【海外レポート/内装編】店舗デザインから紐解くオーストラリアの文化
はじめに
はじめまして。
デザイン会社&Supplyのインテリアデザイナー、ドテウチと申します。
&Supplyがどういう会社で日々何をしてどこを目指しているのかなど、
皆さんに知っていただけるきっかけとなればと思いnoteを始めました。
拙い文章ですが、最後までお付き合いいただけると幸いです。
まずは簡単な会社紹介をさせてください。
&Supplyは2023年1月現在、役員含め社員数13名の小さなデザイン会社です。(自社飲食店スタッフの社員数6名含む)
デザインスタジオとしてグラフィックやスペースデザイン、そのアウトプットのショーケースとしてLOBBY、nephew、Honeの飲食店3店舗とライフスタイルブランドMYTONEの自社運営をしています。
デザイン事業は、主にイラストから壁画制作まで行うグラフィックデザイン、店舗の空間設計や家具デザインなどのインテリアデザインの2つのチームがあり、自社店舗含め空間にまつわる様々なデザインに携わっています。
今回は年始に訪れたオーストラリア研修について書いてみたいと思います。
久しぶりの海外から得た気づきや、最初に訪れた3年前と比べ、
どういったインプットの変化があったかなどを記せればと思います。
出発〜ゴールドコースト
出発は年始2023年1月3日から11日まで、移動を除き丸1週間の行程です。
スケジュールは下記の通り。
1日目:東京発 フライト移動
2日目:ゴールドコースト発 車移動 バイロンベイ着 視察
3日目:ゴールドコースト発 フライト移動
4日目:メルボルン着 視察
5日目:メルボルン視察
6日目:メルボルン発 フライト移動
7日目:シドニー着 視察
8日目:シドニー視察
9日目:シドニー発 フライト移動 東京着
初日は18時に成田空港に集合。
久しぶりの海外ということで、
不安や気持ちがはやり、待ち合わせ時間の1時間前に空港に到着(笑)
NetflixでI.W.G.P.をダウンロードしている間に他メンバーも集合。
年始の挨拶から始まるのがとても新鮮です。
※I.W.G.P.=池袋ウエストゲートパーク
メンバーは前回同様、代表の井澤、倉嶋に加えてシェフの富田と私ドテウチの4名。
行きのフライトは夜間搭乗のため、
搭乗前にアルコールをいれて、あとは寝るだけです。
I.W.G.P.2話の途中あたりで寝落ちし、
あっという間にゴールドコースト空港着。
最近、解禁されたI.W.G.P.にハマる一行。
オーストラリアの気候と「ブクロ最高っ!」な感じで気分も高まります。
オーストラリアは南半球なため、1月は真夏。最高気温は30℃くらい。
初日のゴールドコースト以外はカラッとしていて最高な気候でした。
バイロンベイ編
最初の目的地バイロンベイへ向かうため、レンタカー屋へ。
僕と倉嶋は、この日のために国際免許を取得。
※普通免許さえ所持していれば、国際免許は即日2,3千円で発行可能です。
バイロンベイは、ニューサウスウェールズ州にある
オーストラリア最東端の港町。
世界中からサーファーやミュージシャン、芸術家などが集まってできたヒッピータウンで、近年注目のエリアで新しいお店も増えているとのこと。
道中、気になるお店を散策しながら、その新店が集まるJonson Laneという
3ヶ月ほど前にできた商業施設へ向かいます。
ここでは、特に印象に残った2店舗をご紹介します。
まずはバイロンベイの中で、一番期待値が高かったレストラン
Pixie Food & Wineへ。
このレストランは、ACE HOTEL SYDNEYを手掛けるFlack Studioが内装を担当しています。
https://www.instagram.com/flackstudio_/
さすがACEの設計チーム。
床タイルの一部にテラゾータイルを混ぜたり、イエローの摺りガラスとグリーンの中判タイルの組み合わせ、ジグザグに角度のついた独特なカウンターデザインなど、遊びの加減が絶妙です。
どこを切り取っても素材と色の組み合わせが新鮮。
かけ離れた素材ばかりではなく、身近なものに意外なアレンジを加え、異素材が溢れていながらまとまりがあるそのバランス感。
(天井仕上げである艶有りのマスタードもツボでした。)
床と壁のタイルサイズを合わせたり、カウンター腰のジグザグの意匠を引き出しにも用いたり。
全体から細部まで設計ルールが守られているからこそ、これだけの要素が有りながら、まとまりを感じる空間になるのか…とても勉強になります。
そしてこの空間に一体いくら掛かったんだろうか。
色々な意味で圧倒されっ放しのまま、次のお店Bar Heatherへ。
