見出し画像

リサーチ12. マーケットインテリジェンス× FoodTech〜世界の食糧供給を支えるTridge〜

貿易は古代から文明間の交流手段として発展し、シルクロードや大航海時代を経て、世界各地で物資や文化の交換が行われてきました。
現代においては、グローバル化の進展に伴い、国際貿易はますます複雑化し、多様な市場や規制、競合が存在しています。
このような環境下で、企業が競争優位性を確保し、リスクを最小限に抑えるためには、正確でタイムリーな情報の収集と分析、すなわちマーケットインテリジェンスが不可欠となっています。

特に、世界の食糧供給の不安定化が進む中、農産物・食品の貿易はこれまで以上に慎重な戦略が求められる分野となっています。
気候変動による農作物の不作、地政学的リスクによる物流の混乱、人口増加に伴う食糧需要の拡大など、国際的な食料供給網は多くの課題を抱えています。
例えば、2022年のロシア・ウクライナ戦争の影響で、小麦や食用油の供給が大きく乱れたように、一つの地域の問題が瞬時に世界全体に波及する時代になっています。

こうした環境では、企業や政府が迅速かつ正確に市場情報を把握し、最適な調達戦略や輸出入計画を立てることが不可欠です。
地政学リスクやサプライチェーンの変動に対応しながら、安全で持続可能な食料供給を実現するためには、マーケットインテリジェンスの活用が必要不可欠となっているのです。

例えば、企業が新興市場への進出や調達先の多様化を図る際、現地の市場環境や競合状況、規制動向を正確に把握することが求められます。
従来は個々の企業が独自にリサーチを行っていましたが、データの信頼性や更新頻度の問題から、十分な精度を確保するのが難しいことが実情です。

今回は、マーケットインテリジェンスの分野で韓国発のFoodTechユニコーン企業のTridgeという海外スタートアップを参考に未来の国際貿易取引社会を考えます!

▶マーケットインテリジェンス

マーケットインテリジェンスとは、市場に関するデータや情報を体系的に収集・分析し、ビジネス戦略の策定や意思決定に役立てるプロセスを指します。

その主な特徴は以下の通りです。

①データの多様性:市場動向、競合情報、顧客の嗜好、規制の変化など、多岐にわたる情報を対象とします。
②リアルタイム性:市場の変化に即応するため、最新の情報を継続的に収集・更新します。③分析の深度:単なるデータの収集にとどまらず、統計解析や予測モデルを用いて、将来のトレンドやリスクを予測します。
④意思決定支援:得られたインサイトを基に、経営戦略やマーケティング施策の立案をサポートします。

近年、AI技術やブロックチェーン、IoTなどのデジタル技術の進展により、マーケットインテリジェンスの手法も飛躍的に進化しています。
従来の市場分析では、人間のリサーチャーが手作業でデータを収集・整理し、分析レポートを作成する手法が主流でした。
しかし、現在ではAIによる自動データ収集・分析や、分散型台帳を活用した透明性の確保が可能になり、下記のようにより高度なインテリジェンスが実現されています。

① AIによるデータ分析と予測モデルの高度化
例:農産物の取引プラットフォームでは、衛星画像をAI解析し、農作物の収穫量を予測する技術が導入されており、企業は市場価格の変動を事前に把握できるようになっている。

② ブロックチェーンによる透明性とトレーサビリティの向上
・例:ある大手食品メーカーは、ブロックチェーン技術を活用し、カカオ豆の生産地からチョコレートの製造までのトレーサビリティを確保。これにより、サステナブルな原材料調達を証明し、ブランド価値を向上させている。

③ IoTによるリアルタイムデータ収集と物流最適化
例:水産物を輸出する企業がIoTを活用し、冷凍コンテナ内の温度管理をリアルタイム監視することで、鮮度を維持したまま遠隔地への配送を実現。


これらのテクノロジーを活用することで、マーケットインテリジェンスは単なる情報収集の枠を超え、ビジネスの競争優位性を高める戦略的な武器となっています。
AIやブロックチェーン、IoTなどの技術がさらに進化することで、市場の透明性向上やサプライチェーンの最適化が加速し、より予測精度の高い意思決定が可能になるでしょう。

