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ASIAN KUNG-FU GENERATION 「エンパシー」を聴いてほしい。

ASIAN KUNG-FU GENEATIONとは

 ASIAN KUNG-FU GENERATION。通称・アジカン。1996年、関東学院大学の同級生で結成。
 2003年のメジャーデビュー以降現在に至るまで日本のロックシーンをリードし続け、現在活躍する多くのバンド、アーティストに影響を与えたグループである。
 代表曲はこのあたりだろうか。

遥か彼方(2003)
「TVアニメ「NARUTO」オープニングテーマ」

リライト(2004)
「TVアニメ「鋼の錬金術師」オープニングテーマ」

ソラニン(2010)
「映画「ソラニン」主題歌」

荒野を歩け(2017)
「映画「夜は短し歩けよ乙女」主題歌」

 上記の楽曲も含め、多くのアニメ、映画の主題歌にもなっているため、ファンでなくてもどこかで聴いたことのある楽曲もあるかもしれない。
 そして2021年、バンド結成25周年イヤーに発表された新曲「エンパシー」が文句なしの名曲だった。

エンパシー

 ゴッチがマローダー弾いている!というファンしかわからない感想はさておき、この曲、近年では珍しいアジカン王道サウンドである。
 サビの疾走感、キャッチーなギターリフなど、パブリックイメージのアジカンを表面的には全うしているようにも見える楽曲である。
 実際、この楽曲は映画「僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールド ヒーローズ ミッション」の主題歌として制作されている。

 映画版では菅田将暉sumikaが、TVアニメ版では米津玄師amazarashiMAN WITH A MISSIONといったアジカンよりもずっと後にデビューしたアーティストが起用されることの多かったヒロアカアニメの主題歌に、アジカンが起用されたことは、ファンとしてどこか誇らしかった。
 そして、世界にもファンの多い「ヒロアカ」の映画主題歌ということもあり、バンドは近年あまり出すことのなかった「王道アジカンサウンド」を鳴らすことを決めたのだろう。

触れたい 確かめたい(2020)

 実際「エンパシー」は王道サウンドではあり、「ソラニン」などを彷彿させるエモいメロディなどは思わず聴き入ってしまうが、Aメロの手数の多いドラムパターンやサビ後の美しいピアノなど、確実に2021年の最新アジカンサウンドとしても機能しているように感じられる。

 しかし、アジカン、特に中心メンバーの後藤は王道アジカンを作ることを避けているようだった。
 実際、2021年7月26日に出演した日本テレビ系「バゲット」のインタビューでは「(タイアップなどでは)リライトを求められる」「リライト2をやりたいわけではない」という趣旨の発言をしている。

ブラッドサーキュレーター(2016)
「TVアニメ「NARUTO -疾風伝-」オープニングテーマ」

 上記の「ブラッドサーキュレーター」のような例外はあれど、近年、THE アジカンといった楽曲を求められた場合、作曲は後藤とベースの山田の共作、というパターンをとることも多くなっていたアジカン。
 しかし、今回の作曲クレジットは後藤単独。後藤が新たな王道アジカンサウンドを作るにあたって、どのような試行錯誤を行ったのか。それは参加メンバーがカギを握っていた。

若手をメジャー舞台へ

 今回アレンジャー兼プロデューサーとして楽曲に携わったのがthe chef cooks meの下村亮介(シモリョー)である。

 近年はアジカンのライブのサポートキーボードを担当しているだけでなく、後藤のソロアルバムにはシモリョーが、the chef cooks meのアルバムには後藤が密に関わるなど、後藤にとってシモリョーはまさに右腕、ベストパートナーと言っても良い存在である。

 上記の後藤のツイートのように、「アジカンらしさ」の更新のため、バンドはシモリョーをついに制作現場にも招き、新曲制作に取り掛かることとなった。
 さらに。

 これらのツイートのうち表題曲「エンパシー」に関わる人物を説明すると、

・伊吹文裕・・・the chef cooks meサポートドラマー。
・西田修大・・・中村佳穂、ROTH BART BARON、KID FRESINOサポートギター。
・井上陽介・・・Gotchソロアルバム『Lives By The Sea』ギター参加。
・古賀健一・・・Gotchソロアルバム『Lives By The Sea』ミックス担当。

 4人中3人が後藤のソロワークに今まで何かしらで関わってきていた(昨年12月に出た後藤のソロアルバムは名盤である)。そして、もちろん彼らは普段それぞれの現場で大活躍している(西田がサポートしているミュージシャンの名前を見ればそれがよくわかる)が、世間的にアジカンほど名前が通っているわけではない。

 そんな若手のミュージシャンたちをバリバリメジャーなアジカンのシングルで、しかも「映画ヒロアカの主題歌」という超大型タイアップ曲で多く起用することは、楽曲自体のクオリティを飛躍的に高めたことはもちろんだが、彼らのミュージシャンとしてのスキルや名前を、より多くの人に(それこそアジカンに興味のないヒロアカ・アニメファンにまで)まで広めることも可能にした。
 人気アーティストがまだそこまで名前が売れていないミュージシャンを引っ張ってくることはシーンとしても重要に思える。
 2016年の宇多田ヒカルのアルバム『Fantôme』では当時まだ世間一般にはそこまで浸透していなかったKOHHをフィーチャリングに起用し、「忘却 featuring KOHH」という名曲を作り上げた。

 2017年に米津玄師が発表した「爱丽丝」ではまだブレイク前の常田大希(KIng Gnu)を、編曲&ギターとして起用し、その後の常田のブレイクの入口を作った。

 海外でも大物アーティストが若手のラッパーをフックアップする動きがあるなど、ある種コラボ文化が普通になっている現在の音楽シーンにおいて、若手の発掘は人気ミュージシャンの仕事の一つとも言える。
 そして今回のアジカンの新曲で、後藤は自分のソロで繋がりのあるミュージシャンを動員し、「王道アジカン」の更新に成功しただけでなく、シモリョーら自分が信頼し愛するミュージシャンに、メジャーフィールドでの活躍の機会を与えることに成功した。
 アジカンが次の世代へバトンを渡すことについて意識していることは2018年のアルバム『ホームタウン』のころからインタビューなどでも読み取れていたが、2021年にリリースする「エンパシー」はそれらに対する1つの答えにも読み取れる。

最後に

 「イントロのギターとゴッチの歌でもう感動」「サビが高揚する!」「歌詞から滲み出る希望」「フラワーズ壮大!」「ermhoi!millenium parade!!」などまだまだ言いたいことはあるのだが、楽曲の感想よりも、この楽曲が持つ意義のようなものを「アジカンとミュージシャンの繋がり」という視点から書いてみたくなった。
 デビューから何十年も経つと、新曲を聴いても昔のほうが良かった、という感想ばかりになることもあるが、「エンパシー」は間違いなくアジカンをフレッシュにする楽曲となり、今後のバンドにとってもカギとなる曲になるに違いない。
 本当にアジカンはここぞというタイミング(特に大型タイアップの場合)で外さない。これはもうある種の才能だと思う。
 結成25周年でここまでの名曲を作っちゃったのだから、11月に行われる「ASIAN KUNG-FU GENERATION 25th Anniversary Tour 2021 "Quarter-Century"」はすごいライブになるだろう。
 そして現在制作中と言われている10枚目のオリジナルアルバムも。
 まだまだ自分はアジカンを好きでい続けるのだろう。

 THE FIRST TAKEもいいっすね。


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