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事業成長につなげるための人事評価の考え方

成熟企業と比較して、成長企業は中途採用が中心となるため、個々人のキャリア開発と組織の成長が結び付く人事制度の重要度が高いと言えます。
人事制度に不満が生じやすい状態だと、組織が拡大するほど、報酬や評価、キャリアなどの悩みが増加して、次第に重力となって、コトに向き合えなくなります。

どんな制度も、公平性を追求してルールを作り込もうとも起こり得ること全てを網羅することは難しく、むしろ不透明が増して運用が難しくなり、組織の慣性によって不完全なまま根付いてしまうため、万人に公平は極めて難しいことが前提です。
そのため、人事制度を導入すると、想像以上に運用負担が発生します。

しかし、成長を目指す企業こそ、人事制度は市場からリソースを確保する採用競争力となり、組織内の人の成長を加速する事業競争力となります。

今回は、経営の方針と現場の努力を接続することで人事制度の運用の肝となる評価制度の運用の考え方についてポイントを整理します!

等級(グレード)と評価の関連性

人事制度は等級制度、評価制度、賃金制度の3本柱がセットとなります。
等級制度が評価制度と賃金制度の土台となりますが、運用時にややこしくなることの1つが等級と評価の考え方がごちゃ混ぜになってしまうこと。

一方、等級(グレード)は、組織が個人に求める期待水準を段階分け指針であるため、等級がないと各現場のマネージャー⇄メンバー間で、異なった方向性に進むフィードバックが交わされしまい、等級なき評価制度は短期的な機能となるため、等級と評価の両輪の運用は重要です。

引用:坪谷 邦生 著
図解 人材マネジメント 入門 人事の基礎をゼロからおさえておきたい人のための「理論と実践」100のツボ


等級と評価の両輪を運用する上で抑えるべき相違点は下記。

A.等級
①対象:再現性(将来の期待)
②対象期間:過去から未来
③報酬との連動:報酬レンジを決める

B.評価
①対象:過去のパフォーマンス
②対象期間:一定期間
③報酬との連動:昇降給の金額を決める


過去に報いるか、未来に賭けるかの大きな相違があります。
※一定期間の評価と等級の再現性を連動するための仕組みとしては、累積評価ポイントを等級の昇格基準とする方法があります。

等級数を多くし過ぎると、等級間の基準が曖昧になり、少なくすぎると等級ごとの納得感が薄れてしまうため、中途採用が中心の成長企業では、中間等級に層が厚くなるダイヤモンド型で、5〜8等級が定説です。

「上期の〇〇が良かった」との一定期間のパフォーマンスに対する評価と、「▲等級として次は〇〇に期待している」との再現性に対する等級のコミュニケーションは分けることが未来の成長意欲を高めるためのポイントです。

また、等級の昇格には、現等級の範囲を満たすことで昇格する卒業方式と、上位等級の範囲にチャレンジすることで昇格する入学方式があるため、現制度の昇格基準に合わせた期待値をすり合わせることが必要です。

なお、等級の公開のメリデメは下記。

>個人の等級を公開するメリット
①各等級を具体的にイメージできる
②説明責任が生じるため、評価者の精度が高まる
③上位等級者に適度な緊張感が生じる
>個人の等級を公開するデメリット
①相手の評価のポイントを知らずに不平不満が生じやすくなる
②降格が扱いづらくなる
③下位等級者がいづらくなる

能力評価の実践

外部要因が入る成果評価だけでは、再現性を判定することができず、また成果創出までのリードタイムが評価期間を越える役割の評価ができないため、何が良かったのか継続すべきことを測る能力評価が重要となりますが、この難しさが評価の運用の障壁となります。

能力評価が難しい要因が下記。

①行動の観察と記録が必要
②成果につながる行動を定義づけなければならない


能力評価のためには、マネージャーが目標設定段階から成果創出に必要な行動を考えて、マネージャー⇄メンバー間のコミュニケーション量と質を通じて、評価期間に測定することがポイントとなります。

ex)無策にアポを取るのではなく、関心を持つターゲットにアポを取った数を評価する

成長企業では、期中に目標変更が必要になる場面があるため、成果だけではなく行動に焦点を当てなれければ臨機応変に評価することができません。

また、個人の心情においても、努力しているにも関わらず成長を感じられないプラトー状態に直面すると、過程を評価されないことが自信喪失につながってしまうことにも注意が必要です。

相対評価の注意

評価方法には下記の2つがあります。

A.絶対評価:各個人の等級基準に対する評価
B.相対評価:同じ等級同士の比較による評価

評価が成長につながるためには被評価者の心情が絡むため、評価者が被評価者に対して評価の基準を翻訳できなければ納得感を担保することはできません。

その観点では、人件費のコントロールおよび社内競争を刺激することを目的とする相対評価には運用の注意が必要です。

なぜならば、相対評価では自己がどれだけの成果を残したとしても「他の人の方がもっと良かったから」との理由で評価されないことが起こり得るからです。
また、妬みや他者の不幸を願うような感情が芽生えやすくなったり、顧客や価値の外向きではなく社内の比較の内向きの思考になりやすいデメリットもあります。