入り口の扉を開けるとカーテンで仕切られた風除室に。
まるで非日常の入り口かのよう。(行ったときは日も沈み、スピークイージーのBARやクラブの入り口みたいな怪しさに期待が高まります。)
カウンターレイアウトは昔から憧れていた松屋スタイル(笑)
※コの字のカウンターを縮小した感じ
スタッフがお客さんに囲まれるこのレイアウトは、まるでカジノゲームのような一体感を生み、隣のグループや向き合いで会話が広がったりと独自のコミュニケーションが期待できそう。
ちなみにこちらのデザインはMiles&Thorpという建築ユニット。
ここはPixieのようなデザイン的な大胆さはないものの、建築家らしい計算された納まりが魅力的です。
木と金物天板の取り合いやパーテーションガラス、リブの腰壁など、オーセンティックな意匠を現代らしくクリーンな設えでアップデートしています。
近隣のボトルショップ「Luna Wine Store」も同じ設計ユニットによるもの。
ここの什器もシンプルかつ丹精な収まりで高いデザイン性がうかがえます。
ナチュラルワインの種類も豊富でこちらも同じくおすすめの店です。
メルボルン編
2日目、一行メルボルンへ向かいます。
次の宿は、3年前にも宿泊したSt.KildaのThe Prince。
前回のオーストラリア研修で、個人的にとても印象に残ったホテルの一つ。
というのも当時、1Fのバーが工事途中でとても気になっていたため。
チェックイン後、早速見学。
https://www.instagram.com/theprincehotel/
一見、左官のような亜鉛メッキ天板や丸棒で組んだボトルラック、オーク無垢材の有機的な階段手スリ。既視感のない意匠とディテールの作り込みに感嘆の声が漏れます。
以前、工事中だったバーカウンターは、全長10mはあるんじゃないかというくらい巨大。
海外らしいダイナミックなサイズ感と木材+タイルの意匠に。
カフェテーブルの天板も銅製だったり、デザインに余念がない…。
引き続きメルボルン視察。
今回の旅で一番印象に残ったレストランOld Palm Liquor。
まず飛び込んできたのは、見たことのない横長のワインセラー。
幅5mくらいあるサイズにワインを横置きで収納されている作りはとても新鮮。まさにワインセラーがお店のアイコンに。
麻の天井パネルやシーリングファンは店名Old Palmの南国感を演出。
世界感のオマージュに力を入れすぎるとアトラクションのような空間なってしまうところ、
奥のキッチンタイルやペンダント照明、家具などに欧州のような世界観をミックスさせ、デザインのバランスを調整していたところがとても丁度良い雰囲気に。(さらに爆音で流れるジミヘンが最高。)
次に入り口に設けられた腰壁の造作。
客席数を多くできるところをあえてパーテーションのように区切ることで、客席と動線、路面と店内の間にちょうど良い干渉エリアを作り出していました。
この余白スペースが、ウェイティングや会計待ちなどの待機場所としても機能し、客席に座る人は通行人に気を遣わず、料理や会話に集中することができます。
単純な意匠としてだけでなく、オペレーションを考慮したデザインに自然と興味が湧くようになったのも、飲食の現場に携わってきたからこそ、と感じた瞬間でした。
バイロンベイやメルボルンのお店を周っていくうちに、3年前の記憶がじわじわと蘇ります。
それは色や素材が巧みに融合した既視感のない店内。
3年前のシドニーSurry HillsにあるBillsの内装を見て、同じような衝撃を受けた事を今でもよく覚えています。
オーストラリアデザインの特徴のひとつは、北欧感やNY感などいわゆる何々らしい、といったジャンル分けが難しいデザイン性にあると思います。
比較的、歴史が浅い国だからこそ、固定概念に縛られなく自由なものづくりの土着があのかもしれません。
またオーストラリアは18時や19時に閉まってしまうお店も多く、ワークライフバランスが日本と比べ、進んでいる印象がありました。
休日はもちろん平日でもカフェやレストランには、朝から老若男女が集まり、車で30分以内のビーチには家族カップルや友人らで、どこもとても活気に溢れています。
オーストラリアの人々にとって、自宅と仕事場以外の場所が、生活の中心にあるんじゃないかと思う程。
だから、コーヒー文化をはじめとしたオーストラリアの飲食店は、
生活に欠かせないない身近で重要な存在となり、自然とデザインや料理のレベルに競争力が生まれたのではないでしょうか。
シドニー編
研修5日目、旅も終盤に差し掛かり、メルボルンからシドニーへ向かいます。今夜の宿は、目玉の一つであるACE HOTEL SYDNEY。
