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【不可思議見聞録#1】黒い蝶

 私が物心ついた頃から続いていた或る事。

 毎年夏になると、父と母と私は群馬県にある母の実家に1か月程滞在した。母の実家は農家で、夏はみょうがと枝豆の出荷があり、とても忙しい。私も幼い頃から袋とじや箱入れを従妹に教えてもらいながら手伝った。朝採った大量のみょうがを川で洗い、縁側に広げ、大人たちが等級をチェックしながら袋に詰めていく。主に叔母と母が袋詰めをし、袋とじや箱詰め、トラックに運ぶのは叔父と父、そして従妹や私の仕事だ。

 次から次へと出来上がってくる袋を一生懸命ホチキスで留めながらふと母の方を見ると、母の頭に大きな黒い蝶が止まっている。
 「ママ!頭の上!大きな蝶が止まってるよ!」と私が言うと、母はニコニコと笑いながら「この蝶はママのお姉さんなんだよ。」と答えた。

 母にとってのお姉さんは叔母だけで、てっきり二人姉妹だと思っていたが、間にもう一人姉がいて三人姉妹だったそうだ。母は二女ではなく、三女だったのかと最初は驚いた。
 その二女は小学校あがってすぐに病気の為亡くなってしまった。亡くなる前に二女は「生まれ変わったら蝶になりたい。」と言っていたそうだ。本当に彼女は蝶に生まれ変わったのだろうか。
 その蝶は叔母のところにも止まる。祖父と祖母が枝豆の莢もぎが終わって縁側に来ると祖父母にも止まる。けれどそれ以外の人間には止まらない。特に私の母の元に長く止まることが多かった。

 不思議なのはそれが毎年の事なのだ。蝶にも寿命があるだろうに、なぜか毎年真っ黒な蝶が縁側にいる母や叔母の所に来る。私が手伝っていたのは中学3年生頃までだったので、10年以上続いていた不思議な光景だった。

 最初は「恐い」というのが正直な思いだった。しかし毎年見ていると、三姉妹が揃ってるんだな…と考えるようになった。母も叔母も何となく嬉しそうだったのを覚えている。

 今でも黒い蝶を見ると、その頃のことを思い出すのだ。

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