おばあちゃんとかしわ餅
32日目(5月5日)
この時期になると、必ず買いたくなるのがかしわ餅。
季節は、春の花々が終わり、緑が真っ盛りになって、
もう、初夏だな、と思わせる風を感じるころ。
今年は、近隣を歩いているので、所々のベランダに可愛らしい鯉のぼりが眩しい空と太陽の元、ひらひらとたなびいているのも、よりかしわ餅に思いを寄せるきっかけになる。
かしわ餅には、少し家族の思い出もある。
近所の商店街には古くからある鳳月堂という和菓子屋がある。
祖母はここのお店のどら焼きとかしわ餅をこよなく愛していて、子供のころよく一緒に連れられて鳳月に行った。
祖母はすっかり常連で、祖母がどら焼きを買いに行くと、なぜかおまけにどら焼きをもう一個つけてくれたりする。
そんな小さなやりとりが、なんだか嬉しかった。
子供の頃、私は甘いものが苦手で、どら焼きの中に入っているつぶあんが食べられなかった。
鳳月のどらやきは皮の部分がふわふわではちみつの香りがする、とてつもなく美味しい。私は、餡はたべられないが、皮がどうしても食べたい。
そこで、私は、いつも皮だけ食べて、アンコが大好きな祖母にアンコだけ食べてもらっていた。
そんな、祖母は4月中旬くらいになると、妙にそわそわし始める。
「かしわ餅、そろそろかしらねぇ」「ああ、鳳月のかしわ餅が食べたいよ」
鳳月のかしわ餅は4月の中頃から5月5日までしか作られない。
まさにその季節の味なのだ。
鳳月にかしわ餅が並び始めると、祖母は毎日のようにかしわ餅を買って来る。
こしあんと白味噌あんの二種類を六人家族のために、たっぷり買って来る。
「今だけなんだから、ほら、食べなさいよ」
惚れこんだら、とことん良いと思い込んでしまう気質をもつ祖母は、
もう、私が甘いものが苦手とかは関係ない。
それでも、鳳月のかしわ餅のこしあんは上品な甘さで、私にも食べることができた。
あれから何十年も経って、変わらずかしわ餅の季節はやってくる。
そして、変わらず鳳月はかわらずかしわ餅を作り続けてくれている。
今は、父が以前の祖母のように、こよなくこのかしわ餅を愛していて、私にもおすそ分けをくれた。
当時のように、甘いものが食べられないわけではない私と、控えめに勧めてくれる父。年月の経ったが、かしわ餅の味は変わらなかった。
最近、母と近隣を散歩するようになって、柏の木が近所にあることに気づいた。
今、この時期、大きな葉を揺らせている。
母方のおばあちゃんは子供の頃よくかしわ餅作ってくれたのだそうだ。
祖母たちを想い、かしわ餅を作って見たくなった。