4文小説 Vol.7
母はいまも時々、亡き父の夢を見ては、夢日記と呼ぶノートに内容を記している。
この季節に欠かせないのはエアコン、照明もカーテンも必要だし、安心のため警備会社とも契約、銀行と郵便局をはしごして下ろした預貯金の詰まった鞄を、いつになくしっかり胸元に抱えた。
不出来な小心者は最初、母が持ちかけた話をつれなく拒絶してしまったが、今朝の夢日記に現れた父は小柄な身体に不釣り合いなほど大きなリュックを背負い、嬉しそうに荷物を運んでいたらしく、ひとり親に亡父が喜ぶ夢を見せられたなら、将来への決断を信じてみてもいいだろうか。
すでに給料ひと月分以上を費やしても既製品は選ばず、父が生前にしたためた直筆の文字、かつて3人で暮らした家で用いたものを再現することにしたオーダーメイドの表札を貼り付けたころ、庭先に可愛らしいお客さんが舞い降りてきて、それはアゲハチョウのような模様の見たこともない小鳥だった。
―新しい生活