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妻はボクより下でいて。 【しごと編】

公務員であるわたし(女性)は、育児時短勤務の期間が終わるのを機に、異動希望を出すこととなりました。仕事内容に問題はなく、子育て中でも多少の負荷には耐えられると判断していたので、業務レベルではなく通勤距離を短くする目的で異動先の希望を考えていこうと、職場の同僚や夫(同業)に相談しました。 


ある同僚は、勤務先としてKという場所を勧めてくれました。業務レベルもそれなりに上位で、雰囲気もよいとのこと。また、同様の通勤距離で少し下のレベルにNというところがあるのですが、
 「Nはだいぶ偏った方針の組織だから、勤めていた友人はかなり不満を口にしていたよ」
とも教えてくれました。

別の同僚で前任地がNだった同世代の女性は、眉をひそめて言いました。
「幼い子がいるわたしにも時間外の仕事を平気で振ってくるような職場だよ」

一方、夫は、KよりもNを強く勧めてきました。わたしが同僚たちから聞いたよくない話を伝えても、なぜか、
 「Kより絶対にNのほうがいい」
と言うのでした。そして、Nよりさらにレベルの低い職場もいくつか提案しました。

 
わたしは困ってしまいました。この地方に住んで日も浅いわたしには様子が分からなかったので、内部事情を見聞きしている人たちの言葉を手がかりに、短期間で判断するしかなかったのです。KかNか・・・。わたしにとって、それは、同僚の言葉か夫の言葉か、という選択でもありました。

Nについての悪い話が気になりながらも、信じるべきは最も身近にいる夫なのではないか。相当迷った挙げ句、家族である夫の言葉を信じ、Nを第一希望に書きました。そして、その年の人事異動で、わたしの異動先はNに決まりました。


働き始めて程なく、元同僚たちの言っていた不満の意味を痛感しました。しかし、仕事内容の負荷は耐えられるレベルだったので、“偏った方針” に我慢しながらも、子育てと仕事を両立することができました。

その年の年度末、夫の異動が決まりました。Kでした。
 「異動希望はどこを書いていたの?」
と聞くと、なんと、
 「Kを書いた」
というではありませんか。

妻には勧めなかったKを、自身の第1希望に。なにかがおかしい・・・

わたしが夫からKではなくNを勧められたとき、
 「子育てのためにレベルの高い職場はやめておいたほうがいいってことでしょう」
くらいにとらえていました。

しかし、夫も同じ子育て中にもかかわらずKに異動希望を出したのは、なぜ?


状況と夫の性質を冷静に考え、縺れた糸を少しずつ解いていきました。
そして、腑に落ちたのです。

妻には子育てシフトを敷かせるけれど、夫自身には迷うという発想すらない。
そして、妻には自分よりレベルの低い職場にいてほしいと願う気持ち・・・。


キツネにつままれたようでした。
呆然としたあと、気付けば怒りがどっと押し寄せてきました。
あまりに悲しくて、悔しくて、涙が止まらないまま夜が更けていくのでした。



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綾瀬 ゆき
支えたり、支えられたり。そんな “環境” が心地いいですね。