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【映画館訪問記】 シネ・ヌーヴォ・大阪 編

全国各地の映画館を訪ねて歩く。そんな些細な夢の登竜門は、大阪から。

名古屋から近鉄特急に乗り、約2時間ほど。大阪難波に着く。難波からは、阪神なんば線を使えば、5分くらいで着くという道、地下鉄のフリー切符を購入したので、わざわざ地下鉄で九条駅まで向かう。

九条というのは、実に関西っぽい地名だなあと思いながら、地下鉄のはずが、いつの間にか地上に出ていた。高架を渡って、商店街に出る。

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大きいとも小さいとも言えない商店街、土曜日の昼間、そこまで人手は少ない。手前のマクドナルドだけには人だかり、コーヒーショップのマスターは仕事を忘れて新聞を読んでいた。

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この商店街を進み、左折し、さらに裏路地の商店街(1つ前の画像「千日通商店街」がそれだ)を進んでいくと、こんな看板?が現れた。雨風に弱そう、補強テープが物語る。

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看板?に従い、少し歩くと、マンションに混ざって、シネ・ヌーヴォがあった。

今まで行ったことのある映画館の中で、「マンションの地下」にある映画館は、なかったはず。確かに、寂れ老朽化の進む雑居ビルの一角だったり、パチンコ屋の上だったりと、決して入りやすい環境ではない映画館はいくつもある。

でも、このシネヌーヴォ、まさか、マンションの地下にありました。

ここの住人は、住人割?みたいなのはあるのだろうかと考えてしまう。ここに住みたい、大阪に住むならここに住もう。一階がコンビニとか飲食店とかは聞いたことがあっても、映画館という物件はそうそうないだろう。

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注目すべきは(いやでも気になってしまうのは)、この薔薇の彫刻だろう。外装、内装ともに、劇団維新派という集団が手がけているらしい。

外観・内装のデザインは、大阪を拠点に活動していた劇団維新派に手がけてもらいました。維新派は公演のために野外劇場を作って、終わったら解体して撤収するという「scrap&build」の劇団なんです。主宰の松本雄吉さんは“映画館は非日常の空間”という考えを持っていた方。一歩足を踏み入れたら別世界に行けるよう、まるで水中に潜るような印象を与えられるよう、水中映画館をイメージして内装を作ってくれました。

支配人の山崎さんのインタビューを引っ張った。なるほど、「映画館は非日常の空間」。

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非日常へと誘うバラに誘われ、入り口に近づいてみる。コロナ対策なのか、ドアは全開になっていて、座って待っているおじさんが、中のカウンターにいるスタッフと談話していた。

入り口すぐには本棚があり、映画に関係する書籍がずらりと並べられていた。売り物らしいが、展示物にも見えてくる。

カウンターを通り過ぎて、ネットで買っておいたチケットを発券する。カウンターに並べられていたのは、パンフやグッツの他に、昭和の女優たちのブロマイド。ここで買うというの、マルベル堂に行くより緊張する。

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中に入ると、劇場部分を囲むように廊下があり、廊下にはサインやポスターやチラシで埋め尽くされていた。圧巻。

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LPの裏に、とっても古いキネマ旬報が、こちらもずらりと並んでいる。というよりかは、置かれている。こっちは購入不可らしい。手に取ったら雪崩れてしまいそうで、ディスプレイの一部分になっていた。

国会図書館でキネ旬を見るときはいつもデジタルで、使いづらいwindowsの画面から、永遠にぽちぽちと見ている。だから、キネ旬は私の中でデジタル化されてしまったもの、みたいな印象が本当に強く、こうした生身のキネ旬をみると、ゾワっとしてしまうのです。

映画のポスター、告知のポスターチラシ、新作映画のチラシ、他館のスケジュールなどの他にも、地域で開催するイベントの告知や、個人で出しているフリーマガジンのようなもの、ポストカードや名刺などが並べてあったり、置いてあったりして、見ているだけで、住みたくなってくる。

異なる街には、異なる人々が創作活動を行い、知らせをかけつけた人が集まる。そうして街は潤っていく。

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ということで、上映時間になった。場内横の入り口から、スタッフにチケットをみせ、入場。写真で見たことある、天井の装飾。残念ながらタイミング悪く、写真を撮ることができなかった...(興味ある人はググってくださいね)

赤いシートは座りやすい。中央に通路があるのを除けば、長方形の場内の形といい、スクリーンの見上げる角度といい、大きさといい、早稲田松竹とほぼ同じように思える。だから、どこか落ち着く。

お客さんはかなり入っていた。おじさん中心、若い女性も男性もいるし、老夫婦もいる。でも一人が多かったかな、やっぱりね、どこもね。

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観た作品は、恩地日出夫の『若い狼』。とってもよかった。こういう意表をつかれる「よさ」を、わざわざきた大阪の地で体感できるのが、何より嬉しい。

シネ・ヌーヴォはフィルムでの名作上映プログラムが基本的には組まれている。午前中と昼にかけて、そういった特集上映が続いている。

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今回は、「東宝青春映画の系譜」です。『若い狼』の他にも、観たい作品はたっくさんあった。今回たまたま時間と日程的に、『若い狼』だっただけだ。

こういった日本映画をフィルムで定期的に観ることのできる場所は、日本で数少なくなっている。前回の紀行での、岐阜のロイヤル劇場と、シネ・ヌーヴォと、都内の劇場いくつか、あとはどこがあるだろう。めぐる中で発見できたり、増えたりすれば嬉しい。

映写機を持っている映画館も限られる中で、フィルムで観ることの貴重さ。そして、至福... 映像が、光が映る前の、カラカラという音が大好き。

私にとって、フィルムでの映画鑑賞は、「日常的な行為」に近いものである。というのも、東京にいた時は、散々フィルムの上映会(渋谷のシネマヴェーラ、文芸坐、神保町シアターなど)に行っていたからだ。

上映に出かけることは、私の生活に密接に結びついていた。学校帰り、バイト帰り、そんなスケジュールの中、昼間にしろ夜にしろ、深夜にしろ、私はフィルムのカラカラとした音を聞きに行っていたのである。

だから、わざわざ大阪に来ても、初めての劇場であったとしても、フィルムが回れば、光が映れば、私の「日常」は始まるのである。

申し訳ないけど、「映画館は非日常的な空間」という言葉には、私は反対です。薔薇の彫刻も、天井の装飾も、圧巻のサインも、古びたキネ旬の列も、一旦フィルムが回り始めれば、浮かんでは消えていく。そして、知らぬ間にすっかり忘れ、私の「日常」は訪れる。

良い時間が終わり「日常」は終わった。そして明かりがつき、ここが大阪で、シネ・ヌーヴォという箱であることを、天井の装飾を観て思い出した。

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上映が終わって、そのまま帰る人もいれば、外に出て談話する人もいる。ロビーである廊下は狭いから、休憩に外に出ているのだろう。自転車に乗って帰る人もいる。スタッフの人は明るく、かつ忙しなく、声かけながら掃除をする。

少し名残惜しい気持ちがある。もっとここにいて、フィルムの音を聞いていたいし、日常と非日常の狭間を楽しみたい。

だけども、私には次の目的地がある。さらなる映画館が、私を待っている。

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