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今月のひと駅-2024年3月

都留市(富士急行線)

つるし駅 山梨県都留市
昭和4年開業

赤ら顔のインベーダーに注目

 一般に聞かれることはあまりないけれども、山梨県は笹子峠や籠坂峠などが連なる急峻な分水嶺を境に、西は「国中(くになか)地方」、東は「郡内(ぐんない)地方」という名で分けられる。国中とはいうまでもなく、旧甲斐国の中心である甲府盆地一帯を指すもの。対して郡内とは都留郡全域という意味で、それだけ都留が広域な地名、つまり甲府盆地とは環境も風土も違う、一国に相当するほどのものであることがわかる。

 その中の一部の自治体が合併してできた都留市は、全国に数ある、旧国名を冠した小都市と同じ発想の命名になる。だから、交通の拠点である大月市や、経済の中心である富士吉田市を差し置いて、地方を代表するような中核都市とは、決していえない。

 都留市は桂川沿いに連接する、元の禾生、谷村、東桂といった町村で構成され、いまだそれぞれに独立した街区の体裁を保っている。そのため、人口3万ほどの都市にしては、ずいぶん長く市街地が続く。代表駅である都留市駅も、あくまで旧谷村町の商業地区にあるというだけ。一応それらしい雰囲気ではあるが、市の表玄関らしい華やかさはなく、賑やかというほどの人通りもない。実際、駅の利用者数も、赤坂から都留文科大学前まで続く谷村地区の駅の中で分散している。

 もっとも市では現在、新設の都留文科大学前駅を「顔」に据える意向で、同駅が開業して以来、富士急行線の特急停車駅は、都留市から都留文科大学前に変更された。そうと知ると、まるで王座転落したチャンピオンみたく、古びた都留市駅が気の毒に思えてくる。駅の脇にはバスターミナルもあって、機能的には市の交通体系の中枢と見える。だが、そのバス路線も縮小の一途といわれ、モータリゼーションによる近距離交通の衰退は、都留市駅を取り巻く市街の空洞化に深刻な影響を与えているといえそうだ。

 ただ、この駅には斜陽の一言で括るにはもったいないほどの個性がある。構内から見る駅舎はモルタル造りの一見、特徴なさそうな平屋建てだが、駅前に出て振り返ると、あっと驚く、まるでテレビゲームのインベーダーのような風貌だ。さすがにそれをモチーフにしたとは聞かれないけれども、奇抜なマスクを被せたファサードはインパクトも十分。市としては、新市街の玄関づくりもさることながら、旧市街側にも敬意を払う施策を講じるべきだろう。

 リニアの路線が通過し、実験施設の拠点も設けられていることが、例えば「教育首都」の近未来学科として成り立ち、インベーダーの顔から情報発信されるというのは、なかなか魅力的ではないだろうか。

駅前通りからの駅舎全景

【2014(平成26)年取材】

『駅路VISION第19巻・富士』より抜粋


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