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のざくに流!ボドゲ制作秘伝の書 vol.1 ゲームルールの磨き方(前編)

2024年5月26日、Anaguma主催「のざくに流! ボードゲーム制作道場 vol.1 ゲームルールの磨き方」を開催しました。本イベントは「1万本以上売れるボードゲームを作るノウハウを共有し、業界のレベルアップを目指す」ことを目的とするイベントです。

『ito』『Kaiju on the Earth』シリーズ『タイガー&ドラゴン』『六華』『タイムボム』など70作以上のボードゲームを手掛けた、株式会社アークライトのざくにさんから「ゲームルールの磨き方」をテーマにお話を伺いました!


このnoteでは、イベントでお話した内容を元に「のざくに流!ボドゲ制作秘伝の書」としてまとめ、ボードゲーム制作に役立つ考え方やノウハウを共有していきます。


登壇者のご紹介

野澤 邦仁(のざわ くにひと)
2015年に株式会社アークライトに入社。ボードゲーム編集者として70作以上に携わる傍ら、ゲームマーケットの企画も一部担当。2022年より制作責任者(編集長)に就任。
ボードゲームの代表作は、『ito』シリーズ、「Kaiju on the Earth」シリーズ(『ボルカルス』『ゴジラ』など)、『タイガー&ドラゴン』、『タイムボム』など。
X(旧Twitter): https://x.com/nozakuni

イベント当日の様子




ボードゲーム編集者の役割とは

商業ボードゲームは少人数チームで制作されることが多いと思います。僕の経験上で多いパターンは4人チームで、その内訳は以下となります。

①ルールを考えるゲームデザイナー
②絵を描くイラストレーター
③イラスト以外のロゴやアイコンやカードの枠など全般を描くグラフィックデザイナー
④企画全体の推進役で、まとめ役となる編集者

テストプレイヤーなど協力者は他にもいますが、メインとなるのは上記の4人です。

また、ボードゲーム編集者の仕事をもう少し具体的に説明すると、以下となります。
・企画立案、社内調整、予算確保、制作メンバー選定などプロデューサー業務
・制作監督、方向性決定、全体監修、業務指示などディレクター業務
・ルール提案、テストプレイ、調整などデベロッパー業務
・ルールやキャッチコピーなど執筆、校正、校閲などライター業務
・スケジュール管理、調整などプロジェクトマネージャー業務
・宣伝計画、メディア露出、記事監修などプロモーション業務
・契約書周りの連絡や調整、工場への連絡や調整、製造管理、その他雑用など

少人数チーム故に、やることは川上から川下まで、多岐に渡ります。
また、組織のポリシーや個人の資質によっても上記のうち重視される割合は変わるかと思います。

近年の僕の場合は、おかげさまで組織の規模が拡大してきたので、販売チームや製造管理チームができ、プロジェクトマネージャーもつき、段々と制作業務に集中できるようになってきました。また、僕の編集者としてのタイプですが、現場に全て任せるプロデューサータイプではなく、制作物に対して積極的に意見や提案をしていき、自分で一部のゲームデザインやルール執筆も行うディレクタータイプです。

僕は東京工芸大学の「ゲーム学科」でゲーム制作を学び、キャリアのスタートはデジタルゲームのプランナー(企画職)でした。学生の頃からボードゲームを作ってゲームマーケットに出展していたのもあって、ゲームデザインやプロダクトデザインに対するこだわりが強く、その知見を商品に活かしたいと思っています。ゲームデザイナーと二人三脚で、もしくは制作チーム一丸となって、より良い商品にするべく尽力していくスタンスです。

「単にワガママで現場を混乱させるだけの迷惑プロデューサー」にならないように、できるだけ論理的な指摘や案出し、そして制作チーム内で話をしやすい雰囲気づくりを心がけています。作者との信頼関係が破綻すると、このスタンスは成り立たないからです(←と言いつつたまにやらかすので、自戒を込めて…)。


売れるボードゲームが持っている6つの要素

僕がボードゲームを評価するとき、基準としている6つの要素を紹介します。

1.独創・斬新・面白い

6つの要素の中でも一番重要で、全ての起点となる要素です。ちなみに僕の考える「面白い」の定義は、「面白い」=「新しくて楽しい」です。「新しい」と「楽しい」は両方必要です。

新しいだけで楽しくないものはやらなくていいし、楽しいけど新しくないものは、「元祖」に勝てません。例えば「デッキ構築型ゲーム」というジャンルのきっかけとなった『ドミニオン』というボードゲームがありますが、独創性や斬新さの弱いデッキ構築型ゲームを発売したとしても、それなら元祖の『ドミニオン』を遊んだ方が、プレイヤーも多いし、評価も確かだし、良いのでは……と思われてしまい、売れ伸びません。

そのゲームでないと味わえない「独創、斬新、面白い(新しくて楽しい)」を生み出せているかが、最も重要だと思います。


Q.有名な作品で具体例はありますか?

