見出し画像

夏の終わりに切なくなるような歳でもないだろうに

夏の終わりと3年目の死にたがり


「夏終わっちゃいますね〜」

 後輩がそんなことを言ったのは8月ももう終わろうとしていた夕闇の中だった。
 終わると言ってもまだ日は高くて、一軒目をほろ酔い気分で出たところでも、ほんのり明るい日だった。
 なんの予定もなかったし、同居人は突然飯を食ってくるというので暇を持て余したおもちはこの後輩と業務が同じお兄さんを誘って3人でご飯を食べに行っていた。
 本当はもっと歳上の人を呼べば奢って貰えるのはわかっているのだけど、さすがに家庭がある人を当日に呼ぶのは憚られ、結果歳の近い人たちでより集まってご飯に行くことにした。
 閑話休題。後輩のその一言におもちは多分微妙な顔をしながら「そうだねぇ」と返していた。
 その後すぐに、けたたましく鳴く蝉の声にびっくりして足を止める。

「蝉おる!?!?!?」

 おもちの一言で一緒にいた二人は路地裏を覗き込んだ。そんな景色を見ながら一息つく。
 夏は嫌いだ。死にたくなった気持ちを思い出して脳の奥底がざわめくから。選択肢を間違えないように、暑さに足を取られぬように、立っていなければいけない季節は私にとっては地獄だった。
 だから終わってくれるのは多分嬉しい。でも逃避の理由をなくすのは怖くもある。
 逃げずに立っていられるかなー、とぼんやり考えながらおもちは夏の終わりに何を回収するか悩んでいた。
 そして不意に、その日、少し前に給湯室で突然投げかけられた言葉を思い出した。

「インサイドヘッドみた?」

 駆け込み映画祭

 最近のおもちはあったかいお茶をかぷかぷ事務所で飲んでいる。
 事務所が寒いのも一因なのだが、冷たい水分よりあったかいお茶の方が精神が病む確率が減る気がするので。
 あったかいお茶をかぷかぷして、大体15時くらいで集中が切れるので給湯室に篭ったりした。現場にいた頃は胃が終わっていたので15時過ぎに白湯タイムを挟んでいたのだけど、それがティータイムになった。
 と言ってもそんなにたいそうなものではなくて、マグカップ一杯の梅昆布茶を作って立ち飲みしながら残りの時間の仕事のことを考えたりする。
 ちなみに梅昆布茶は最初は事務所でこそこそ飲んでいたがあまりのおいしさに一日中際限なく飲んでしまう魔の飲み物だったため、レギュラーメンバーを外れ、ティータイムという名の梅昆布茶タイムが導入された。
 その日は、すでに冒頭のご飯会が確定していたので少しわくわくしながら給湯室で梅昆布茶をしていた。
 大体一人でお茶をしているのだけど、時たま人がいたりしてぼんやり話していたりする。
 今日は人がいる日で、同じ部署の隣の席のお兄さんと一緒であった。

「インサイドヘッド観た?」

 そしてなんの脈絡もなく、無邪気にぶちこまれたのがこの問いだった。

 今話題の2もだが、おもち、無印の公開時もひねくれたオタクだったので観ずに突き進んできたのであった。
 ちなみにこの先輩にインサイドヘッドの話をされるのは2度目で、ゆえにおもちは爆速で、
「観てないでーす」
 やっぱりおもちは捻くれている。そう言わざるを得ない速度の返答だった。
 そんな可愛げのない後輩に先輩は、「めちゃくちゃ面白かったよ」と自分のお子さんと観に行った話をするのであった。
 そう言われると2度目の布教だったのもあって、オタクはちょっとそわっとした。
 オタク、身近なとこからの布教弱いんだよなー。

 おもちは翌日、休日だったのをいいことにアマプラで朝イチに無印をレンタルして観た。

 バチクソ面白かった。
 自分は人の感情が好きなんだな、と改めて思った。思えばまどマギとかもそういう作品なのよね。
 と、同時にあっさり字幕で観られた自分にもびっくりした。

 実はおもち、一回体調ぶっ壊れてからあんまり文字を読めてなかったんだけど、これはめちゃくちゃ面白かったのでなんかさらっと字幕読んでいた。やりゃできんじゃーん。
 めちゃくちゃカタツムリだけど前には進んでいる。好きなものも思い出した。やるぞやるぞやるぞ!
 とりあえず今週末2とラストマイル(2回目予定)を観に行きます、やること極端人間。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?