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神山まるごと高専で、起業家探求の授業をしてきました!

こんにちは!Arc & Beyond 代表理事の石川(ひろ)です!
11月に徳島県にある神山まるごと高専で、起業家探求の授業を担当しました。今回は、その授業でお話した内容と、学生の皆さんの反応についてご紹介します。

神山まるごと高専での授業

神山まるごと高専は、テクノロジー・デザイン・起業家精神を一度に学ぶ場として、2023年に誕生した新しい学校です。実は、運用益を事業活動の費用に充当する「Arc & Beyond基金」のスキームは、神山まるごと高専の基金の仕組みを参考にしており、法人設立の準備段階から深い繋がりがあります。

​​神山の起業家探求の授業では、名だたる起業家の方々が過去に登壇されていますが、さまざまな経験を学生には知ってほしいと、元々サラリーマンで起業とは無縁だった私に、どう起業に至ったのか話しをしてほしいと依頼を受けていました。

私が起業するに至るまでの経緯をお話ししつつ、「起業することがすべてではないこと」「社内起業という選択肢があること」「資金調達も要らない小さな起業」などを学生の皆さんに伝えられればと思いました。

スクリーンの前に立ち、学生に向かって授業をするひろさん
授業の様子

Takeoff Pointでの失敗と、そこから得た気付き

前のnoteでもお話ししましたが、私は2015年にソニーグループの米国子会社「Takeoff Point」を設立しました。Takeoff Pointは、ソニーの新規事業から生まれた製品・サービスをアメリカで展開する販売会社としてスタートしたものの、販売会社としての事業はうまくいきませんでした。IoTブロックMESH™は、学校や塾で営業しても全く売れず苦労しました。

会社の経営もだんだんと厳しくなってきて、自分の仕事に価値を感じてお金を払ってくれる人がほとんどいないことを痛感させられました。自分はこれまで会社に与えられるミッションに対して成果を出し、その対価としてお金をもらっていた「会社人」であって、本当の意味で「社会人」になれていなかった。これまで会社が与えてくれていたミッションを、これからは自分が社会から探し出さなければならず、上司ではなく、社会から評価される仕事をしなければならないのだと気が付いたのです。

そんな時、アメリカでは、さまざまな事情で学校へ通えず、社会との繋がりを失った「Disconnected Youth」と呼ばれる若者が増え社会問題となっていることを知りました。若者たちに、なんとか学ぶ楽しさに気づいてもらい、学校に残るきっかけを作れないかと、MESHを使ったワークショップをボランティアで始めました。売り上げに繋がる活動ではないため、経営が苦しい中、積極的にやるべきことではなかったかもしれません。しかし、これが社会から求められていることなのではないかと強く感じたのです。

結果、ワークショップは好評で、ワークショップを展開するボランティアが集まり、展開地域も徐々に増え、教材を作るプロジェクトが立ち上がるなど、活動は徐々に広がっていきました。すると「Takeoff Point という会社が、Disconnected Youthを減らすための活動をしている」とメディアにも取り上げられ、MESH自体にも注目が集まるようになり、売上も徐々に伸びていきました。

多くの学生の前で、スクリーンを指差しながら語るひろさん
授業の様子

大切なのは「何をやるのか」ではなく「なぜやるのか」

起業はあくまでも手段であり、目的ではありません。私の場合、会社の人事異動でたまたま社長になった「やらされ起業家」だったため、最初は起業することが目的となってしまい、うまくいきませんでした。しかし、Takeoff Pointの経営に行き詰まり、自信を失っていたときにたまたま自分の学生時代の自己分析を振り返る機会があり、「子どもの役に立つ仕事をしたい」とずっと言っていたことを思い出したのです。

私は大学時代、アルバイトと、貧乏旅行と称した発展途上国巡りに夢中になっていました。バイトでは、テニスのインストラクターとして働いていました。子どもたちに教えることが楽しくて仕方なく、大好きな時間でした。バイトで貯めたお金を使って、50か国以上の途上国を訪れ、そこで教育格差や、児童労働、内戦に兵士として戦いに行く子どもなど、世界中の不平等を目の当たりにしました。「なぜ世界はこんなにもフェアじゃないんだろう」と、子どもたちの不平等を解決したいと強く感じるようになりました。しかし、就職して仕事に没頭するなかで、その想いを完全に忘れてしまっていたのです。改めて自分がやりたかったことに立ち返り、「子どもたちの不平等を解決すること」と「教えること」を軸にしようと方向性をシフトしました。これがTakeoff PointがDisconnected Youthの世界に飛び込むことになったきっかけであり、事業がうまくいくようになった転換点でした。

