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ケース4.セイバリング〜持続可能な働き方〜

▶︎人生100年時代。持続可能な働き方をするには?


目標に向かって邁進していると、ふとした時に「いつまで続くのだろうか」とドッと疲労感が生じることはあるのではないでしょうか?

経営の視点:
・安定的にパフォーマンスを発揮してほしい
・労務管理リスクが不安

現場の視点:
・リフレッシュしてポジティブな感情で働きたい
・上手くいかないことがあるとモヤモヤする

仕事は常に複数の関係者がいる以上、自分でコントロールしきれない不確実の要素が予想だにしないタイミングで入り込んでくるものです。
それにも関わらず、仕事が全てになると成果の良し悪しでモチベーションが乱高下してしまいます。
そのため、仕事はあくまで人生の一部として、短距離走ではなく人生100年時代のマラソンで、持続可能な働き方ができるかが重要です。

ロンドン・ビジネス・スクールの組織論学者のリンダ・グラットン教授は、『LIFE SHIFT』の中で、下記のようにセルフコントロールの重要性を説いています。

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長寿化がさらに進めば、セルフコントロールの失敗が生むコストはいっそう膨らむ。長寿化時代には、現在の行動と未来のニーズのバランスを取ることが不可欠だ。現在の行動が未来の自分に影響を及ぼすことを理解し、必要なセルフコントロールをすべきなのは、金融の分野に限った話ではない。生産的で充実した人生を100年以上生きるうえで核になるのは、セルフコントロールの能力なのである。
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そこで、今回はセイバリングという概念について考察します。

▶︎セイバリング

セイバリング(savoring)とは、ロヨラ大学の社会心理学者フレッド・ブライアント教授が提唱する、過去や現在のポジティブな出来事や気持ちを、しっかり味わうことを指す心理学的手法です。
心地よい体験や幸福感をもたらす気持ちに意識を向け、その体験をじっくり味わうことで、脳におけるポジティブな感情を感じる神経回路が強化されます。


人には、ネガティブバイアスがあり、良いことよりも悪いことを過大に評価して、嫌なことに注意を向けやすいものであるため、感情調節の機能としてセイバリングを行うことで、ストレス耐性を向上したり、レジリエンス(精神的な回復力)や幸福度を向上させることができます。

セイバリングは実践は下記のような視点があります。

①行動で示す
非言語コミュニケーション(顔の表情、顔色、視線、身振り、手振り、体の姿勢、相手との物理的な距離の置き方など)を使ってポジティブな感情を表現する
②今この瞬間に集中する
現在起こっているポジティブな瞬間に意図的に、注意を払って焦点を合わせる。
③ソーシャルキャピタライジング
他の人とポジティブなコミュニケーションをとる。
④ポジティブ・メンタル・タイム・トラベル
過去または未来に焦点を当て、ポジティブな出来事を思い出したり、期待したりする。


仏教僧侶の草薙龍瞬氏の著書『反応しない練習』においても、例えば散歩をしながら身体がキャッチする感覚に意識を向けることで、苦悩がサッと抜けていくとされています。
つまり、意識のコントロール次第で、感情は変わるのです。

セイバリングを実践するにはどのような視点が必要なのでしょうか?

▶︎遊びは生産性を高める

精神科医のエドワード・M・ハロウェルによると、遊びは脳の高度な機能を活性化するとし、計画、優先順位づけ、スケジューリング、予測、委譲、決断、分析などビジネスに必要なスキルを高めることに繋がると説いています。

最小の時間で成果を最大化することを説く『エッセンシャル思考』においても、遊びは人間に不可欠な行動として重要視されています。

例えば、遊ぶことで視野が広がり、新しい気づきや繋がりが生まれて、選択肢が増える。
また、ストレスが軽減され、好奇心や創造性が強まり、生産性が高まる。

フットサルやゴルフ、釣り、ボードゲームなどの社内部活や、チームビルディングのために活用される代表的なレクリエーション手法にマシュマロチャレンジ、最近ではリモート謎解きといったものがありますが、遊びの施策はセイバリングを促し、個人を充実させ、組織力の発揮につながると言えるでしょう。
従業員体験が顧客体験に影響を及ぼすサービスプロフィットチェーンに関する記事



そして、余暇に趣味を持つこともセイバリングを実践する重要なセルフコントロール手法とも言えます。
休日の旅行や映画、カフェ巡りなどを全力で楽しむことが、仕事の生産性を高めることにもつながるのです。

▶︎生涯学習によってポジティブな感情が湧き立つ

ナポレオン・ボナパルトの名言に「人生という試合で最も重要なのは、休憩時間の得点である。」という言葉があります。
ナポレオンが追放された際に悩むよりも、狙いを持って本を執筆することに時間を投資して、再躍進を遂げたとのエピソードから生まれた名言で、時間を有意義に活用することの重要性を示しています。

個人が自らの意思で別のスキルを身につけていくリカレントや、会社が個人に新しいスキルを身につけることをサポートするリスキリングといった生涯学習の取り組みが活性化しています。
それは、先行きが不透明で将来の予見が難しい
経済産業省が推進しているVUCAの時代だからこそ、常に学び続けなければ、個人の市場価値は落ちていき、組織は競争力が落ちていくと、変化に適応できなくなってしまうからです。
ナポレオンの名言にあるように、時間の使い方次第で、歩める人生は変わっていきます。

また、『LIFE SHIFT』にも、人生が長くなる時代では、余暇時間はリ·クリエーション(再創造)の比重を増やした方が良いとの示唆があります。
この際、大人の学びには、一緒に学ぶ仲間たちで構成されるコミュニティ·オブ·プラクティス(実践共同体)の形成がコツだとされています。

このように、学び続けることの重要度が増していますが、「やらなければならない」と不安になるのではなく、新しいことを学ぶ瞬間を楽しむこと、誰かと共通して他の人と学び合いながらポジティブなコミュニケーションをとることも、セイバリングの実践手段となるでしょう。

▶︎持続可能な働き方のために活力資産を大切に

『LIFE SHIFT』の中では、活力資産の重要性が強調されています。

活力資産:大ざっばに言うと、肉体的·精神的健康と幸福のこと。健康、友人関係、パートナーやその他の家族との良好関係などが該当する。


人の最大の資産は自分自身です。
自分自身の心身のメンテナンスを怠ってしまうと、価値を生み出すための元手がなくなってしまいます。

そのため、運動や睡眠管理、食生活といった普段の習慣づくりから、さりげない日々のセイバリングが人生の幸福感を高めることになり、持続可能な働き方を実現していくことに繋がるのです。

また、人生の幸福感に大きな好影響を及ぼす要因の一つが、深くて豊かで長期間にわたる他者との関係です。
個人のキャリア思考の重要度が増している中、組織に属することのメリットに、他者との関わりが挙げられるからこそ、セイバリングを発揮し得る組織風土が形成されている方が、安定的なパフォーマンスが発揮されていくのではないでしょうか。

※本noteでは、人の可能性を拓く組織づくりのための新しい気付きを届けることを目的に、組織論とケースを考察していきます。
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