「いくつもの週末」を読んで
「いくつもの週末」は、江國さんがまだ新婚でいらしたころのあれやこれやを書いた作品を集めたもので、たくさんの名言がちりばめられています。
結婚うん十年になった今になって、なるほどと納得できることを、江國さんは既に当時、こんな細やかな表現で描写することができるほどに感じ取っていたのだということに、まず感心しました。
「甘やかされることについて」は、収められている十六作品の中ひとつです。
そう?
なのか?
最初はピンとこないまま読み進めて、私は次の言葉に、はたと膝を打ちました。
そう!
なのか!
と、?が!に変わった瞬間です。
親と過ごした時間よりもはるかに長い時間を共にしている夫と、恥ずかしながら、いまだに、ほぼ毎日のようにちょっとした小競り合いが絶えません。
原因はどれも取るに足らない、日々の些末なことです。
使ったものは元に戻す。
開けた引き出しやドアは閉める。
ゴミ出しの日を覚えておく。
使わない部屋の電気は消す。
挙げるのも恥ずかしいくらい小さなことです。
それでも、そのことにいちいち引っかかってしまっていました。
使った人が、使ったものを元に戻すのが正しい。
開けた引き出しやドアを、開けた人が閉めるのが正しい。
ゴミ出しの日を覚えておくのは当たり前で正しい。
使わない部屋の電気は、使った人が消しておくのが正しい。
当たり前や正しいで自分達をがんじがらめにしていたのです。
挙げ句のはてには、自分が正しくて相手は間違っていると思い込む。
自分が正しいことを相手に認めさせたい。
そうやって、気持ちがどんどんエスカレートしてしまうのです。
でも、江國さんは、
と書いています。
そして、
と心強く言い切ってくれています。
そうなのです。
正しくあらねばいけないと思うから、つい相手を追い詰め、結果、自分を追い詰め、どこにもいけない不満が爆発してしまうのです。
大人の特権で、上手に甘やかしたり甘やかされたりすることができれば、結婚生活はもっと楽で息のしやすいものになるはずです。
そうなれば、結婚というものは、案外いいものだと思う今日この頃です。