具体例としては『たった今考えたプロポーズの言葉を君に捧ぐよ。』があります。このゲームは、モチーフに「プロポーズ」という皆が共通して理解している「嬉し恥ずかし」な体験を選んだことが発明だと思います。

プロポーズって概念としては知っていても、人生で何十回とはしませんし、他人がプロポーズをする場面に立ち会うことも、そうそうありませんよね。そんなプロポーズをボードゲームで面白おかしく体験させる。嬉し恥ずかし感、甘酸っぱい感じが安全に(失敗も笑い飛ばせる状況で)何度も手軽に味わえる点が、素晴らしいと思います。

その他にも、例えば「手術」という日常生活ではできないことを、ボードゲームを通して体験できる作品もありますよね。人狼も「嘘をつく、騙す」という人間社会では基本的にやってはいけないことを、思いっきりできてしまう点が面白いですよね。例えばそういう背徳感をうまくゲームに取り入れるのも、良いかもしれません。


2.繰り返し遊びたくなる

6つの要素の中で2番目に重要な要素です。なぜ「繰り返し」という言葉を使っているかというと、ここに落とし穴があるからです。

単に「このゲーム遊んでみて楽しかったですか?」と聞くと「楽しかった」という答えが返ってくる場合でも、聞き方を「今すぐもう一回遊びたいですか?」に変えると、「そこまでではない」という反応になることが多々あります。

「楽しかった」というのは、「誘われてタダで遊べるなら付き合っても良い」くらいなんですよ。「今すぐもう一回遊びたい」くらい惹きつけていないと、「買いたい」「家に置いておきたい」にはなりません。この落とし穴には注意してください。作者に面と向かって「楽しくない」とは中々言えないものです。

僕の場合、事前に調べて厳選した面白そうな作品を100作品遊んだとしても、その中で繰り返し遊びたくなるのは10〜20作品くらいです。繰り返し遊びたくなる作品は、新しさや楽しさが一回遊んだだけではなくならず、このゲーム空間にずっと浸っていたい気持ちになります。そうやって遊ばれる回数が多いゲームというのは、おのずと広まりますし、もちろん評価も高くなります。

僕がこれまでハマって徹夜でやってしまったボードゲームのトップ2は、『ドミニオン』と『ごいた』です。学生時代に一週間のうち3日を「徹夜ドミニオン」に費やしたり(笑)。何度遊んでも、毎回違った新しくて楽しい体験になるので、やめどきがなかったです。

こういう繰り返し遊んで面白いゲームは、面白さがゲームの中だけに閉じていないことが多いです。つまり「人間が面白い」という話で、他者との心理戦や読み合いなどの要素がゲームの中に入っていると、何回遊んでも、人間自体の複雑さが面白みを生み出してくれます。なので、人間の複雑さや趣味嗜好をうまくゲームに取り入れると、面白さが減っていくのを抑制できます。

この考え方はパーティーゲームにも使えて、例えば会話ゲームの『ito』は、遊ぶメンバーによって、各自の回答やそこから発展する会話が毎回違うので面白いですよね。こういった色々なメンバーで遊びたくなる要素があると、繰り返し遊ぶことにつながります。


3.人に言いたくなる

遊んでいる風景が一言で伝えられるゲームは、強いですね。例えば『たった今考えたプロポーズの言葉を君に捧ぐよ。』は、「10秒でセリフを考えてプロポーズするゲームがあるんだよ」って人に言えますし、言いたくなります。

他の例だと、『いかさまゴキブリ』ってゲームを紹介されたときに驚いたんですけど、「ゲーム中にバレないようにカードをテーブルの下に捨てたり袖の中に隠すゲームがあるんだよ」って。「なんじゃそりゃ!そんなのアリか⁉」と感心しました。思わず人に言いたくなりますよね。現にいま、僕は皆さんにこうして紹介しています(笑)。このように色々な場面で、色々な人から話題に上がれば上がるほど、広まります。

もう一つ実例を挙げると、『はぁって言うゲーム』はこの要素がうまいですね。人が人に紹介する場面で「『はぁって言うゲーム』っていうゲームがあるんだよ」「は?何それ⁉」ってなるように設計されています。後々にも挙げますが、遊んでいる風景のテレビ映えのしやすさ。「あの有名人が『はぁ』って言うとどんな風になるのかな、見てみたいな」と思わせられる部分も含めて秀逸だと思います。「ゲーム慣れしていない私でもできそう」と思わせることにも成功しているので、一般層にまで広く売れているのも不思議ではないですね。

