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こわがりが終わるとき

 息子8歳、娘4歳。怖がりなのは圧倒的に息子の方である。リビングからすぐのトイレですら、一人で行くことができない。妹が
「電気つけてあげるよ」
と、彼の先を歩いてくれると、恥ずかしそうに、でも安心してトイレに行く。まったく怖がりも過ぎるねえと、夫と二人笑うのだが、思い返せばわたしもそうだった。
 トイレでもお風呂でも、いわゆるキッチンやリビングといった、人が必ずいる部屋以外に行くのがとても苦手だった。子どもの頃はお化け、虫、暗がり、怖いものがたくさんあった。一つ下の妹も怖がっていたけれど、わたしよりは逞しかった。虫採りをしたり、怖い漫画を読むようになったりして、わが妹ながらすごいなあと思ったものだ。
 親戚で富士急ハイランドに行った時も、皆が入った『恐怖のスリラー館』で一人、出発寸前にゴンドラから飛び降りてしまったのはいとこ最年長のわたしだった。年の近いいとこたちから、一番年上のエミちゃんがしっかりしてなきゃいけないのに、ダメじゃん…といったことをしょっちゅう言われて、すごく腑に落ちない気持ちがあった。息子も今、同じ気持ちかな…。
 そう思うと、一人で手も洗いに行けない息子は昔のわたしである。親になって、自分より確実に、圧倒的に小さく弱い存在ができたからこそ、自分と同じ弱さを笑える程度に強くなったに過ぎない。暗さや怖さに対する耐性ができたのは子どものおかげだ。強くしてくれてありがとう、と言ってもいいくらいなのに、あのときのいとこたちと同じようなことを言っている。
 何かにつけ
「暗い! ママ来て! 」
という息子の声も、そのうち少しずつ減ってくるのだろう。自分でさっさと電気をつけ、自分の部屋のドアを閉めるような日もくるに違いない。暗い場所、初めての道、一人で入る部屋…親に声をかけることなく、進んでいくようになるまでに、どれくらいの時間が残っているだろう。
 夕食後の「ママ! 来て! 」の声に、一人で行けるでしょ、怖がりねえと笑ってあしらうのをやめて、やれやれ、と言いつつ息子の先を行って電気をつけた。

息子には暗くて怖かった“向こうがわ”

#創作大賞2024
#エッセイ部門      

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