先取り温泉
数ヶ月前に酔っ払った親類が深夜にそのノリで予約していた温泉 月日は瞬く間に流れて当日はやってきた
いざ行かん山の頂へ がしかし私だけ夕方からの現地集合になってしまった ひとりで山道を向かうのは気が重かった
しかも天候がぐずついた さらに15時ごろに先発隊から「濃霧やばいよ」と連絡が入った
しかしそれで俄然スイッチが入った 謎の闘志に満ち満ちた
濃霧やばいよ=もしかしたら日暮れには山登り無理かも=あなたキャンセルかもね=キャンセル料100パーセントの意味だった
だからこそいや絶対行ったる温泉浸かったると心に決めて出発した
麓まで来た 薄暗かったがとりあえず下界はただの曇天だった 念のためスーパーでお菓子と飲み物を買った
山道を登り始めた 途中まで軽トラが前にいたのでどこまでも着いて行きます先輩のスタンスで進んだが、地元の方だったらしく早々にいなくなった
前にも後ろにも動くものの気配が消えた
そして霧は突然襲ってきた 唐突にぶわっと包まれ真っ白の世界 合間合間に途切れることはあるものの数メートル先の視界も遮られた
ぐねぐねの山道は長い 誰ともすれ違わない だんだん三途の川を渡っている気分に陥った
三途の川を渡りかけた話を昔母から聞いたことがあった 渡りかけた橋の途中に祖母が立っていて「まだあんたは早い」と追い返されたらしい そこで意識が戻ったとのこと
わたくし意識はあるのだが、目の前が幻想的すぎるのと現実的に危険なのとでこの車止まってんじゃないかと何度も錯覚した
それでもどうにかこうにか目的地に着いた 雲仙岳だ
濃霧の中から地獄めぐりをするそぞろ歩きの人たちが不意に出てくる光景はまるで幽霊のようだったが、それでも人に会えてほっとした
旅行は計画的に 温泉は日のあるうちにチェックイン ご無事でなにより ナターシャ