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原初舞踏、歩行の稽古の中で見えた世界

昨日は原初舞踏の稽古がありました。歩行の稽古の中でいくつものステップがあって、それはとても意欲的な実験的な試みだったと思います。

全身全霊で歩くところから、立ち止まり、目を閉じて足の裏を感じると、足の裏がセンサーとなり目となっていきます。ほんの少しだけ身体を動かすことで、その向こう側にいる自分の影?分身?を感じながら、どんどんと自分という存在の領域が大きくなっているのかも知れません。

ここまでは以前の稽古の中でもやったことでしたが、昨日の稽古ではここからさらに深まる動きがありました。

膝を少し曲げながら、緩めながら、どんどんと落ちていくことを体感します。これは落下にも通じる感覚で、少し膝を曲げることでどこまでも落ちていくということを感じていました。

次に足を伸ばしていくと、今度は上に上に上昇することが起こります。そしてある程度上がったら、また膝を緩めて落下します。

それを何度か繰り返した後で、また目を開けて、さあ歩いて見てと言われた時に、最初のようには歩けなくなっていました。

一歩ということの意味が、たぶん変わってしまったということなのかも知れません。一歩を踏み出すために、たぶん最初に歩いた時の何百倍もの意識を動員しないと動けないということを感じました。

でも、なんとかそれをやり遂げて、一歩二歩と足を前に進める時には、世界を引きずって前に進むというくらいに自分自身の存在が濃くなったような気がしていました。

そして数歩進んだところでまた止まり、そこで目を閉じて、また同じように足を感じ、落下と上昇を繰り返しましたが、その時にあった最上さんからの指示は手を太もものところにつけて封印するということでした。

手を封印したことで、心許なく感じましたが、体感は何倍にも濃くなったような気がします。これまでどれだけ手に頼ってきたのか、手を動かせることでどれだけごまかせていられたのか、突きつけられたようでもありました。

その状態で膝を緩めて落下していくことで、先ほど感じていた時の落下とは比べようもないほどに、落下しました。手が使えないので落下に対するコミットが深くなったということなのでしょうか、抗えないので、もう落ちるしかないという感覚の中で、手が使えないことで落下がより真剣な落下になり、上昇が抗いようのない上昇になったというようなことを感じました。

しかしその分、膝の使い方で、落下したり、上昇したり、自由にできるということもわかり、なんだか基本の原理はこういうことだったのかとわかったような感じがして、手を使えなくても、怖くはないということを感じるようになったかも知れません。

そこで目を開けてと言われ、言われるがままにゆっくりと顔を上に向けて動かしていきます。視線の先には壁があり、天井が見えてきますが、感覚としては広大な空間が広がっていくのを感じていました。

そのままゆっくりとゆっくりと顔を下に向けていくと、下には奈落の底が見えるようで、気がついたら、自分は切り立った崖の上に立って、千尋の谷を見下ろしているということを感じて戦慄が走りました。

右に顔を向け、左に顔を向け、どの方向にも広大な空間が広がっていて、自分がまるで針の先端に立っているかのような感覚になっていました。

上にも広大な空間が広がっていますし、下にも底が見えない奈落が広がっているという感覚の中で、目を見張りながらそれを見ていました。

すると、そこで手を解放して、手だけで踊ってみて、と聞こえてきました。

そっと手の封印を解くと、手は震えながら、戸惑いながら、動けることの意味を噛み締めるように、確認をしているようでした。

手の触れる空気の層を感じながら、動くことで微かに生じるさざなみのような響きを感じながら、桃源郷の中にいるようだと思いました。

音楽が聞こえてきて、身体は徐々に上に伸びていく感じがして、手も上を目指して行く時に、感極まって泣きそうになりました。手を上に伸ばしながら、全身アムリタに包まれて、このまま気を失ってしまうんじゃないかと思った瞬間に、ふっと無重力の場所に出たような気がして、先程まで広大な空間であり、千尋の奈落であったはずの空間が、すべて自分の内側にあったのだということを見たような気がします。

そこはたぶん気を失うか失わないかの境目のようなところだと言ってもいいのではないかと、ようやく今になって、たぶん稽古から12時間くらい経った今になって、振り返りながら、反芻しながら、思い出しているという感覚で、これを書いています。

稽古の直後にはこんなふうに言葉にはできなかったのですが、時間が経って一度微睡の中に入ってから、ようやく何が起こったのかを書くことができたという感じがします。

とても濃厚な体験でありました。どんどんと深まっていると感じられて、本当に幸せです。ありがたいです。

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