「挑もう。みんなで。新しい方法で」 社会課題解決事業を行うソニーの新法人「Arc & Beyond」設立ストーリー
はじめまして。Arc & Beyond(以下、A&B)は、noteを始めました!
今後、A&Bが行う取り組みや想いを、関わるヒトを通してお届けします。
記念すべき第1回目の投稿では、A&Bの誕生や我々が目指す社会について、代表理事 石川洋人さんのインタビューをお届けします!
米国での事業経験がでの活動の転換がA&B設立の原動力につながる
──A&B設立の背景について、詳しく教えてください
石川:
A&Bは、私がソニーグループの米国子会社「Takeoff Point」の社長として経験してきたことが原点となっています。Takeoff Pointは、ソニーの新規事業から生まれた製品・サービスをアメリカで展開する「販売会社」として2015年にスタートしました。その後、日米企業が展開する新規事業に対して、ビジネス支援を提供する「コンサルティング会社」へと移り変わり、最終的には、社会課題解決に向けた「事業創出」に取り組むようになりました。
──どうしてそのように事業転換をされたのでしょうか?
石川:
当初の「販売会社」としての事業は、正直うまくいきませんでした。例えば、一番初めに担当したソニーグループのIoTブロック「MESH™」の米国販売は日本とは異なり、学校や塾で営業しても全く売れない日々が続きました。しかし、営業の一環として学校へ足を運び続けるうちに、 MESHが売れないということよりも、子どもたちが学校から離れていっている現状を目の当たりにし、Takeoff Pointで何かサポートできないか、と問題意識を持つようになりました。
アメリカでは、さまざまな事情で学校に通えず、社会とのつながりが遮断されてしまった「Disconnected Youth」と呼ばれる若者が増え社会課題となっています。そこで、子どもたちが学校から離れ切ってしまう前に、「もう一度学ぶ楽しさに気付いてもらい、学校に残るきっかけを作れないか」と考え、MESHを活用したワークショップを近場の学校や市民センターでボランティアとして始めるようになりました。MESHを使った教育プログラムを通じて、子どもたちにもう一度学ぶ楽しさを知ってもらいたい、そして社会の一員として活躍できるようなきっかけを作りたい。そんな思いで、プログラムを教えるボランティアを集めたり、学校の先生や生徒たちをインターンとして採用して一緒に教材を作成したり、試行錯誤していくうちに、「Takeoff Point という会社が、学校との接点を失いかけた若者を減らすための活動をしている」とメディアで何度か取り上げられるようになり、プログラムの広がりとともにMESHの売上も徐々に伸びていきました。
──社会課題解決への貢献が売上にもポジティブな影響を与えたということでしょうか
石川:
その通りです。Takeoff Pointでの経験を通じて、「社会課題」を、事業として継続性を持って解決して行くことの重要性を痛感しました。企業として社会課題解決に取り組むには、さまざまな制約があります。そこで、その制約や事業として成り立つ経済合理性の壁を超えて、社会課題解決に特化した新しい法人を設立しようと考えたのです。
──A&B設立への後押しには、十時裕樹さん(ソニーグループ(株) 代表執行役 社長 COO 兼 CFO)からのメッセージが大きかったとうかがいました
石川:十時さんからは「ほとんど儲からない事業だけど、社会への貢献という点では、やっていることは素晴らしい。誰もやらないけど、誰かがやらなければならないことをやっている」と評価していただき、「ソニーの10年後の価値をつくってほしい」という言葉をいただきました。この言葉が、A&Bを設立することになった最大の原動力です。
A&Bのユニークな仕組み:基金と共創パートナー
──A&Bの法人としての特徴を教えてください
石川:
A&Bは、これまでの企業活動では手の届かなかった社会課題の解決に向けて、経済合理性の壁を超えて、さまざまな法人や個人が共創しながら事業創出と運営に挑んでいく新しい法人です。法人名は、人と人をゆるやかにつなぐ"Arc"、立場や制約を超えていく"Beyond"を掛け合わせるという意味を込めています。
また、A&Bの設立にあわせて「Arc & Beyond基金」も設立しました。
──基金設立の理由を教えてください
石川:
事業を行うには継続できる仕組みが必要ですが、社会課題解決のための事業というのは、市場原理が働いていないものがほとんどです。困っている人たちの多くは、必要としている商品やサービスに対して対価を払えない環境にあることも踏まえ、市場原理の働いていない分野で事業を継続するための仕組みが必要だと考えました。新法人のビジョンに共感する共創パートナーからお預かりする資金を原資に、投資会社へ委託し、運用する。その運用益を社会課題解決事業の創出・運営に活用します。法人としては「非営利型一般社団法人」なので税制上のメリットもあります。また、運用も必ず利益が出る訳ではないので、その他に個人・法人からの寄付、ふるさと納税、休眠預金口座の資金の活用など、事業を継続するための資金調達も検討しております。
──共創パートナーとはどのような方たちなのでしょうか?
