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パキスタンにイギリス文化?英領インドの遺産を追う【紅茶編】

 パキスタンはイスラーム文化が主流のように見えますが、実は、英領インド時代に受けた、イギリスの文化的影響はとても大きく、その影響は今でも見ることができます。多くは、実際に暮らすパキスタンの人々でさえ、イギリスからきているとは知らないほど、生活に溶け込んでいるのです。そのうちの1つが、チャイです。パキスタンに残るイギリス文化について、今回は紅茶に焦点を当てて、紹介したいと思います。また、ここで「インド」とは、パキスタンとバングラデシュを含めた、当時の英領インドを指します。

イギリスにおける紅茶需要の増加とチャイ

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 紅茶といえばイギリス、というイメージが強いですが、実はイギリスでは紅茶の茶葉は栽培できないのを、ご存知でしょうか。イギリスは、気候や土地が茶葉の栽培に向いていないため、植民地に栽培を委ねる必要がありました。そもそも、17世紀、ポルトガルの王女キャサリンがチャールズ2世の元に嫁いだ際に、紅茶文化をもたらしたことが、イギリスの茶への情熱の始まりとされています。18世紀には、イギリス東インド会社が中国から茶葉を輸入していましたが、19世紀になると、植民地であるインドのアッサム地方において、アッサム茶の栽培を始めました。スリランカのセイロン茶も、イギリス植民地によってブランド化されました。

 イギリスによる茶葉の栽培は、インド国内においても茶の文化を広げ、チャイの誕生へと繋がります。イギリスでは、ポットに茶葉を入れ、お湯を注ぎ、味を出す方法が主流ですが、一般的なインドのチャイは、鍋に茶葉とスパイス、牛乳を入れて煮出します。同じ茶葉でも、この作り方の違いの理由はわかりません。しかし、今でも、パキスタンでスパイスが多用されているところを見ると、チャイにスパイスが入っているのは偶然ではないと考えます。ガラムマサラのかかったコカコーラやスイートポテトを出された時は驚きましたが、同時に私の中で何か納得がいったのです。パキスタンで現在多く使われている茶葉がリプトンであることも、とても興味深いですね。

パキスタンにおけるチャイのたしなみ方

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 チャイの起源がイギリス統治にあることが分かりました。しかし、パキスタンを訪れると、チャイのたしなみ方までもがイギリスに似ていると、私は思わずにはいられません。イギリスで紅茶の消費量が多いように、パキスタンでも暇さえあればすぐに、いや、むしろ暇を作ってまでも、チャイを飲んでいるような印象を受けます。私の父もチャイ愛好家で、家は常にチャイの香りが漂い、何度鍋を洗って作っているか分かりません。パキスタン国内のどの家庭にお邪魔しても、同じように皆チャイを片手に談笑しています。イギリスのもたらした茶文化は、消費の仕方までもがイギリス流なのです。

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 以前、約60人のパキスタンの人にアンケートを取り、一日に何杯のチャイを飲むのかを聞いたところ、上のグラフの通り、半数以上の人が1日に必ずチャイを飲んでいることが分かりました。また、家族のチャイの飲み方も併せて尋ねると、「毎食後必ず飲んでいる」「一日の始めとして飲んでいる」「2時間置きに飲んでいる」さらには「家族の体にはチャイが流れている(Chai is actually the blood of my family)」という人までいました。「あなたにとってチャイとは?」という質問に対しては、「チャイは全て(Chai is life)」「 親友(besft friend)」「ソウルメイト(soulmate)」という答えが多数みられ、他にもリラックス効果を謳う人もいました。アンケートを見ていると、若い世代よりも、親の世代が特にチャイを飲んでいる印象を受けました。パキスタンの人々にとっての、チャイの存在の大きさを感じます。

