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〝赤い橋が見えてきた〟

〝 赤い橋が見えてきた 〟
この一文につながる物語を書いてください

十数年前、ある会社の入社試験で
こんなお題の作文試験があった。

私は割とすぐにひとつの話を思いつき
制限時間も短いので
原稿用紙の隅っこに構成だけメモをして
さっさと物語を書き始めた。

___

主役は赤いカニ。
いつも横歩きをしているカニは
前に向かって歩くことに憧れていた。

カニ界では誰もそんなことした事ないし
皆からは無茶はやめとけと言われるけど
そのカニは臆病ながらも
なにかキッカケがある度に、チャレンジしてた。

例えば黄色い花びらが風にふかれてきたとき
…あぁでもまだちょっとこわい。

例えば地面に青い水たまりができたとき、
…あぁでもまだちょっとこわい。

例えば空に七色の虹がかかったとき
…あぁでもやっぱりちょっとこわい。

そうやって、いろんな色のキッカケを
書き出しつつ、なかなか決心がつかないカニ。
最後の章にこの文が入ってくる。

「赤い橋が見えてきた」

自分の体と同じ色の橋に、カニはついに心を決め
小さく足を前に踏み出してみたーー

___

と、いう物語。

物語は確か最後まで書けなかった。
時間がきてしまって、鉛筆を置いた。

何を知る試験だったのかわからないけど
そこは東京・月島で、
月島といえばもんじゃらしい、と知り
試験後に1人でもんじゃを食べて帰った。

深夜バスで、関西から東京まで揺られてきて
SPI試験と、変な物語を書いて
もんじゃをぐじゃぐじゃ混ぜるのは
なんだか不思議と自由な気分だった。

それから私はその会社に受かり
幸せな十数年間を過ごすことになる。


この赤いバッグはなんだか生き物っぽくて
あの時頭の中に浮かんでいた
主人公のカニを思い出す。

幼稚な物語だったけど
私は結構あの話を気に入っていたのかも、
と今思う。

カニは前に歩けただろうか。

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