この経験を通して、物事を始めるうえで「何をやるのか?」ではなく、「なぜそれをやりたいのか?」という「Why?」、そして「なぜそれをあなたがやりたいのか?」という「Why You?」を考えることが最も重要だと気付かされました。
授業でこのエピソードについてお話ししたところ、ある学生の方からこんなご質問をいただきました。

私は、Whyを考えるのが得意ではなくて、やりたいことから始めてしまうタイプで、無理やり今まで理由を付けてきました。Whyから考えることが大事というのはすごく共感できるのですが、実際どうしたらいいのですか?

私は、Whyは考えるものではなく感じるものだと思っています。私自身、Disconnected Youth向けのワークショップを考えることは楽しくてたまりませんでした。お金の生まれる事業ではないのに、「こうしたらもっと喜んでくれるかな」「やる気になってくれるかな」と想像するだけでワクワクしました。自分が何にワクワクするのか?何に感動するのか?何に心動かされるのか?Whyを見つけることに得意・不得意はなく、自分の心に正直に向き合い、見つめ直せば自ずから答えは見えてくるはずです。

さらに、今年、私は一般社団法人Arc & Beyondを立ち上げました。Takeoff Pointを通じて、営利企業で社会課題解決に取り組む難しさを痛感し、新しい方法を考えるためにつくった法人です。Arc & Beyondで事業をつくる際も、「なぜやるのか?」を大切にしていきたいと思っていますし、仲間と議論する際も「なぜArc & Beyondでそれをするのか?」を常に考えています。また、仲間たちが、どのような社会を実現したいか、という大きな話から、何が好きなのか、どういうときにワクワクするのかなど、仕事と関係のない趣味の話も含めて語り合ったりもします。そうした積み重ねが、法人としての「Why」を確立していく方法だと思っています。

Arc & Beyondと神山まるごと高専 これから目指すもの

Arc & Beyondが、起業家育成ではなく、起業家性の涵養を大切にしている理由もまさにここにあります。起業家になることを目的として、人を育成したいわけではありません。世の中の変化から機会を見つけ、資源をうまく獲得・活用しながら事業を進めていくといった起業家にとって必要な資質や能力を身に着けることが、「会社人」ではなく、「社会人」として生きていくうえで重要だと考えています。これは起業家になりたい人にだけ必要なものではなく、企業で働くうえでも大切だという想いから起業家育成ではなく「起業家性の涵養」と表現しています。

Arc & Beyondでは、社会課題解決に一緒に取り組む仲間を増やすため、次世代を担う子どもたちや若者と共にどのような社会にしたいか考え、共通する想いを持ってより良い社会の実現に取り組んでいきたいと思っています。そのため、起業家性の涵養を行う際、「きっかけ作り」だけでなく、学生の「社会参画」までを大事にしたいと考えています。私自身も「とりあえずやってみる」ということを大切にしているのですが、頭で考えるより実際に挑戦してみることが、何よりも学びに繋がると信じています。

今、神山の学生さんたちとArc & Beyondが一緒に取り組んでいる「体育×プログラミング」についても同様です。今は授業の一環として、プログラミングを使った新しいスポーツのかたちを模索しているところですが、次のステップとして、学校を飛び出し、神山町の皆さんを巻き込んだ運動会の開催を検討しています。これから、学生の皆さんのアイデアを社会で生かすための仕組みも一緒に考えていけたらと思っています。

授業を通じて、「何をやるか?」を考えることで悩んでいる学生さんが多くいることを感じました。まずは、自分がやりたいことは何かを考える。次に、実現するために何をしなければならないのか手段を考える。その手段の選択肢の一つが起業です。学生の皆さんにとって、今回の授業が、それぞれの「Why」を見つめ直すきっかけになれば嬉しく思います。

Arc & Beyondは、今後も多くの学生や若い世代の皆さんと一緒にありたい社会について考え、共創していきたいと思っています。ぜひあなたの思う「よりよい社会」についてコメントお待ちしています!

バルコニーのような場所にMESHを置き、スマートフォンを操作しながらそれを取り囲むように立つ6人の学生
「体育×プログラミング」をテーマに、MESHを使って考えたプログラムを実演する学生たち



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