クラウド化する建設データの可能性と民主化する3Dデータの動向
お久しぶりです。ANDPAD ZERO 研究開発グループの菊野です。
本日は、「クラウド化する建設データの可能性」というテーマでお話したいと思います。
昨年10月に開催されたArchifutureというイベントに関するnoteはご覧いただけましたでしょうか?実は私もこのイベントに参加し、テクニカルフォーラムというステージに登壇しておりました。登壇のテーマは「クラウド化する建設データの可能性」で、ウェブ上での3次元データ、いわゆるWeb 3Dの近年の動向について説明させていただいていました。少し前の内容になってしまい恐縮ですが、、、今回のnoteではその内容を共有させていただければと思います。
クラウド化する建設データの可能性と民主化する3Dデータの動向
建築・建設に関わる皆さんであれば、国土交通省のPLATEAUに関するニュース、様々なSNSに投稿されるフォトリアリスティック3DモデルやNeRFなど、日頃から建設に関する3Dのデータを目にする機会が日に日に増えているのではないのでしょうか。
建設データが近年急速にクラウド化していっていると私自身も感じていますが、このクラウド化の促進の背景には、大きく3つの要素があると考えています。
それは、「①ウェブベースのグラフィックライブラリのパフォーマンスの向上:WebGLの進化」「②データ共有形式の一般化:IFCの進化」そして「③PhotogrammetryやLiDARなどの3Dモデルの生成技術の普及:デバイスの進化」です。この三つの技術が建設データのクラウド化を促進する起爆剤となっていると言えると思います。
ここから、これら3つの進化がどのような変化をもたらしたかを説明できればと思います。
❶ウェブベースのグラフィックライブラリのパフォーマンスの向上:WebGLの進化
WebGL(Web Graphics Library)とは、Apple、Firefox、Google、Operaといった競合企業が共同で設立したワーキンググループによって生まれたAPIであり、異なるウェブブラウザ上でも一貫性のある3Dモデルの表示を可能とするものです。WebGLは、協調領域(競合企業が協調して開発し、どの製品にも共通して搭載すべき機能)としての役割を果たすことで、従来懸念されていた各OSごとのGL対応の必要性を軽減しました。
初期のWebGLは、OpenGLのWeb版として開発され、パフォーマンスは基本的なレベルに留まっていましたが、それでもSafari、Chrome、Firefox、Operaといった主要なブラウザにサポートされていました。しかし、その後のWebGL2の公開により、パフォーマンスは大きく向上しました。特にiOSでは、WebGL2をMetal(iOSのローレベルのグラフィックス API)に直接接続することができ、描画速度などのパフォーマンスが一層高まりました。
さらに進化を遂げたWebGPUでは、WebGL2での課題であった、異なるOS上のブラウザで3Dを表示させるときのグラフィックライブラリの互換性が解消された、パフォーマンスの向上が期待されています。このWebGL2の技術はオープンソースであり、PLATEAUの基盤となるCesiumや、BIMデータの描画に用いられるthree.jsなど、様々な分野で活用されているAPIです。
❷データ共有形式の一般化:IFCの進化
過去のnoteでもBIMやIFCについて取り上げたことがありますが、ここでは特にIFCの近年の進化に焦点を当てます。
IFCは、建設業界でオープンに使用できるデータ構造のフォーマットであり、国内外問わずBIMデータの納品に広く使用されています。IFC2x3は日本語にも対応しており、日本国内でも広く利用されています。
IFC2x3からIFC4への進化は、主に既存のIFC2x3の改善に焦点を当てたものです。特に、設備や構造に関するスキーマの大幅な改善、NURBSオブジェクトへの対応、GISとの相互運用性の向上など、実用的なデータ構造としての進化が見られました。
IFC4.3では、土木領域のスキーマが導入され、IFC5においてはこれがさらに拡張される予定です。これにより、ビルディングと土木(BIM/CIM)の間での共有フォーマットとしての拡張性が期待されています。
シンガポールではIFC-SGが独自に準備され、申請に必要なスキーマが整備されており、国にローカライズされた仕組みが確立されています。
