【コラム】人口動態統計から見える少子化問題の本質
少子化はこの国に対して信頼や希望が抱けない国民からのメッセージだ。政府はそのメッセージを何十年も前から受け取っているはずだが、真摯に向き合ってきただろうか。
厚生労働省が毎年発表している人口動態統計によると、2023年の出生数は 72万7277人で、前年より4万3482人減少して過去最低を更新した。
また、女性1人が生涯に産む子どもの推定人数である合計特殊出生率は1.20となり、こちらも過去最低を更新。ちなみに人口を維持するために必要な合計特殊出生率は2.07だ。
少子化が政府の推計よりも11年早いペースで進んでおり、統計データを見る限り、出生数と出生率の低下傾向は改善できそうにない。
政府は6月5日に新たな少子化対策として、児童手当や育児休業給付を拡充する少子化対策関連法を成立させた。しかしながら、財源確保のため幅広い世代から医療保険に上乗せして支援金を徴収するこの法律は、少子化対策としてどの程度実効性があるかは不明瞭だ。
少子化の根本的な原因は婚姻数の低下だと指摘されている。時代の変化による結婚年齢の上昇、未婚率の増加、そして経済的な不安定さなど婚姻数の低下は様々な要因が複雑に絡み合った結果だ。
社会状況としては女性の社会進出や結婚への価値観の変化もあり、日本だけでなくほとんどの先進国で少子化は進行している。
一方で、日本の物価上昇に賃金の上昇が追いつかない現状の苦しい経済状況の中では、結婚に二の足を踏むのは当然だとも言える。
結婚をして子どもを産みたいと思える社会や経済状況でなければ、根本的な少子化問題には対抗できない。この社会に「希望」を抱けなければ、子どもの将来も不安だ。そして、それは国の政策でどうこうなる次元ではなくなっているのかもしれない。
ただ、婚姻数の減少から少子化が最終的に引き起こす問題は、人口減による労働力不足や社会保障システムの崩壊、消費者減による経済力の低下だ。
2023年の死亡数は157万5936人と増加傾向で、出生数と死亡数の差である自然増減数は84万8659人の減少となって、日本の人口は減り続けている。
政府は若者の人口が急減する2030年までが少子化傾向を反転させるラストチャンスとしているが、想定している11年早いペースで少子化が進んでいるのであれば、もうラストチャンスはとっくに過ぎている。
避けられない少子化・人口急減・超高齢化に対して私たちが必要とするのは、焼石に水のわずかな税金投入ではなく、新しい社会のあり方を創造することではないだろうか。
参考資料:令和5年(2023)人口動態統計