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眉上小話
デパートメントストアで売られているコスメティック=通称デパコス
わたくしのことをよく知るカルエさんならば、デパコスとナターシャは接点皆無だと安易に想像出来るだろう 実際メイクとあまり縁のある人生ではないし
しかし実は年に一度か二度何かに導かれるように売り場を訪れ、鏡の前にしれっと座ってみたりする
デパートの一階に華々しく居を構え、競うように眩しいほどの煌めきを放つコスメブランドの数々
その昔は老若男女が止めどなくなく流れるフロアにて熱心にメイクを施してもらう人を、絶対無理恥ずかしいと思って横目で見ていた
これが自分がそっち側になってみるとどうだ 不思議なのだが全然恥ずかしくない 周りの気配がすべて消え去るのだ
それを知ってからちょっぴりハードルが下がった
美容部員さんにメイクをしてもらい、その後会った人にべた褒めされたこともあった やっぱりメイクって意味あるんやなあとかなり遅咲きの手ごたえを感じたものだった
とはいえご存じの通り現在もメイクの腕はまるで上達せず、日常に反映されていない 億劫であるのも変わりはないが何かのタイミングではしばしば訪れるようになった
先週末 親戚の姉たちとの会食があった 猛烈な湿気が満ちその日の髪型は太ったキノコ型だった この爆発を抑えるべく朝から帽子を深く被って出かけた
会食前にその日は眉毛を描くペンを買いたかった 数か月前から買いたかったが、正直眉毛ペンがなくても立派に自眉が生えているタイプなので切羽詰まってはいなかった
決まった眉ペンを買うだけなのに鏡の前にいざなわれるのがデパコス そしてその1本を買うのに時間がかかるのがデパコス
眉毛描きましょうかぁと言われたが帽子を取りたくなくてそこはきっぱり断った だが鏡の前で待っている間、小さい小瓶が目についてうっかり触ってしまった
すかさず「それ新商品ですぅ」と言われた「しまった」と思った時には遅かった その小瓶は頭皮ケアでミントっぽいすーすーするやつだった
結局帽子をとるはめになった 帽子を取ってもキノコなナターシャに動じることなく小瓶から数滴を頭に垂らしてくれた
ほらすーすーするでしょー暑い日にはもってこいのアイテムですよぉ そう言って優しく頭をマッサージしてくれた
見渡す限りこの気取ったフロアで頭を揉まれて私だけだった それにどうしよう すーすーしなかった
あれすーすーしません と普段から心の声が漏れがちなナターシャは言ってしまった
綺麗な彼女の顔が引きつった そして追加のミントを頭に投下し、力強く揉みだした
キノコ頭が違った意味で崩れ去った
この現状は客観的に相当おかしかった しかしここで笑い出してはやばい人だと思われそうなので耐え、彼女がお会計をしている間もすーすーを求め自分で必死に揉み続けた
もはや罰ゲームの様相だった
そしてカードの暗証番号入力するタイミングできた すーすーがやっときたのだ
「今来ました!」嬉々として彼女に伝えると、彼女も嬉しそうに「来ましたか!」と心底喜んでくれた
一瞬謎の達成感に包まれたが、鏡にうつる自分にすぐさま我に返った
それからミント臭漂うぼさぼさの髪の毛を撫で付け、何事もなかったように帽子を深く被った
ナターシャ
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