イーヴォ・ポゴレリチ ピアノリサイタル【オレンジ色の答えを探して】
久々の演奏会に行って参りました!
2024年、記念すべき演奏会始めに選んだのはこのお方…イーヴォ・ポゴレリチです!!
彼の音を初めて知ったのは、何気なく聴いたショパンの録音。サブスクでたまたま1番上に出てきたショパンの24の前奏曲のアルバムだったのですが、とっても色を感じる音でした。
ピアニストの音から感じる印象って本当に様々で。現代美術的だったり、風景画的だったり、音の模様や形の印象が強めだったり。
ポゴレリチは色の印象が強いピアニスト。初めて録音で聴いた時、パッと浮かんだのは鮮やかなオレンジ色でした。そこから万華鏡のように何色もの音がキラキラと輝いて聴こえ、どんどん引き込まれていきます。
録音で色を先行して感じるこの現象、実はとあるピアニストと同じ…
それは、ミハイル・プレトニョフです!
疑問に思った私は、ポゴレリチについて調べてみる。すると、納得の情報を入手。
なんと、12歳からロシアで音楽教育を受けていたのですね。しかも、プレトニョフと同世代。
あぁ、これがロシアピアニズムと言うのでしょうか。全く違う2人の音色に見つけた共通点は、伝統を引き継いでいくことの素晴らしさを体現していると思います。私はお2人の演奏から「伝統って引き継いでいくことで進化するんだ!」って思いました。
そんなポゴレリチの音を聴きに、サントリーホールを訪れました。
が、私この日はとんでもなくツイていなかった…
まず、予定通りに電車に乗ったつもりが、時間を1時間勘違いして家を出ていたことに気づく。お陰で丸1時間の遅刻。そして、予約した座席が1階席と2階席が被っているいわくつきの座席だった…あんなに注意して選んだのにー!
初めてのサントリーホールなのに開演のワクワクを噛み締めることもできず、急いでエントランスに入り受付の人に謝りまくる。
ただ、幸運だったのは、違う席に変更できたこと。(カジモトのスタッフさん、ありがとうございます)
もうすぐ休憩に入るので、そのタイミングでのご案内になるとのこと。しばらくロビーで待機していました。
今回遅刻して初めて知ったのですが、演奏中ってスピーカーで館内中にリアル演奏が流れるのですね。トイレの中まで演奏が流れていて驚きました。スタッフさん、無料で色んな音楽が聴けて良いなぁなんて思ったり。
と同時に、今日のポゴレリチは調子があまり良く無いのかなぁとも思いました。音が潰れて聴こえる時が多々あったので。
そんなことを考えているとあっという間に休憩時間に。ロビーへ出てくる人達の波をかき分けながら、無事変更していただいた座席に辿り着く。
新しいお席は2階席前方。ポゴレリチの生演奏は初めてなので、いきなりの2階席で彼の音をしっかり感じられるか不安でしたが…自分の選択ミスなので仕方ない。
そして当のご本人と言えば、待てど暮らせど一向に休憩から戻ってこない。不安そうな様子で時計を気にかける人達も出始め、会場も何となく落ち着かない雰囲気になってきた頃、やっとご本人が登場しました。
が、杖をついて足をびっこひきながら歩いてきたのです。周りの人は全く驚いていなかったので、恐らく初めからこの調子だったのでしょう。
ロビーで感じた音の違和感は、やはりご本人の体調が万全ではなかったからかな?と思いました。
椅子に座るのも一苦労で。右足を曲げられないところを見ると、膝〜股関節にかけての部位で骨折のオペでもしたのかしら?と看護師目線で考えてみる。
しかし、演奏が始まるとそんな心配はご無用でした。もう、うっとりするほど音が美しかったです。(長めの休憩で少し体が休まったのかな?)
ご本人の演奏もさることながら、サントリーホールも素晴らしい。演奏中、飴の包紙を開けるような音が聴こえたのですが、その包み紙がクシャクシャ鳴る音の響きですら美しいと感じた時は、さすがに驚きました。そう言えば、時々聴こえる観客の咳払いもあまり気にならなかった。何だか、音が上に抜けていくんですよね。確かにポゴレリチの音も、鳴ったあと一瞬上に引っ張られているような気がする。それがホールのせいなのかは分かりませんが。
彼も、会場の空気に音を伝播させて響かせるタイプのピアニストでした。一音一音が優しく空気に乗っていき、浮かんだ音の粒たちがキラキラと漂っているような印象。先程述べたプレトニョフの演奏は、音が鳴るたびに重なり合って滲み、じゅわ〜と客席まで漂ってくるので、「同じ空気伝播系でも漂い方が違う」と新たな発見に嬉しくなりました。
特に美しかったのが、アンコールのショパン ノクターンホ長調Op.62-2。
音の幾何反射のよう、はらはらと舞う音がポゴレリチに降り注いで、暖かな陽だまりと光の粒を感じたとき「やっぱりオレンジ色だ!万華鏡だ!」と録音を聴いた時の光景とリンクして、感動してしまいました。
しかし、このオレンジ色。
サントリーホールの響きのお陰で偶然色と雰囲気がリンクした感もあり、彼の音を理解できたとはとても言い切れない。
ですが結局、1度の演奏で答えは出せず。
プレトニョフの公演の時もそうだったのですが、色先行型×音伝播系の音色って音のマチエール(形)が見えなくて、全体像が掴みづらいのです。
だいたいどの音にもマチエールってあるのだけれど、お2人にはそれが見えるようで見えない。
もはや、彼らの音にはマチエールなんて存在していないのか?
それがロシアピアニズムたるものなのか…
あぁ、オレンジ色の答えを探す道のりは長そうだ。