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事業成長視点の採用基準

ウォーフォータレントに示されるように、求めるスキルが高度化するほど労働市場に実在する人の数は限られ、採用要件を厳格にするほど青い鳥を追いかけてしまい、気付けば採用工数が徒労に終ってしまいます。


そのため、採用がゴールではなく入社後の活躍を見据えて、後天的に培うことができるスキルよりも、先天性のある素質を見極めて採用できるかで採用スピードすなわち事業成長スピードが変わります。

また、採用に投じられる時間も有限であることから、他社ではなく自社で働くことでしか得られない効果的なEVP(Employee Value Proposition)を明確にしなければ、採用競合とのバッティングした上で採用できずに終わってしまうことがあります。

売り手市場だからこそ採用候補を多く存在するように感じられやすいものの、自社にマッチした志向性やスキルを有する人は有限あるため、採用段階の見極めが、組織づくりを左右します。
今回は、事業成長視点の素質を見極める採用基準の例を整理します。


①リーダーシップポテンシャル

マッキンゼーでは問題解決よりもリーダーシップポテンシャルを重要視されています。
またリーダーシップは先天的な資質ではなく日常的な勇気ある行動の連続によって伸ばすことができるスキルと位置づけられてます。
リーダーシップというと、目立ちたがりと捉えがちですが、全てが完璧な環境など存在せず、複雑なイシューと人間関係が渦巻く中で、「〇〇を良くしよう」とリスクや責任を引き受けて先頭に立ってコトを前に進めるリーダーシップは重要なスキルです。

見極め)目的のために主体的に何でもできるか。
質問例)何とかする力を発揮した修羅場の目的と行動は?

②GRIT(やり抜く力)

どんな分野であれ、成果創出にはさまざまな外部要因が絡み合い一定の確率論があり、人のスキルもコンディションも可変的であるため、全てが思い通りに行くことはありません。
その前提だからこそ目的を果たすまで決して諦めることなく、困難に対処すること、継続し続けることができるかは岐路になります。
GRITは言い訳せずにオーナーシップを持って中長期的にパフォーマンスを発揮するための素質として重要です。

見極め)自らの意志で目的達成のための行動を継続できるか。
質問例)これまで遭遇した困難で心掛けていたことは?

③Giver志向

個人のキャリア志向が高まりメリットデメリットで行動判断が行われる時代で、社内や顧客の他者に対して貢献性や協調性を重んじる人の多寡は自社の文化づくりを左右します。
見返りが不透明な状態でも人の可能性を信じた投資として自身が受け取る以上に他者に与えることを厭わないGiver志向は、短期では損失に見えても中長期の積み重ねで人の善意を集めることができ、返報性の原理で他者を通じた価値を生み出す力があります。
また、ミドルマネジメントが不足しやすい現代においてGiver志向はマネージャーやメンターの要素となるため、Giver志向は組織内に取り入れた方が良いとエッセンスであることは間違いありません。
一方、注意点は献身的なGiver志向は燃え尽き症候群に陥りやすいため、時間投資リターンも考慮した合理的なGiver志向であるかどうかです。

見極め)他者や組織を目的語とした行動をとってきたか。
質問例)チームワークを発揮するために心掛けてきたことは?

④プロフェッショナリズム

画一的な価値観のレールが敷かれがちな社会では、周囲からの評判や声で自分軸が右往左往されやすい人が多くいます。
それ故に管理がなければパフォーマンスを統制できず、働き方の多様化が進むほどマネジメント工数は高まっていく傾向にあります。
その中でも、自ら仕事に誇りを持ち価値を追求するプロフェッショナリズムは、自律的に成果責任を負うことができるため重宝される素質です。
プロフェッショナリズムを有する人は、自らの欲求で仕事の価値を追求するため、組織内外で自社の仕事の価値を伝播するエヴァンジェリストにもなります。

見極め)与えられたものではなく、自分自身で仕事の価値を定義づけられているか。
質問例)これまでの仕事では誰に何の価値を届けてきたか?

