【ゲスト:角田光代さん × はらだ有彩さん】『信長の野暮』緊急アフタートーク!後編
『信長の野暮』のオンライン配信の好評を受け、2023年6月11日(日)にTwitterのスペース配信にて急遽開催された、緊急アフタートーク。
作家の角田光代さんと、テキストレーターのはらだ有彩さんをゲストにお迎えし、アナログスイッチの主宰・佐藤慎哉とともに、物語やキャラクターの魅力について熱く語ってまいりました。
▼アフタートークレポートの前編はこちら
後編では、劇伴音楽にまつわるエピソードや、これからのエンターテインメントについて、アナログスイッチへのリクエストなどをお話いただきました。
この記事では、リアルタイムで聴けなかったという方に向けて、配信の様子をほぼそのままにお届けします! 劇団からのお知らせもありますので、ぜひ最後まで読んでいただけたら嬉しいです。(実際の会話をもとに一部編集をしています。収録されている音声と一言一句同じではないことをご了承ください)
心を動かす劇伴音楽は、深夜の電話から生まれた!
ーーでは、次の話題にいきましょうか。「これは今日話すつもりだったぞ」というテーマがある方いらっしゃいますか?(進行:中村(プロデューサー))
はらださん:はい! 私、曲の話がしたくて。
角田さん:音楽よかったですよね。
はらださん:よかったですよね! 前回観た作品でも音楽がすごく印象に残っていて。同じ方ですよね?
佐藤:同じですね。音楽家で「airezias」というバンドを率いる福永健人が、オリジナル曲を作ってくれています。
角田さん:そうなんだ~!
はらださん:前回私が観劇した『愛でもないし、 youでもなくて、 ジェイ。』のときの曲で「朝日が救うのは夜を越えた人だけ」という歌詞があって、それがすごく話の内容と呼応し あっていてよかったんです。
佐藤:ありましたね~。
角田さん:印象深い歌詞ですね。歌詞も福永健人くんが書いているの?
佐藤:そうです。
はらださん:今回も必死で歌詞を聴いていて、ちょっとうろ覚えですが、最後の方に「泣かぬなら、出会わずに生きていたいよ、ホトトギス」という歌詞があったと思うんです。それがすごくじーんときちゃって。だって、出会わずに生きていたいけれど、もう出会っちゃってるわけですよね。「出会っちゃってるんだよ!」という感じが、本当にいい曲だなと思って。
佐藤:よく聴いてくださってる……!
はらださん:オチなのでぼかしますが、物語の最後には若干史実が変わっていますよね。それが嬉しい出来事として作用するときに、この歌詞がすごく効いているなと思っていて。元通りの世界が一番いいとは限らないということに、思いを馳せることができる歌詞だし、感動したっていう話をしたかったんです(笑)。
佐藤:健人、聴いてる?(笑)。前回観てもらった『愛でもないし、 youでもなくて、 ジェイ。』のときは、健人が歌詞を全部フルで考えてくれて。でも今回は最初に、どんな物語で、そのイメージから浮かぶのはどんなワードか、というのをふたりですり合わせた上で、それをもとに健人が歌詞を考えてくれました。
角田さん:そんなふうにつくられていたんですね。
佐藤:夜中までふたりで電話を繋いで、いろいろワードを出しながらああでもこうでもないって。
角田さん:電話で!
はらださん:そのときに出たキーワード全部見たいですね(笑)。
佐藤:のちほど送りますね(笑)。でもそれはたいしたものじゃなくて、健人がすごいんです。「そこからよくこの歌詞が!」って感じでした。いやでも、よくあのシーンを観ながら音楽の歌詞を聞き取れましたね。
はらださん:重要なところな気がする!と思ってめっちゃ聴きました(笑)。
角田さん:すごーい!
エンタメに求めるのは、感情の発露のきっかけ
佐藤:僕からおふたりにちらっと聞いてみたいことがあって。僕、この作品の前は、普段自分の中でちょっと引っかかっていることをもとに、笑い3割、テーマ性7割くらいの感覚で書いていたんです。でも今回の『信長の野暮』で言うと、笑い9割で、ちょっと(胸が)きゅっとするシーンが1割くらいのバランスで書いていたので、エンターテインメントという意識が強かったんですね。そこで、今後のエンタメの役割といいますか、どんなものが求められていくと思いますか?