ACE HOTELのチームは、ローカルのアーティストやデザイナーを巻き込んだ空間デザイン行うため、シドニーではどのようなACE HOTELになっているのかとても興味がありました。
まずはロビー。
いわゆるホテルの顔、どこを切り取っても画になる内装。さすがACE、感嘆の声が漏れ続けます。
オリジナルの家具にいくらかかっているのか、寄りかかり合う造作ソファや様々なタイル天板、天然石カウンターの出隅から見える真鍮など。ディテールに神が…何人いたのか数え切れません(笑)
そして期待のスイートルーム。(男性4名のため)
大きく取られた採光にL字ソファがダイナミックに気持ち良い窓辺を演出していました。
※下記は別部屋で少し仕様が違います。
水周りのタイルやオリジナル家具にアートワーク、そしてギター。
期待を裏切らない最高の空間。
これだけ期待値が高い中で、期待通りもしくはそれ以上の空間を生み出し続けるACE HOTELチームは、やはり唯一無二の存在感。
この日は、メンバーの誕生日ということで深夜まで宴。
ACE HOTELの夜を目一杯満喫しました。
翌日は前回、脳裏に焼き付いた最高なホテルのひとつ。
Paramount House Hotel。
ACE HOTELができてから比較されることもあるみたいですが、
どちらも宿泊することで、それがまったく別の存在だと感じました。
例えるならCONVERSEとVANS。(たとえ微妙だったらスミマセン。)
お互いの良さが別ベクトル過ぎて比較する意味がない、って思ってしまうような。個人的には、Paramountに若干軍配があがりますが、それは上記の通り、趣味の話しです。
両者の違いと好きな点を上げるとすれば、
Paramountは、ACE HOTELにはない「抜け感」があると思います。
それは、ラフとか無骨とかそんな単純なものではなく、
スタイルとしての「抜け感」。
スタッフのファッションやアートワークのバランス。
空間を含めた計算しつくされたというより、デザイン過程を楽しみながら作り上げた、というような良い意味での不完全さと人間らしい意匠という感覚です。
&Supplyが目指している空間デザインは、建築やインテリアが完成して終わってしまうものではなく、余白を残し人が加わることで生まれ変わり続ける空間です。
それが人や空間、随所から感じられるホテル。
だからParamount House Hotelが好きなのだと思います。
ついに最終日、オーストラリア最後の晩餐はester。
どこかで見たことある特徴的なアーチの内装。一店舗目のLOBBY立ち上げの際、井澤がレファレンスとして紹介してくれたレストランでした。
席は満席。若者のカップルや家族、仕事関係らしきグループなど様々な使われ方がとても印象的。
入り口から二手に別れるスロープの導線やその途中にあるテーブル席など、見たことがないゾーニング。
そして肝心の料理はやはり美味しく盛り付けが美しい…。
料理は見た目が9割なんて言いますが、どちらも欠けては行けない要素。
味が残り1割なんてことはあり得ない…(ですよね!?)
味覚や嗅覚それぞれに幾つもの複雑味があって感動的な体験でした。
加えて個人的に大事だなと感じたのは現場の空気。
お客さんやスタッフのライブ感です。
このお店に限ったことではないのですが、オーストラリアのお店はお客さんはもちろん、スタッフも皆とても楽しそうにしている。
それが何よりもその時間を印象深いものに。
最後の夜にふさわしい最高の料理で締めくくる事ができました。
翌日は早朝に空港へ向かいます。刺激的な毎日もあっという間。
旅の振り返りをしながら、飛行機に乗り込み、8時間かけて成田へ。
今年もさらなる飛躍の年となるよう、
気を引き締めてI.W.G.P.最終話を視聴。
さいごに
今回、研修を通してまた新たな価値観とアイデアに触れ、3年前よりもさらにオーストラリアを魅力的に感じることができました。
それは単にインテリア、グラフィックデザインが素敵だったからだけではなく、そこに集う人々が作る空気感という意味での空間を感じることができたから。
空間はあくまでも何か役割を持った箱。
そこに人が集まり、営みが生まれて初めて空間が魅力的になるのだと、
改めて実感した旅でした。
僕の仕事は、箱を作り続けることに変わりないのですが、「空気感」という箱を超えたもののデザインや、その場から生まれる人の行動や感情を含めた設計まで、もっと学んでいかなくてはと感じました。
次回は、さらに設計についての具体的な考え方や実践している方法などが投稿できればと思います。
最後までお付き合いいただき有難うございました。
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