特に、世界の食糧供給が不安定化する中、これらの技術を駆使して市場の変化をリアルタイムで捉え、最適な対応策を講じることが、持続可能な国際貿易を支える鍵となるのです。

▶︎Tridge

グローバルな農産物・食品取引における情報の非対称性を解消し、サプライチェーンの透明性を高めるマーケットインテリジェンス・プラットフォームを提供しているユニコーンスタートが韓国のTridgeです。

Tridgeは、果物や魚介類、コーヒー豆など、農水畜産物のオンライン取引プラットフォームを提供し、150カ国以上の農家と世界中の食品バイヤーを、中間業者を介さずに結びつけることで、取引の効率化とコスト削減を実現しています。

同社HPより
同社HPより

2015年に韓国・ソウルに、スタンフォード大学で計算機科学を学び、複数のスタートアップでの経験を持つ起業家フン・キム(Hoon Kim)氏によって創業されました。
社名の由来はトランザクション・ブリッジであるとされています。

コロナ禍による物流の混雑や渡航制限により、バイヤーやサプライヤーは会ったことがない相手との調達取引が迫られたことをきっかけに、リスクを回避する価値に注目が浴びて急成長を遂げました。
これまでにウォルマートやネスレ、ケロッグなどを含むなどの大企業の利用実績もできています。

Tridgeのサービスの特徴は下記が挙げられます。

① 150カ国以上に跨る越境取引を最適化オンラインプラットフォーム
・仲介業者を排除し、コストを削減しながら迅速な取引を実現
・リアルタイム市場データを活用し、最適な取引タイミングを提案
② データ主導の意思決定をサポートするAI駆動のマーケットインテリジェンス
・15万種類以上の農水産物データをAIで解析し、価格や需給の未来を予測
・機械学習×ビッグデータ活用による高精度の市場インサイトを提供
・リアルタイムデータ更新で最新の市場変動に即応可能
③End to Endのフルフィルメント
・契約交渉、品質検査、梱包、物流、通関手続きを一括対応
・取引の不透明性を排除し、安全で確実な国際貿易をサポート
・供給網の最適化を実現し、貿易の効率と透明性を向上
④世界最大級の農水産物データベース
・市場価格・品質・供給動向など、グローバルな貿易データを集約
・ブロックチェーン技術を活用し、データの透明性と信頼性を確保
・過去データとリアルタイムデータを掛け合わせ、精度の高い市場分析を提供

Tridgeの競争優位性は、単なる情報提供にとどまらず、取引の実行支援や物流、通関手続きまでを包括的にサポートする点にあります。

Tridgeは2019年にソフトバンクベンチャーズアジア(SBVA)から資金調達し、その後、Forest Partners、Activant Capital、DS Asset Managementから調達をして、ユニコーン企業となっています。

今後はさらにグローバル展開の強化したサプライチェーンを構築して、物理的な競争優位性を盤石にしていく見込みです。
データとテクノロジーを駆使するGlobal Data Hubとして、変化の激しい世界市場の中で有益なマーケットインテリジェンスを提供することで、世界の食料安全保障と持続可能なサプライチェーンを実現して、国際貿易の未来を切り拓いています。

▶︎まとめ

人類の歴史において、国と国を結ぶ貿易は常に発展を続けてきました。しかし、その一方で、世界の食料供給は気候変動、地政学リスク、人口増加といった深刻な課題に直面しています。特に、情報の非対称性や非効率な流通が原因で、多くの国や企業が最適な調達や販売の機会を逃しているのが現状です。

しかし、近年のテクノロジーの進化により、マーケットインテリジェンスは飛躍的に実用性を高めています。AIによるデータ解析やリアルタイム市場分析の精度が向上し、食料流通のあり方そのものが変革されつつあるのです。

持続可能な食料供給を実現するために、どのようにデータとテクノロジーが活用されるべきか。
マーケットインテリジェンスの革新による取引社会の変化に要注目です!

いいなと思ったら応援しよう!