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 さらに、パキスタンでは、人をもてなす際にチャイを出す習慣が根強いです。上の表から、半数以上の人が、人の家を訪れる際に、チャイを出されることを期待していることが分かります。実際に、私も、パキスタンではいつもチャイを振る舞ってもらっています。おもてなしと茶の関係性は、パキスタンに限らず、イギリスや日本にも同じことが言えると思います。日本においては、おもてなしの際にお茶を出しますが、パキスタンではチャイがその役割を担っている、ということです。

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 また、茶には茶菓子がつきものですが、チャイもそれは同じです。多くは、上の写真のようなケーキラスクやクッキーをチャイに浸して食べます。(これがなんとも美味しい!) また、甘いものに留まらず、サモサやパラタなどの軽食も一緒に出されることがあります。朝食時には、チャイにナンや食パンを浸している人もいました。チャイのお供は、バリエーションさまざまだと思います。

 最近見かけることは少ないですが、チャイをカップからソーサーに移し、お皿から飲む人もパキスタンにはいます。それは、イギリスで紅茶が飲まれ始めた頃、もともとカップに持ち手がついておらず、そのまま持っては熱いと、ソーサーに移すことで冷ます効果がありました。次第に、その飲み方は労働者階級のみがするようになりますが、インドでもその飲み方は伝わり、つい最近までパキスタンでも同じ飲み方をする人たちがいたのです。まだ、上の世代の人の中には、見られるかもしれません。

私のチャイ談@パキスタン

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 無類の紅茶好きの私にとって、パキスタンのチャイ文化は楽園です。オールドラホール近辺を車移動中に、近くの牛乳屋さんで注文し、車内で飲んだチャイは格別でした。もはやパキスタンから切り離すことのできないチャイですが、実はまだまだ私も知らないことばかりで、パキスタンを訪れる度に、いつもチャイの新しいあり方を学ぶのです。

  カフェに行った時の話です。私は、ティーかコーヒーがあると聞き、久々にイギリスの紅茶が飲みたいと、ティーを頼みます。しかし、出されたのはなんとチャイでした。その時、私は自分のした単純な勘違いに気がつきました。日本では、「ティー」と聞くといわゆるカフェで出される紅茶を、「チャイ」と聞くとインド料理屋で出されるミルクティーを想像しますが、パキスタンではティーを頼めばチャイが出てくる、つまり「チャイ=ティー」なのです。厳密に言えば、ウルドゥー語ではチャイ、英語ではティーと言います。日本においても、お茶と聞くとまず日本茶が頭に浮かぶのと、同じではないでしょうか。インドやバングラデシュも同様かどうか知りませんが、この情報は知っていて損はないと思います。笑

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 また、チャイを頼むと、マライがよく入っています。「マライ」とは、日本で言うと、牛乳を温めた時にできる膜のことですが、パキスタンでは膜というより、固まりの方が正解だと思います。パキスタンには、マライを好む人が多いようで、チャイに大量に入っていることも珍しくありません。私は個人的にあまり好きではなく、入れないでと注文したところ、たくさんマライが入っていた、という苦い思い出があります。上の写真のように、マライで作った「ラスマライ」と呼ばれるデザートも人気です。マライの入ったチャイの、あの独特な飲み心地を好きになるには、私はまだまだ時間が必要のようです。

  チャイと一口に言っても、その種類は数多く、私も語れるほどの違いを理解していません。より細かく指摘するならば、チャイはもともと紅茶と、広い意味を持ちます。一般的に想像される、スパイスを加えたものは、マサラチャイ(masala chai )、それをさらに濃くしたものはカラクチャイ(karak chai)です。カフワ(kahwah)と呼ばれる、スパイスを入れたグリーンティーもあります。ピンク色で、塩のしょっぱさが効いたカシミールチャイも、とても興味深いです。このチャイの奥深さは計り知れず、私のチャイ談はこれで終わるわけにはいきません。今後も、また新たな発見をまとめたいと思っているのです。

(付記)日本ではchaiを「チャイ」と表記しますが、パキスタンでは基本「チャーェ」と発音されています。

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