リアルの口コミは、ネットだとSNSへの書き込みとなります。熱心なボードゲーマーはXユーザーの割合が高いので、140文字でどんな紹介をしてほしいのか、「理想の紹介ポスト」をあらかじめ想定して、それに似たポストが実際に多く書き込まれるように、逆算してゲームの各要素を調整します。言ってほしい、書いてほしいことをそのままキャッチコピーに書くのも手です。僕はこれを「お客さんに武器を渡す」と呼んでいます。説明しすぎにならずに、使いやすく芯を捉えたキャッチコピーが書けると、お客さんたちやメディアは喜んで使って広めてくれます。


4.傍から見ていて面白そう・映える

リアルの場合、ボードゲームカフェやボードゲーム会で隣の卓のそのゲームを見て「何それ⁉やってみたい!」と思うかどうか。ネットの場合、SNS(Xなど)でそのゲームの写真や動画が目に入ったときに「何これ⁉やってみたい!」と思うかどうかです。「動画映えする」なら、テレビにも取り上げてもらいやすいでしょう。

その状況を作るには、遊んでいる人たち「だけ」が面白がっているだけでは不十分です。周りで見ている人たちに対して、「いま何が競われていて、誰が勝ちそうか。何が楽しいポイントなのか」などが一目で分かるように設計しておく必要があります。

例えばボード上のアイコンの位置や大きさなどで直感的にわかるようにしておいたり、必要な情報が必要なときに(だけ)目に入るように工夫したり、遊んでいる風景が写真一枚で収まって、それを見ただけで魅力が伝わるように「理想の一枚」を想定して、そこから逆算的に設計しておくなど、ゲームの制作時点で意識して工夫を仕込んでおくことが重要です。

広まるにはそれなりの理由があるのです。

最近の例だと、シネマトリック&オインクゲームズさんから出た『ダイイングメッセージ』というゲームがあります。これは非常に強力で、写真一枚で「人が死んでいる」「ダイイングメッセージがある」「容疑者のカードが並んでいる」ことが分かり、見た人は自然と「この人たちの誰かが犯人で、それを暗号を解いて当てるんだろうな」と思うようにできています。「自分だったらどんな暗号を残すかな」「自分もやってみたいな」などと考える人もいるでしょう。伝播力と誘導が非常に上手く設計できている好例だと思います。


5.普遍性がある

ボードゲームは他のコンテンツやエンタメと比較して、ゆるく長く売れ続ける商材だと思っています。予算をつぎ込んだ贅沢な宣伝を発売前にかけて、発売1か月でどれだけ売れるかが勝負、というわけではなくて、ボードゲームは宣伝に使える予算が限られているのと、遊ばれながら広まっていく性質があるので、「たくさん売れるか」は、「定番化するか」とほぼイコールだと思っています。

僕は「絵本みたい」ってよく言うんですが、例えば絵本の『はらぺこあおむし』や『ぐりとぐら』などの定番商品が世代を超えてずっと売れ続けているように、ボードゲームも定番化した商品はずっと売れ続けます。

例えば『ito』なんかは発売が2019年で、2024年で5年が経ちますが、売れ数は減るどころか徐々に増えていて、シリーズ累計30万本を突破してもなお止まることなく推移しています。これは販売チームの尽力に寄るところも大きいですが、商品自体に何年経っても色あせない面白さの工夫があるかどうか、人間の本質に迫った面白さがあるかどうか、が重要だと思っています。


6.時流に合っている

6つの要素の中では重要度が一番下ですが、時流に合っているかどうかも参考程度に考えます。例えば先に挙げた『ダイイングメッセージ』は、昨今のマーダーミステリーや謎解きの流行、名探偵コナンのような推理、犯人探しといった流行に合っている作品です。

毎月たくさんのボードゲームが出ている中で、優先的にやってみようと思わせるフックになるのがこの観点です。とはいえ目先の流行ばかりに気を取られて、一年後に陳腐化してしまっても本末転倒なので、流行と言っても数年は続くような大きな流れを意識する程度に留めておく方が無難でしょう。前述のとおりボードゲームは定番化して長く売れ続けることの方がより重要だと思うからです。

以上、6つの要素を紹介しましたが、これらは1つの商品で全てを満たさないといけないという訳ではなくて、商品の性質に合わせて、適宜参考にされると良いかと思います。


後半は7月12日公開予定です!後半は「ゲームルールのブラッシュアップを行うときに重視している点」について深掘りいただきます。


イベント「のざくに流!ボドゲ制作道場」は今後も定期的に開催予定です!開催の際には、X(旧Twitter)のAnagumaアカウントより告知します。皆様のフォロー、お待ちしています!

「のざくに流!ボドゲ制作秘伝の書」についても、イベント後に更新予定ですので、vol.2をどうぞお楽しみに!

 


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