そのため、相対評価を運用する場合は、サプライズが生じないように、中間評価を通じた期中のすり合わせのコミュニケーションが肝心です。

特に特別な役割を持つ被評価者とのズレが生じないように、評価のポイントを被評価者のみならず評価者間でも握らなければなりません。

バイアス対策

人はどれほど気をつけようとも思い込みが生じるため、評価者は下記のようなバイアスを自覚することがポイントです。

①ピークエンドバイアス
ピーク(最高もしくは最低)とエンド(評価の時期)に評価が引っ張られる
② 参照点バイアス
評価基準ではなく、評価者自身と比較して評価してしまう
③同調性バイアス
メンバーの感情や人間関係、自分の好き嫌いなどに引っ張られて評価してしまう
④ハロー効果
一部の印象に引きずられて他の特徴についての評価してしまう


評価は甘辛調整が人の成長を加速するために重要となりますが、評価者が被評価者の反発を恐れたり、自信がないと、中心化傾向や寬大化傾向で甘くなりやすいことにも注意が必要です。

評価会議の目的理解

評価者同士の評価会議が評価をすり合わせる過程にありますが、その目的は下記。

①評価を最終決定すること
②評価者の目線を揃えること
③各個人の成長度合いを共有すること


評価の背景や理由を共有する過程で、組織全体の状態と各個人の育成/抜擢について総括することができるため、評価会議は多忙な日常に溢れる成長企業にとっては、組織開発と人材開発の合意形成を図る勝負所となります。

一方、前提は参加者が他部門を含めた組織全体に対する当事者意識が不可欠であるため、評価会議の度に目的を振り返ることがポイントです。
また、多数決の原理や集団性のバイアスが生じやすいことから、合理的なディスカッションが促進されるように、評価材料の可視化や過去の評価履歴などの仕組みも構築すべきです。

目標設定の連動

評価を人の成長に活かすには次の目標設定がセットで必要ですが、評価者と被評価者の評価の納得度にズレが生じていると目標設定もズレてしまうため、下記の被評価者の状態を把握して目標設定することが重要です。

①自己評価が高い×上司評価が高い
→成長が止まらないように成長の軌跡を言語化して次の目標を決める
②自己評価が高い×上司評価が低い
→理想像に対する現在地のGAPを要素分解して、評価基準と照らし合わせて目標を決める
③自己評価が低い×上司評価が高い
→自己肯定感を高めるために評価のポイントを共有して、次の期待値で目標を決める
④自己評価が低い×上司評価が低い
→学習性無力感に陥らないように、小さな成功体験を得られるように目標を刻んで決める


評価の際には、重箱の隅をつついてしまうと無数にmoreばかりが出て被評価者の徒労感になってしまうため、期待を伝えるべきであり、次の期待とは無関係なものは除外しなければなりません。
moreポイントを間違えてフィードバックすると頑張り方を間違えてしまいます。

また、定性的な話に留めずに、数字や事象で捉えてBefore-Afterを振り返ることが成長を促進します。

人事制度のオーナー体制の確立


完全に公平な人事制度の構築は難しいことに加えて、事業成長のために人事制度を運用するには、組織の人の変化に合わせて人事制度をチューニングしなければ、むしろ足枷になってしまいます。
成長企業の人事制度の運用の綻びが生じる要因は、このチューニングのためのリソース不足にあり、形骸化につながります。
制度運用の期間ごとに現制度の仕組みと運用それぞれのGood/Moreを総括して改善するためには、「改善できれば良い」で流れないように下記の権限と実行責任を担うオーナーを確立することが必要です。

①経営と握る
②現場の声を拾う
③仕組みを磨く
④運用のポイントを説明する


また、細部のチューニングがあれども賃金が絡む関係上、人事制度の骨子は短くとも2〜3年は変更ができない前提になるため、オーナーに依存しないように、WhyやHowを文書化することも欠かせないでしょう。

人の成長を通じて事業を成長させる評価運用

一度、評価制度を構築すると、程度の差はあれども誰しもが必ず影響を受けるため、中途半端な運用では綻びが生じます。
評価を通じて、経営から現場に感謝や賞賛、鼓舞といったメッセージが伝わることが、個人がその組織に属して同じ方向に進んでいきたいとの意欲につながります。

引用:坪谷 邦生 著
図解 人材マネジメント 入門 人事の基礎をゼロからおさえておきたい人のための「理論と実践」100のツボ


だからこそ、評価をコストコントロールのための査定だけではなく、資本投資として人の変化を生み出すために運用できているかが事業成長を実現するための勝負です。

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