぞれのリソースに左右され、リソースの元は実績や運など様々です。

そして、この媒体差とは別に『クリエイターの付け加えた内容』があります。
ここが大きな問題で、メディアミックスはあくまで原作の派生作であり、還元の度合いが違うとはいえ二次創作である以上、原作者の意図を損じる改変となるとアウトです。ここを間違えて大きな問題になった事例、ご存知の方も多いはず。
しかし、あまりにも工夫がないと、原作者の方が基本的に理解度やかけるコストが高い関係で、原作の劣化版、下位互換になりかねない。

ですから、メディアミックスの評価(≠作品全体としての評価)は、一言で言うと
・原作に対して、付加価値となる差が生じているか
・原作に対して、価値を損じる差が生じていないか(生じない工夫をしているか)
になるはずです。

この視点で本noteは評価しています。

エピソードの尺は適切か

まず、原作とアニメの対応関係について。
現状1〜4話は、漫画score1〜4(1話)に1対1で対応しています。
この後のエピソードもほぼ同様に対応していくことになるでしょう。

この際考えうる他の手段は、例えば、1~3話を短縮して2話に収め余裕を作ったり、あるいはアニメオリジナルの展開で延長して、適切なタイミングに山を持っていくなんてこともあります。

ただ1~3話でアニメオリジナルで増えたパートはほぼなく、いい表現でいえばテンポよく、悪く言えばカツカツな尺で回していました。これ以上原作パートで削れる部分はないと思いますので4話はscore4以降を当てるしかなかったでしょう。
5話以降のことを考えると、score5、score6が短めで、ここまでが名港杯編なので、5話はここをひとまとまりにするでしょう多分。
と考えると、score4の内容は4話でやるしかない。

アニメの23分中、OPEDの3分を除いて20分。
減った描写はいのり競技中の心の声、審査員の心の声と反応。
増えた描写は家族(特に姉)のセリフでしょうか。あと前回のあらすじ。

減った描写は減らすべきか[いのりの心の声と審査員の心の声]

いのりの心の声について、減ったのは技術についての思考で、これはアニメで動きが見せれるなら問題はないです。むしろ原作のママだと、競技描写が間延びしたり、わかりづらくなると思います。
それに競技中、原作の分量まで思考するのは、リアリティの面ではむしろイマイチでしょう。
この日のために練習してますから、ここは思考ではなくというよりイメージしてることであって、心の声として必ずしも表現する必要はないはず。

審査員の心の声は、いのりのやってることの凄さを示すケレン味なわけですが、言ってしまえば、シットスピンの凄さは前話で示しましたし、ブロークンレッグは今話のコーチ陣の反応で示せます。
アイスダンス由来の滑りのうまさは削れましたが、ここはこの後の話でも示す機会は多いですし、シットスピン、ブロークンレッグの印象を下がる可能性も踏まえると、ここで言わなくても良さそう。
あった方が盛り上がりが示せますが、付け足した分にフォーカスを当てることも考えるとトレードオフの関係でしょう。

追加した描写は必要か[家族の描写]

改変も含め、1番のアニオリは母親関係でしょう。原作読者で気づかれた方もいらっしゃると思いますが、1話から母親の描写マイルドになっていました。
1話段階では、ただ視聴者からのヘイトを下げて、視聴時の不快感を下げ、かつ後の展開に繋ぎやすくしただけだと思っていました。
ですが、製作陣の意図はもっと強い意図があったようです。

つまり、これら変更は、母の成長をより強調一つの軸として示したかった訳です。
原作だと結構あっさりしてますが、姉の故障と挫折、共働きの環境と姉妹の個性の差といった具合に、子育てに関する問題は重くのしかかっていて、この点も作品の軸とするには十分な内容なはず。
そしてこれがいのりへの過保護やいのりのネガティヴな性格に繋がっていることを鑑みると、わりと大きなトピックです。

そして今話ラストでいのりと母の会話は、いのりにとってもかなり重要な、『頑張った結果』であるとともに、母の成長の証でもあり、原作と同じく今話の山場の一つでもあります。また、母の心変わりとその結果である今後の支援に対し説得力を与える点でも重要です。

ここを強調する方法はいくつか考えられますが、できるだけ話を変えず増やさずに視聴者に影響するには、表現をマイルドにして感情移入をスムーズにすること、そして家族側の描写を増やし視点位置を移動させることな訳です。

ほかに変更すべき点はないか[前回の振り返り]

目につく一番簡単に削れそうなパートはOP前、前回の振り返りでしょう。ただ、振り返り自体の価値以外にも、回想シーンから始まることの唐突感が軽減できる効果もありますし、ブロークンレッグで薄れるシットスピンのインパクトを残しておくことにも繋がります。
削るのも十分選択肢ではありますが、他の削った要素を残すことに費やすより効果的だと個人的には思います。

OPを削る手もありますが、それは切り札なので、最終話とかならともかく、温存できる時は温存した方がいいです。

フィギュア描写の良し悪し[曲とCG]

まずいい点として、フィギュアスケートの曲をほぼ止めずに流し切った点。あまり詳しくはないですが、一連の演技をほぼそのまま描ききった点は評価すべきでしょう。
やはりこの作品の肝であり、かつ映像媒体でしか音楽や動きの全てを描けないことを考えると、媒体の強みを活かした、やるべきことをこなしていると言えます。
3DCGであることで、原作のケレン味が薄れてしまう点はありますが、そもそもCGでやらなかったらここまで描けなかったでしょう。平面キャラと交互に映るので違和感ないことはないですが、できることを最大限にやった結果だと思います。

タイトル回収の良し悪し

タイトル回収は、そう何度も使えない盛り上げ方なので、使うときは最大限効果的にしたい。
ので、直前のセリフ改変「わたしはスケートで勝ち負けをやりたいんだ」→「わたしはスケートで勝負したい」は個人的には高評価です。
勝ち負けって普段使われる表現より強いので、原作での一コマの凄みとしては有効なのですが、アニメだと直後の「メダリストになりたい」を邪魔してしまうでしょう。
ただ、肝心の「メダリストになりたい」は強調が薄い。
効果音やエフェクトを挟むなどをするとややわざとらしいですが、少なくとも矢継ぎ早に読まず、1拍おいてもよかったんじゃないかなと思います。

まとめ

私がアニメを評価分類するときは、いつも5段階で表現します。
・神アニメ -これ以上のない作品、改善点のないベストな作品
・良アニメ -できる範囲で工夫はしていて、有効に働いている作品
・凡作、凡アニメ -平均的、工夫が十分でない作品
・駄作、駄アニメ -工夫がうまくいかなかったり、逆効果な作品
・クソアニメ -問題がある、あるいはトラブルを感じる作品

この分類での神アニメというのは、原作があろうとなかろうと、よほどのことがないと出来ない印象です。
できる工夫を全て思いついて、それが全て有効で、しかも可能であることなんて、そうはないでしょう。
アニメには限界があります。ひとりで作ってないですし、コストに制限がある。実力だけでは神アニメは作れないのだろうと感じます。

本作は現段階では良アニメだと思います。勿体無い点がないわけではないですが、できる範囲での工夫は視聴側からでも見て取れます。
奇しくも『メダリスト』作中で示される通り、持てる範囲で、できるだけの対価を支払って手に入れたこのアニメは、作り手にとってもメダルとなるのではないでしょうか。

今話は「すごくすごくカッコ良かった」と思います。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集