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味のなこうど -パセリたまごサンド-



ある日、たっぷりとパセリを入れた、たまごサンドが食べたいと思った僕は、台所で卵を茹で、それを包丁で粗みじん切りにし、ボウルに入れ、塩、黒こしょう、マヨネーズ、ナツメグ、刻んだパセリをたっぷり入れてフィリングを作った。
耳を切り落とした八枚切りの食パンにフィリングを挟み、濡布巾をかけて、しばしサンドイッチを休ませる。
その間に、耳をトーストして、ディップ用のピーナッツバターとメープルシロップを用意した。
濡布巾をかけてから、十分ほど経っただろうか、中を確認すると、食パンの切り口にあった毛羽立ちが落ち着いていた。
食べごろである。

器にたまごサンドと耳のトーストをのせて、テーブルに運び、頬張る。
イメージしていたのは、自然と口角が上がるような、たまごサンドの安心感と幸福感が同時にやって来るような満ちた幸せの味。

だが実際は、それと違っていた。
「美味しいけど、なんか違う」どちらかというと、パセリをたくさん入れた分、大人の色気のようなものを纏った、やや化粧の濃い味なのだ。
決して完成度は高くない。口の中でパセリと卵がぶつかっている。
こういう時は、仲人を探さねばならない。

パセリの青臭さと卵のコクを持ち合わせた食材はなんだと考える…。
「エキストラバージンオリーブオイル」膝を叩き、パンを剥がして、オリーブオイルをかけ、また戻す。
それを再び頬張ると、さっきまでとは、別人のように、女性らしいやわらかさの中に凛とした貴賓を感じる上品な美味しさが広がった。

料理には、食材や調味料の組み合わせが不可欠だ。
言ってしまえば、新しい料理のほとんどはこれから生まれていると言ってもいい。
調理法は、煮る、焼く、蒸す、揚げる、和えるぐらいのもので、基本はそこから派生する「炒める」のような道具由来の調理法が加わるだけだ。
時折、時代の中で生まれる真空調理や、低温調理といった新しい調理法も出てくるが、それが、家庭の台所にまで浸透することは稀なことだと思っている。
ということは、いくつかの調理法を身につけ、あとは食材の組み合わせを楽しめば「人生は美味しい」ということになる。
食材の組み合わせは、味、彩、風味など、いろいろな側面で相性がある。
その中でも料理好きを名乗るものは、どうせやるなら「その手があったか!」と言わせるような組み合わせで料理を作りたいと思うわけだ。
僕の本棚にあるお気に入りの料理本を見る時も、組み合わせに感動することが多い。

実はこの「その手があったか!」を作るには、組み合わせを繋げる、「仲人」が必要になるのだ。

世の中で一般化されていない食材を組み合わせるときには、直接その二つを合わせても上手くいかないことがある。
味や風味がぶつかって、口の中に入れた時、一つにまとめたはずの料理がバラバラに感じる。きっと経験したことがある人も多いと思う。

どんな食材が仲人になるかと言うと、組み合わせる食材の両方の要素を持っている食材がそれらを仲良くしてくれる。

例えば、トマトとじゃがいもでサラダを作るとする。トマトの酸味と、じゃがいものまったりとした甘味。
その両方を持っている食材は、マヨネーズである。といった感じに、仲人を探す。
仲人は必ずしも調味料というわけではない。
トマトのみずみずしさと、じゃがいもの土臭さとなれば、それはビーツとなるかもしれない。

味のなこうど、それは新しい料理の強い味方なのだ。

つくり方の補足。
フィリングにオリーブオイルを混ぜるのではなく、食パンの片側にフィリングを乗せたあと、その上にオリーブオイルをかけて、もう一枚を重ねる方が、オリーブオイルの良さが際立つ。

材料(ひとり分)
食パン 2枚(8枚切り)
たまご 2個
パセリ 1枝(みじん切り)
塩 少々
黒こしょう 少々
ナツメグ 少々
マヨネーズ 大さじ3
オリーブオイル 小さじ1
*ピーナッツバターとメープルシロップ

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