見出し画像

杉本貴司『ユニクロ』日本経済新聞出版 を読みました

1988年から89年にかけて、広島県JR福山駅南口の裏路地に「ユニーク・クロージング・ウェアハウス」はありました。高校生だった僕らには憧れのお店でした。いわゆるアメカジの店だったような気がします。
彼女にプロポーズした1998年の冬、小さな部屋の小さなテレビではフリースのCMばかりやっていました。あの店が全国区になっていました。

500ページ近い大著を読みながら、上のようなことを次々と思い出します。
大げさですが、同じ時代を生きてたんだなあと、この手の書籍には珍しく、やたらと感情移入してしまいました。

概要

言わずと知れたユニクロ・柳井正氏の一代記です。
「どこにでもいそうな、さえない青年はいかにして覚醒し『柳井正』になったのか」。Amazonの惹句でもわかるように、地方の紳士服店からユニクロにまで駆け上がる柳井氏の半生が描かれています。
それに加え、柳井氏の半生に登場するともに戦う同志や、影響を受けた人々の群像劇に仕上がっており、500ページ弱でも一気に読める傑作エンタテインメントになっています。

メモをもめ

「私は人が生きていくうえで最も大切なことは使命感を持つことだと思います。そのためにはまず、自分は何者なのか、そのことを深く考える必要があると思います」。
「自分にとって何が最も大切なことなのか、絶対に譲ることができないものはなんなのか、そこを突き詰めて自らの強みを発見し、生かす。自分にしかできない、自分の人生を思いっきり生きてほしい。明確な意識があるのとないのとでは、同じ人生を送っても成果は100倍、1000倍あるいは1万倍違うのではないかと私は思います」。
(・・・)
だが、そう言う柳井自身も実のところ目の前の学生たちと同じ年頃だったこの当時は、まだ見つけることができないでいた。

(P.038-39)

その代わりに柳井は自宅に帰ると自分自身と向き合うことにした。
(・・・)
机に座ると、柳井は大学ノートに自分自身の性格について思うことを書き記していった。(俺の短所はなんなのか。逆に長所はなんなんだ。)
(・・・)
どこまでも内省的な柳井らしい作業だが、こんなことを続ける中で、今でもことあるごとに社員たちに勧める、ある思考法にたどり着いたのだという。
それは「できないことはしない」「できることを優先順位をつけてやる」という極めてシンプルな思考法だ。
(・・・)
そもそも解決できないようなことについて悩んでいる時間がもったいない。それを最初に割り出してしまう。その先は難しく考えることなく、「できそうなこと」から順番に片付けていけば、いずれトンネルの出口が見えてくるはずだ。
(・・・)
柳井が自室にこもって大学ノートに書き記したのは自己分析だけではなかった。ちょうど若い女性スタッフを採用することができたため、仕事の内容を正確に伝えるために日々の仕事でやってもらいたいことをひとつずつ文章化してみたのだ。
(・・・)
思えばこの自筆の「仕事の流れ」がマニュアルの第一歩だった。

(P.078-080)

「そうすると考えるわけです。やっぱりもっと値段を下げるべきなのかな、看板が小さくて気づいてもらえないのかな・・・ってね。そこでチラシをまいてみたらポツポツとお客は来るようになった。だけど、誰も買ってくれない。お金を払ってくれない。そうこうしている間にも従業員には給料を払わなくちゃいけない。お金はどんどん減っていく」。
「そうするとねえ・・・『このままじゃ倒産する』と思って胃がキリキリと痛むんですよ。経営者というのは、それでも考え続けるんですよ」。
玉塚が黙って耳を傾けていると、柳井が言葉をつないだ。
「いいですか。そういう経験をしないと絶対に経営者にはなれません」。
この時の柳井の言葉を、玉塚は今も忘れることができない。経営者として文字通り胃が痛む思いを、この後にユニクロ社長となった玉塚は身をもって味わうことになるのだった。

(P.241-242)

(ZARA(インディテックス)創業者アマンシオ・オルテガの話)
スペインの大手百貨店に売り込みに行ってもバイヤーと話が合わない。「女性たちがなにを求めているのか。この人たちは本当にその声を聞いているのか・・・」。そんな疑念がこみ上げてくる。消費者に直接ヒアリングして流行を見極めようとするのは、後々までオルテガが大切にしてきた信念だという。
(・・・)
こうしてオルテガが立ち上げたブランドがZARAだった。
(・・・)
「片手は工場に、もうひとつの手は顧客に」というのがオルテガの哲学だという。

(P.246-247)

「泳げない者は沈めばいい」
貪欲に成長を求め続けていたこの時期に、柳井が好んで使っていた言葉だった。実は柳井のオリジナルではなく、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツがよく口にすることだと本を通じて知った。

(P.267)

「お分かりでしょうか。我々は消費者のインテリジェンスをもっとリスペクトしなければならないということです。多くのマーケッターは消費者より自分たちの方がスマートだと思っている。消費者を上から見下している。でもそれは大きな間違いなんです。人々のことを愚かだとさえ思っている。だから、愚かなコマーシャルが作られてしまうんです」。
ジェイがこの動画で伝えたかったのは「ユニクロのフリースはニューヨークでも安いと思われる」ということではない。「自分たちが思っているより消費者はちゃんとユニクロの価値観を理解してくれる」ということだ。
(・・・)
「ユニクロとはなにか」を煎じ詰めた上でジョン・ジェイが考え出したのがこのテレビCMだった。そこにはどんな意図が込められているのか。
「文化人もミュージシャンも小学生も同じ。我々はどの人にも同じように接している。どんな人生を生きたいか、生きているのか。そのストーリーを本人に語ってもらう。そこにユニクロがある。それで何が言いたいかは伝わると思った。『我々は民主的な会社なんです』なんて言う必要はないんです。見る人のインテリジェンスに訴えかける内容だから」。
どんな人にも同じような感覚で着てもらえる「服の民主主義」を、この問わず語りの方法で伝えたわけだ。「服に個性が必要なのではなく、それを着る人が着こなしてみて初めて個性が生まれるのが服というものだ」という柳井の信念を形にしたともいえるのが、この問わず語りである。

(P.262-264)

再び苦境に陥ったGUをどう立て直すかー。そのヒントを探す旅が始まった。柚木には野菜での失敗で得た3つの教訓がある。
「顧客を知る努力は永遠に続けなければならない」
「新しいことを始める時は、今ある常識を誰よりも勉強しなければならない」

「社内外を味方に付けて、その力を使い尽くさなければならない」

(P.372)

柳井さんの経営の偉大なところは、SPAの先駆もさることながら、
「下手にターゲット・オーディエンスをせばめない」
「とにかくスケールアップ(拡大)を目指す」

の2つに尽きると思われます。

前者は、本書では(やや高尚に)「服の民主主義」という言い方で表現されていたものです。昨今のマーケティング界隈ではとにかく「ターゲットが、ペルソナが」と言われますが、日本最大の小売りはペルソナなんて考えているんでしょうか。

後者は、昔、柳井氏が石川康晴氏(ストライプインターナショナル創業者)との対談で言ってました。当時、アースミュージックアンドエコロジー(earth music&ecology)を全国展開していた石川氏の「世界進出」の悩みに対して「スケール(拡大)を目指さないビジネスなんてあり得ない」と単刀直入していました。

このような柳井経営の本質が、一代記である本書のどこで、現れ・得られたのか。本書では柳井氏の経営論までは深入りしていませんが、個人的には、たいへん興味深く読むことができました。

昔から柳井氏の本は好んで読んでいました。こちらもおすすめ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?