はらださん:難しいですね。
佐藤:たとえば、角田さんの小説を読むと、ものすごいバランス感覚だなと思うんです。読みやすいけどすごく深い洞察力で書かれている感じがして。その辺りは何か意識しているんですか?
角田さん:それはわからないけれど、でもなんというか、笑いって本当に難しいなと思うんですよね。ごめんなさい、質問の意図とはずれてしまうけれど、小説の場合は悲しいことやネガティブなことを書く方が簡単なんですね。笑わせるというのはほんっとうに難しくて、だからお芝居で笑いをとることもすごく難しいだろうし、笑わせられるものを書けることが私はすごいと思う。
今回の作品を観て、私は笑いとテーマ性が9:1だとは思わないんですよ。もちろん笑って観ているけれど、ただ笑わせるだけのコント的なものを観ているような気持ちにはならない。ちゃんとやっぱりお芝居を観ているし、テーマ性も感じるので……なんでしょうね。でも、あそこまで笑えるものを書けるのはすごいなという印象が一番強いです。
佐藤:不思議ですね。
はらださん:今が楽しければ楽しいほど、やっぱり少し寂しかったりするなあと思っていて。この物語を観て感じたほんのりとした寂しさは、しくしく泣くような直接的な悲しさではなくて、すでに思い出になりつつある楽しさみたいな感じもあるなと。それはたぶん、歴史がキーになっている作品だから、というのもあると思いますし。
爆笑する瞬間って日々一秒一秒あるけれど、そのたびに過ぎ去っていきますよね。また角田さんのインタビューの話を勝手にするんですけど(笑)、さっき言っていたインタビューでの「どんなときに人は小説を必要とするのでしょう?」という質問に、それを「なぜフィクションが必要なのか」と言い換えながら「生きているのが辛いから」と答えていらっしゃって。フィクションを通して、今生きていることが無意味でもなく、無味乾燥でもないことを知ることができる、と。実際に日々の中に彩りを感じる瞬間があって、でもそれはどんどん過ぎ去っていく。その繰り返しで、嬉しさと愛おしさと寂しさがセットだなって。
それを考えたときに、エンタメは体験した人の感情の発露のきっかけになるものだったら、楽しいのかなと勝手に思いました。ちなみに私は、今回の観劇後に「のぶやぼTシャツ」を買って、ゲームの『信長の野望』のヘビーユーザーであるルームメイトのお父さんにプレゼントしたんです。それを通して舞台の話や、さらに発展して自分が大切にしているものの話ができたのがすごく良くて。自分にまつわる話をするきっかけになるエンタメは、いいなと思いますね。
角田さん:それが発露か。たしかに私、このお芝居を観たあとに劇場の近くの居酒屋で、ラストオーダーが終わって「帰ってください」って言われるまで、一緒に観た人と話し合いました。
はらださん:(笑)。喋りたくなりますよね。
角田さん:喋っちゃう。
ーーおふたりは、エンタメ作品を観たあとはその作品について語りますか? それとも作品から得た感情や別のことについてお話したくなりますか?
角田さん:私はやっぱり作品の話が中心かな。「あのセリフすごいよね」とか「あれはこうだったよね」とか。でもそれってたぶん、はらださんがおっしゃるように自分自身とリンクしていると思うんですよね。自分の感情と作品の何かが直にリンクすることで、それだけ人と話したくなるのかなって。
はらださん:私も自分と近かったり遠かったりするところをきっかけに、登場人物について話したいと思うことが多かったかも。あとは、「なぜ脚本家はこう書いたのだろう」とか、考察したくなりますね(笑)。
佐藤:たしかにね。せっかくだから、最初に『信長の野暮』を書こうと思ったきっかけを話すと、僕はとにかくちっちゃい頃から「こうだったら面白いよね」を妄想するのがすごく好きで、ただただ自分ひとりで笑ったりしていたんですよ。
この作品も結局、「あの勇ましい信長がフリーターのだらしないやつと生活していたら面白いよな」と思って、頭の中にあった妄想を「すごい面白いでしょ!面白くない?」って人に話すような気持ちで書き出したのがスタートなんです。実際はそんなものしかない(笑)。
角田さん:そこからのスタートにしてはすごく上手くまとめたね。辻褄合わせとか大変じゃないですか? 信長だけそのままの姿で、ほかの人は魂だけ飛んできた、みたいな設定部分もきちんと説明してるけれど、ああいうのがすごく大変だなって。でも観ていて感じたのは、小説も同じだけど「これ嘘でしょ?」って思わせる隙がないくらいの迫力があると、みんな信じちゃうんですよね。どうでもよくなるというか。この作品でも結構その辻褄(の重要さ)が吹っ飛ぶ瞬間があって、それくらいのめりこんで観られるのはやっぱりすごいなと思った。
佐藤:ありがとうございます!