石川:
共創パートナーには、「ファンドパートナー」の他、社会課題解決事業に参画・支援していただく「ソリューションパートナー」があり、現在、共創パートナーとなってくださる企業・団体や個人を募集しています。社会課題解決は、ソニー1社だけの力では限界があります。技術を持った人、課題を理解した人、いろんな個人や団体、会社が参画できる仕組みを構築し、多くの協力を得ながら、想いを共にする共同体をつくり、社会課題解決に向けた活動を進めていきたいと考えています。
既存事業を活用してスタートし、今後ゼロベースの事業開発も
──A&Bでは、具体的にどのような事業を展開していく予定ですか?
石川:
まずは、ソニーグループの既にある資産を活用してスタートします。たとえば、アメリカで行っていたMESHを活用したDisconnected Youthの課題解決、これを日本でも行います。
MESHは現在、日本の小学校約3,000校に導入されており、事業として成立しています。しかしながら、少年院のように経済合理性だけではアプローチが難しい教育現場もあります。そこで、アメリカでの実績をもとに、2021年から国内にある少年院の職業教育の改革に、A&BのCo-founderであり、MESHの開発者の萩原丈博と一緒に取り組んでいます。当初は法務省や少年院の関係者も半信半疑でしたが、ワークショップを体験した少年たちの表情がどんどん変わり、「自分も世の中で役に立てるのではないか」という自己効力感の向上を見て意識が変化していきました。「この体験と社会との接点が彼らの生きる力につながる」と教官の方から言っていただきました。
他にも、ソニーコンピュータサイエンス研究所の遠藤謙さんが研究されているスポーツ用義足の普及活動も支援していきます。遠藤さんが設立されたNPO法人「ギソクの図書館」が主催しているランニング・クリニックは、義足で走ることを諦めていた人たちに、走る喜びを与えています。A&Bでは、この活動のさらなる拡大を目指し、より多くの人々にスポーツの機会を提供したいと考えています。
これらの事業は、マーケットの小ささから営利企業の参入には難しさがありますが、A&Bであればできる。その強みを生かしていきたいと考えています。
──A&Bは、新しい挑戦の場となりそうですね。
石川:
そうですね。世の中には、社会的意義はすごくあるのに、経済的価値の部分だけで判断し事業の継続が難しいと諦めてしまっている事業やアイデアはたくさんあると思います。でも、A&Bというプラットフォームを使えば、それらのアイデアを実現し、社会をより良いものに変え、一つでも多くの社会課題を事業として解決できるかもしれない。その選択肢があることを、皆さんに知っていただきたいと思います。
世の中の社会課題が 一つでも多く解決できれば、社会にとっても良いことだと思います。
そのようなアイデアがあればぜひお声掛けいただきたいと思います。
私は、日ごろからこの取り組みを「壮大な社会実験」だと言っています。それぞれの組織の枠組みや利益にとらわれず、社会全体のニーズに目線を合わせることによって、より良い社会をみんなで共創し、実現することができると信じています。
皆さんと力を合わせて、社会を変えていきましょう!