黄金の再現 Footballがライフワーク Vol.39
年齢を重ねるごとに上手くなり、プレーの幅を広げていった印象がある。わが地元の名門、滝二こと滝川第二高校が輩出した多くの選手たちのなかでも、出世頭だろう。代表で積み重ねた得点は、歴代3位。上位は釜本邦茂と三浦知良のみだから、日本が誇る両雄に次ぐ堂々たる足跡だ。岡崎慎司が、現役引退を表明した。40代ともなると、歳下の選手たちでも続々とキャリアにピリオドを打つようになる。
就職2年目の2008年は、2度ほどスタジアムで雄姿を拝んだ。反町康治監督のもと主力メンバーとして北京五輪に臨む直前の強化試合、神戸でのオーストラリア戦では香川真司とともに凱旋ゴールを決めた。2度目は静岡、日本平。清水で地歩を固めリーグでも屈指の有望株となっていた岡崎は、現在で言えば柏の細谷真大のような立ち位置だったろうか。対戦相手は、福西崇史やディエゴがいた東京ヴェルディだった。
J1の舞台に帰ってきたのは、その2008年以来。16シーズンぶりの復帰を果たしたヴェルディが、開幕戦で横浜F・マリノスと対戦した。舞台は、国立。満員の観客を集めリーグの起源となったゲームが再現され、あの日と同じように登壇した川淵三郎が涙ぐむ。当時が記憶の片隅に残る世代には、この場面だけでも感慨深いところ、さらなる感動を与えてくれたのはキックオフのあとだった。
まさか、ヴェルディがリードして折り返すとは。プレーオフの果てに、言わば最後の切符を掴んでトップリーグへ滑り込んだチームと、30年間トップリーグを生き抜き、最近5年間でも2度の優勝を果たしたチーム。日本リーグ時代には黄金カードだった読売クラブと日産も、それを維持したJリーグの草創期を経て、次第に明暗が分かれていった。両者の拮抗した攻防は予想しにくかったが、山田楓喜の左足が叩き込んだ見事なフリーキックを、ヴェルディは終盤まで守り抜いた。まるでタイムスリップしたかのように、かつてのライバルと互角に渡り合った。
ドラマは、粋な舞台設定とヴェルディの大善戦をもって幕引きとはならなかった。宮市亮とヤン・マテウスの同時投入で攻勢を強めたものの、流れるような連携からフィニッシュした宮市のシュートはオフサイド。敗色濃厚、それでも最後に笑ったのはFマリノスだった。アンデルソン・ロペスのPKでようやく追いつき、ほどなく突入したアディショナルタイムも3分、松原健が逆足の左で放ったシュートは、鮮やかなカーブを描いて突き刺さる。スコアは2-1、マリノスの逆転勝ち。決着に至るまで、1993年5月15日が再現されたのだ。
始まりから、素晴らしいものが観れた。昨シーズン、さまざまな出来事に彩られたリーグ30周年が、新たなシーズンに「続編」を残していたことに驚嘆した。数か月間、神戸の初優勝に満たされていた身としては、夢心地から目が覚めたような気分にもなった。あの日、2月25日のゲームを観た人々の多くが、そこかしこで感想を共有しているはずだ。なかには、31年前の「元祖」を知る人と知らない人の語らいもあったことだろう。そんなふうにして、Jリーグの歴史が引き継がれていく。
今シーズンも、すでに第2節を消化した。早くも、連勝したチームは不在。初めて「金色のJ」が右袖に付いたわが神戸も、ホーム開幕戦で躓いてしまった。混戦を極めそうなリーグ戦にあって、ヴェルディはまたしても浦和をリードしながら終盤にPKを与えて初勝利を逃した。これからの展開は、何もわからない。神戸は振るわない時代へ逆戻りしてしまうかもしれないし、ヴェルディはJ1の壁を超えられないかもしれない。それでも、この先どんなことがあっても、今シーズンの幕開けのことは忘れないと確信している。
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