日本でもIFCに関するスキーマが整備され、IFCを活用した建築確認申請やBIMの利用が現場でより実用的なデータ構造として進化し続けることが期待されています。これにより、建設業界のデータ管理やプロジェクトの効率化がさらに進むことが期待されます。
❸PhotogrammetryやLiDARによる3Dモデルの生成技術の普及:デバイスの進化
LiDARとPhotogrammetryの普及は、3Dモデリングと建設データの取り扱いにおける大きな進歩に寄与しています。
2012年頃、GoogleのSketchupが無償で公開されたことにより、フリーモデリングツールとして広く使われるようになりました。
これにより、Google SketchupやGoogle Earthの3Dプラットフォームを通じて、建設データがクラウド上に広く投稿されるようになりました。しかし、これらのデータの維持管理と常に最新の状態に保つことには限界があり、特にGoogle EarthのAPIは2015年に停止しております。
2020年以降、iPad ProやiPhone Pro、さらには多くのAndroid端末にLiDARセンサーが搭載されるようになり、モバイル端末を使用して比較的高精度の3Dスキャンを容易に行えるようになりました。
LiDARで点群データを取得し、SfM(Structure from Motion。ある対象を撮影した複数枚の写真から、対象の形状を復元する技術)であるPhotogrammetry技術を使用してモバイル端末でデータ処理を行うことで、ある程度の精度を持つ3Dモデルを容易に取得できるようになりました。
さらに、モバイル端末上で画像認識技術が進化し、撮影しながらオブジェクトの特定の部位を識別できるようになりました。従来は高性能なゲーミングコンピュータを使用して3Dモデリングを行い、属性情報を手動で付与していた作業を、現在は、モバイル端末上で自動的に行えるようになったことを意味します。これは、わずか10年前には考えられないほどの進歩です。
また、LiDARセンサーの小型化、精度向上、コストダウンにより、複雑な建設データの作成が以前にないスピードと精度で進化を遂げています。そして、Photogrammetryで生成された3Dデータが、各メーカーが整備しているBIMのファミリオブジェクトと連携し、スキャンデータから直接属性情報が付与された高精度なBIMモデルが生成される日も近い未来に実現することが期待されています。
このような技術の進歩により、建設業界は大きな変革を遂げ、設計から施工、維持管理に至るまでのプロセスが効率化し、より正確で詳細な情報に基づいた意思決定が可能になるでしょう。
この辺りにご興味ある方は、是非以前藤田さんが投稿された、「いろんな3Dスキャンを試してみる」をご覧ください。
さいごに
WebGLの進化、IFCの発展、そしてLiDARとPhotogrammetryの普及は、建設業界とデジタルモデリングの融合において画期的な進歩を示しています。これらの技術は、従来の手動モデリングや不連続なデータ管理から、リアルタイムで精密な3Dデータをクラウド上で扱う新時代への移行を促進しています。
特に、LiDARセンサーの普及とPhotogrammetry技術の進化は、モバイル端末上での高精度な3Dモデリングを実現し、これまでのゲーミングコンピュータに依存したモデリング作業を大幅に変革しました。さらに、これらの3DデータがBIMのファミリーオブジェクトと連携し、より高度な属性情報の自動付与が可能になる見込みです。
これらの技術進化は、オープンソースと非営利団体の管理のもと、建設・都市データのクラウド上でのプラットフォーム化を加速しています。Google Earthの3Dプラットフォームの無償化やGoogle SketchUpのモデリングツールの無償化だけでは成し遂げられなかった進歩です。これにより、WebGLやPLATEAU、IFCが提供した協調領域の整備とオープンフォーマットの推進がさらに拡大しています。
この技術革新の流れは、非常に興味深いものです。アンドパッドとしても、この進化を支え、オープンソースとオープンフォーマットの推進に貢献し続けることが重要です。このようにして、建設業界のデジタル変革を促進し、より効率的で精度の高いデータ管理とプロジェクト実行を実現していく一翼を今後も私たちは担っていきます。「我こそは一緒に」と考えられる方がいましたら、是非お問合せください!