おばさん、バンバン!!
子ども2人と家路を急ぐ。喋ったり歌ったり、私たちの帰り道はいつも賑やかだ。
信号待ちで傍にいたおばさんがこちらを見ているのに気付き、社交的な6歳の息子が声をかけた。
「今日クリスマスツリー飾るんだ」
子どもが好きなのかな、と私も何の気なしに子どもたちに向けた笑顔のまま軽く会釈をしたら、そのおばさんは「あなた、子どもを抱っこしたりするのにそんなヒールのある靴よく履いてるわね、危ない」と言った。思いもよらない言葉に一瞬、え?と笑顔のまま戸惑った。
「大丈夫ですよ。低いヒールだし慣れてますから」と答えると、「いいえ! 危ないわよ。子どもと一緒の時はペタンコの靴、お勧めいたします」と言って、スタスタと行ってしまった。
心臓がキュッと縮んだ気がした。ヒールと言っても4㎝程度で、私にとってはペタンコ靴も同然なのだが、おばさんには危なく見えたのだろう。心配して気遣いから言ってくれたのか、子どもと歩く時にヒール靴なんて、という批判だったのかは、言い方と後ろ姿で分かる。
予想外の展開に顔の表情が追い付かず、固まった笑顔のまま横断歩道を渡った。心にチクリと棘が刺さったような、小さな痛みを感じながら。
子どもの手前、わざと元気よく「さぁもう着くよ、歩こ!」と声を出した。
でも子供は敏感だ。2歳の娘が聞いてきた。
「今のおばさん、ママにいじわる言ったの? ママの靴、可愛くないって言ったの?」
一寸ためらって「んー…」と言うと、娘は「おばさん、ダメ! バツ! おばさん、バンバン!」と怒った顔をして、両手を相撲の突き出しのようにおばさんの後ろ姿に向けてみせた。息子も「僕がクリスマスツリー出すよ、って言っても知らんぷりして行っちゃった。あのおばさん、すごくやな気持ちになった」と怒り顔だ。
「ダメだね、あのおばさん! 」と小さな子ども2人が怒っていた。
心に刺さった小さな棘を上手く抜けず、すぐに傷つく母に代わって反撃してくれる小さな勇者たち。「ありがとう、ママ大丈夫よ」と言って家の鍵を開けた。
玄関に入る直前、娘はもう一度外に向かって手を突き出し、「おばさんダメ! バンバン! 」と言って中に入った。