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普段着の街 第3のリベロ Vol.28

初めて目にする道は、つい足を踏み入れてみたくなる。細くて上りの階段にでも通じている道なら、その先に何があるのか、なおのこと興味を掻き立てられる。

先日の例はすぐ近所で、階段を上った小さな公園からは、団地群の向こうの山の間隙に海が見えた。こんな風景と出会うたび、わが街の縮図を目の当たりにするようで、「須磨らしいな」という感想を抱く。

海と山と街、それぞれが隣り合って織り成す三位一体。ところ変わればおいそれと見つからないかもしれない風景が、須磨には満ち溢れている。

19歳から20年あまり過ごした旧居が名残惜しいのは、リビングの窓一面に広がっていた松林と海の眺めを思い出すためだ。ときどき海岸を歩いたのは春か秋で、白砂を踏みしめては、海水浴の季節には無い静けさがもたらす地元の安心感に浸っていた。

小高い山に囲まれた住宅街へ移り住んだ現在、どの部屋からも目に入る木々が、今年も瑞々しい新緑に彩られる季節になった。山を歩けば、階段の切れ目など気の利いた地点にベンチが設けられ、展望台から肉眼で自宅を確認できるくらいの高さだから、本格的な装いでなくとも気軽に満喫できる。

私にとって大丸といえば、いまも元町ではなく名谷にある須磨店だ。遠方の方々が神戸から連想する都会的な雰囲気とは異なり、居住空間や文教地区との境い目が無い街では、至るところで「トミーズ」の山盛りのフライドポテトを頬張ることができ、トミポテと通称される濃厚な塩味は、子供心に「くせになる」感覚を教えてくれた。

この街では、海岸にも山登りにも百貨店にも、その気になれば普段着で通える。穏やかな海となだらかな山、繁華でないぶん居心地の良い街に恵まれたおかげで、40年間、私の住所はずっと須磨のままだ。


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