ケース26.ソマティック·マーカー仮説〜意思決定の質を高める息抜き〜
▶︎タスクに忙殺されないために必要なことは?
日々、やらなければならないと感じることに溢れている中で、漏れてしまったり、優先順位を誤ってしまったり、と後悔したことはないでしょうか?
経営の視点:
・最も事業にインパクトすることにフォーカスしてほしい
・人の思考回路に関与することは不可能
現場の視点:
・忙殺されるほど思考する時間が減る
・重要度の高いことよりも緊急度が高いことに追われる
『7つの習慣』では、緊急度が高く、かつ重要度が高い仕事に一日中浸かってしまっていると、常に問題に溢れ、締め切りに追われる日々を過ごすことになり、さらに緊急度と重要度が高い仕事が増えていく負のループに陥ると警鐘されています。
そのため、緊急度が高い仕事を貯め込まずに、重要度が高いことにフォーカスするには、「△△だから〇〇する」と迅速かつ的確な判断、すなわち大なり小なり日々のさまざまな場面で意思決定力が重要となります。
忙殺されて負のループに陥る要因の多くは、「どうしたら良いのだろうか?」、「後で考えよう」と先延ばしにしたり、「とにかくAをやっておこう」と優先順位を誤ったり、意思決定のスピードと質にあります。
そこで今回は、意思決定は感情に左右されるとのソマティック・マーカー仮説という理論に用いて、意思決定の質とスピードを高める息抜きについて考察します。
▶︎ソマティック・マーカー仮説
例えば、AさんがBさんの発言に”不快感”を覚えた経験があった場合、Bさんから協力依頼があったとして、すぐに対応せずに優先度を下げて対応してしまう。
過去に改善を試みたが”体調を崩して”挫折した業務を避けてしまう、全体最適で改善提案を何度もしていたにも関わらずに何も変わらなかったことに”疲弊”して個人最適にフォーカスしてしまうといったように、人が行動する時に複数の選択肢が想起される中で、無意識に過去の経験から生じた”感情”に左右されることが示されています。
事業投資やアサイン、退職などの重要な意思決定においても、感情に左右されることは簡単には避けられません。
身近な例では、本を読んで”時間を無駄にした”と記憶すれば本を読まなくなり、本を読んで”〇〇で活かすことができた”と記憶すれば本を読むようになります。
つまり、失敗体験が多いほど消極的な思考になり、成功体験が多いほど積極的な思考になることも、ソマティック・マーカー仮説で解釈することができます。
ソマティック・マーカー仮説を踏まえると、日々忙殺されてネガティブな感情に陥っているほど、物事を否定的に意思決定されてしまうため、肯定的に物事に臨むためには感情整理の息抜きが必要と考えられます。
それでは、感情整理のための息抜きは何がポイントになるのでしょうか?
▶︎休暇を通じてポジティブな思考を整理する
主体的に思考する時間を意図的に作らなければ、ソマティック・マーカー仮説によって、さまざまな事象に反応して、感情的に意思決定をしていきます。
受け身で瞬間的な感情に左右されずに、主体的なセンスメイキング(主体的な意味づけ)のために休暇が重要です。
例えば、仏教思想では、マインドフルネスのように、言語化できない直感的な感覚を追求していくことで、苦悩をサッと抜けていくとされています。
忙殺された日々から離れて、休暇を活用してリフレッシュしたり、セレンディピティを楽しみながら、身体的な体験を感じ取っていくことは、前向きに思考を整理していくために有効なのです。
心地よい体験を意識的に味わうことで、脳におけるポジティブな感情を感じる神経回路が強化されることはセイバリングと言われています。
※セイバリングに関する記事
また、将棋棋士の羽生善治さん著書『大局観』の中では、遊びはより深く、より長く、ものごとに集中することを可能とし、より深くものごとを考察する力、多角的な視野、論理的に確実に一つ一つの思考を積み重ねていく能力などが、より洗練された無駄のの少ないものヘと進化していくと述べられており、休暇を楽しむことは意思決定力にも繋がります。
ソマティック・マーカー仮説を踏まえると、適度に休暇を取り、「〇〇はキツかったな‥」ではなく「〇〇があったからこそ!」とポジティブな状態で過去の経験に対してセンスメイキングすることは、その後の積極的な意思決定の一助になると考えられます。
現代の政治やビジネスの骨子にもなっている哲学の発展は、当時の意志ある有識者が”暇”によって思想に耽り、討論を交わして、思想を深めたことによって為されています。
哲学の発展を参考にすると、忙殺されすぎると思考が深まらないとも言えます。
▶︎センスを磨く習慣を持つ
行動経済学のダニエル・カーネマンは、人の思考回路は、直感と熟考の2つの機能があり、多くは脳の負荷を抑えるために直感によって意思決定されると述べています。
また、数分思考しても、数十分思考しても導き出せる解はそれほど変わらないとするファーストチェス理論があり、ソフトバンクの孫正義さんが「10秒以上考えても分からないことは無駄」と即意思決定しているように、直感の土台となるセンスを磨くことが意思決定力を高めるために必要です。
将棋棋士の羽生善治さん著書『大局観』の中で、日々のインプットによって、無数の選択肢がある中で大局を捉えた瞬間的な意思決定ができるようになることが示唆されています。
例えば、知識を蓄える読書、倫理観を培うための映画、漫画、音楽などのアートや、チームプレイや自己の基準を高めることを追求する運動などの習慣があると、心身をリフレッシュさせながら、「〇〇の場合は△△」とセンスを磨くことができます。
日々忙殺されていると、このような土台づくりができないため、時間的な拘束が過度に高い状態にならずに余暇を設けられるように生産性を意識した環境づくりは重要です。
普段の業務から離れるきっかけづくりとなる社内部活も有効と考えられます。
ソマティック・マーカー仮説を踏まえると、人の意思決定の際には感情に左右されることは避けられないため、意思決定の判断材料を日頃から整えていくことが望ましいのではないでしょうか。
センスを磨いて多面的に視点で思考できる力がなければ、マクナマラの誤謬に示されるような定量のみで判断して誤った方向性に突き進んでしまうことに注意しなければなりません。
※マクナマラの誤謬に関する記事
▶︎日常に流されない
ドラッカーの著書『経営者の条件』の下記の一節にあるように、日常に流されていては重要なことを見失ってしまいます。
人は感情で意思決定するとのソマティック・マーカー仮説に対策するために、思考と感情を整理するために意思を持って息抜きをすることが、日頃の大なり小なりの意思決定の質とスピードを高めていくのです。
また、ネガティブな体験が多いほどネガティブな行動選択になりやすく気付かぬうちに組織崩壊に陥いるリスクが高まるため、ポジティブな体験を意図的に作り出すことが、勢いのある組織づくりのためには重要な視点なのではないでしょうか。
※本noteでは、人の可能性を拓く組織づくりのための新しい気付きを届けることを目的に、組織論とケースを考察していきます。 他記事はぜひマガジンからご覧ください!