見出し画像

旅の詩/蛍の光

蛍の光

声が
器官であるような明滅

捧げようと土から分かたれた花
咲いている、と言いますか

昨日まで
ペワ湖に注いだ雨
海に降れば
幼くして逝った人のようです

私は彼方から分化してきた
分割の果て
無数から一人となった
誕生の日
どんな代数によっても指し示されない座標
新しい名を願う

体に触れたことはあるが
こころに触れたことはない
耳には触覚があるが
言葉には触手がないから
火のついた矢のように放って
人を射抜いても
我が身の焼かれることがない

聞こえますか

1997年8月

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?