角田さん:冷静に観ていくと、「じゃあこれはどうなの?」「あれはどうなの?」って出てくると思うんですが、そういうのを吹っ飛ばすくらいの起爆力があったなと思う。
佐藤:コメディだから許されるだろう、というぎりぎりのゾーンがあるんですよね。丁寧に書いちゃうと逆に引っかかるけれど、勢いで持っていってしまえば、納得はできなくても受け入れることはできるだろうという部分は、意識しながら作っています。
行間に抜け落ちてしまったものを拾い上げていく
ーーでは、そろそろ最後の話題に。角田さんとはらださんは今後、楽しく生きていく上でどんな物語があるといいなと思いますか? もしくは、アナログスイッチへのリクエストでもOKです。
角田さん:でもね私、今回初めて佐藤くんのお芝居を観て感動したので、これからもずっと観続けていこうと思っていますよ。
佐藤:わ! ありがとうございます。
はらださん:私が勝手に観たいなと思っているのは、忘れられていくものや歴史の行間に落ちているものを描いた物語。今作もそうだと思いますが、取り上げなければ何でもないけれど、取り上げると実は大きな物語がある、みたいな。抽象的ですが、やっぱりそういう少しの寂しさの部分が心に残って泣けてくるのかなって。
佐藤:井上ひさしさんだったかな、三谷幸喜さんだったかな。歴史モノの作品を考えるときに、まず年表を書き出してみて、そこに出てこない狭間の部分を描くようにしているらしくて。「誰も描かなかった狭間にドラマがある」というお話をしていたのを思い出しました。今の話にリンクしているかわからないですけど、抜け落ちてしまったものを拾い上げるというのはわかる気がします。
はらださん:うんうん。今回で言うと、また名前を出してしまいますけど赤影馬の芯がそうですよね。
佐藤:たしかに。歴史に埋もれた武士だっていますよね。戦国時代って本当にいろいろな武将がいて注目される時代ですけど、その裏には全然有名じゃない人たちもいて、そこにはいくらでもドラマがあったはずなんだけど、やっぱり注目されないですからね。
ーー過去には、あまりピックアップされにくい歴史上の人物のある部分に、佐藤さんが感銘を受けて物語にした『白片つぐつぐ』という作品もありますし、今後アナログスイッチとしてやっていくテーマとしてもすごく相性が良さそうですね。
角田さん:楽しみにしています!
佐藤:頑張ります。改めて角田さん、はらださん、そして配信を聴いていただいた皆さん、ありがとうございました!
角田さん、はらださん:ありがとうございました!
***
緊急アフタートーク、ご清聴ありがとうございました! お二人ならではの視点で語っていただいたことで、作品がまた一段と深みのあるものに育っていくのを感じました。
『信長の野暮』をもう一度観たい! まだ観ていなかったけれど興味が湧いた! という方はぜひ、駆け込みでオンライン配信を。まだまだ間に合います。
▼6/19(月)まで『信長の野暮』を観劇できる配信チケットの購入はこちら!
https://v2.kan-geki.com/live-streaming/ticket/901
作/演出:佐藤慎哉(アナログスイッチ)
● 上演時間(目安)
120分を予定
● チケット販売終了日時
2023/06/19(月)18:30まで
● 問合せ先メールアドレス
info@analog-switch.com
●『信長の野暮』公演特設サイト
https://www.analog-switch.com/nobunaga/
★2023年7月30日(土)に「アナログスイッチファンイベント vol.1」の開催が決定しました。
イベントの詳細やチケット販売方法については、随時Twitterにてリリースしますので、ぜひ予定を空けておいてもらえると嬉しいです!
日時:7月30日(日)17:00〜(終了は19:00ごろを予定)
場所:TOKYO L.O.C.A.L BASE
(東京都荒川区町屋1丁目3−12)
https://tokyolocal.me
チケット先行発売は7月1日を予定! ファンの皆さまにお会いできるのを楽しみにしています!
文:むらやまあき