⑤忍耐力

人それぞれが自分の考えや価値観があり、組織は人の集合体である以上、自分と近い考えや賛同を期待すると上手くはいかないものです。
自分が正しいと思い込むほど人間関係のしがらみに囚われてしまうため、無駄な悩みが生じないように些事に反応しない忍耐力がなければコトに向き合い続けることはできません。
独創性が強い人ほど忍耐力が伴わなければブリリアントジャーク(優秀だが組織分化に悪影響を与える人)になってしまうこと注意が必要です。

見極め)他者を言い訳にすることはないか。
質問例)意見の対立した時にはどのように対処してきたか?

⑥調整力

「人は見たい現実しか見ない」というカエサルの言葉が示すように、人は都合が悪いことから目を背けがちですが、組織や人を動かすための調整を主体的に行わなければ、何を考えようとも独り善がりになってしまいます。
そのため、組織の慣性や力学を理解して、段取りや根回しを惜しまない調整力を有しているかで出せる成果が変わります。
清濁を併せ吞んでコトに向き合う度量は、組織や人を理解しなければならない局面を経験した場数によって培われるため、組織内での立ち回りは重要な志向性です。
会食やランチなどの社内外の人とのコミュニケーションを大事にしているかも調整力を測るポイントです。

見極め)コトを前に進めるために泥臭いことも厭わないオーナーシップがあるか。
質問例)期待される成果を出すためにどのように味方をつくってきたか?

⑦数字意識

どんなに崇高なビジョンやバリューも実現のためには顧客に対する価値提供で対価を得ることでビジネスが成り立つとの数字意識が不可欠です。
数字意識がなければ客観的に目標と現状のGAPを測れずに成り行きになり、都合の良い主張も自己主張も飛び交ってしまうため、数字を土台としたコミュニケーションは事業成長にコミットする組織文化に必要なエッセンスです。
一方、数字だけでは意義を見出せずにエンゲージメントはもとより本来事業目的としていることからズレる危険性があるため、数字の背後にある価値提供を想像することがセットで必要です。

見極め)成果創出のための因数分解ができ自責でコントロール可能なことを考えられるか。
質問例)実績を出すまでどのようなPDCAを回してきたか?

⑧共感性

人は誰しも自尊心があり、それを傷つけられると敵意が生じて、自分を肯定する人の意見ほど影響を受けやすいため、社内外の人と協働する上では目的を持って共感性を示すことは人を動かす強い武器になります。
自分と異なる人に共感を持てる力は利他的行動のきっかけにもなり、共感の連鎖によって組織の勢いを起こす要因にもなります。
注意点は批判やネガティブなことも伝播しやすいため、コミュニケーションデザインも重要な観点です。

見極め)価値や意義を前向きに捉え他者と共有できるか。
質問例)これまで仕事で意気投合した人はどんな人か?

⑨学習意欲

スキルの多様化と労働市場の流動化で人に教わることを当たり前として受け身であるよりも、能動的に学ぶ姿勢があるかで成長率が大きな差になります。
仕事上は既にあるスキルの切り売りであるため、経験→省察→概念化→試行の経験学習のサイクルを回さなければ能力開発できないため、学習意欲がなければパフォーマンスはそれほど変わりません。
多くの人は自主的な学習にハードルが聳え立ちであるが故に、学習を習慣化できる人は複利で成長速度が高まっていきます。

見極め)言われたことではなく自ら学習しているか。
質問例)成果を高めるために自己研鑽したことは何か?

⑩謙虚さ

優れた成果を出す人ほど謙虚でCoachableに周囲から学び続けることができ、サイバーエージェント社でも素直でいい奴採用を重視するほど、謙虚さは大事だとさまざまな場面で説かれていますが、実践できている人は限られています。
感謝の心を持つことが、幸福感は挫折から立ち直る力、抑うつ、心身の健康、そして思い遣りを高めることが科学的にも実証されています。
周囲の人の存在に感謝をして謙虚さを持てるかどうかは持続的なパフォーマンスを左右するでしょう。

見極め)他者に対する感謝の気持ちを持っているか。
質問例)これまで影響を受けた人は誰か?

どんな崇高なビジョンも事業が成長しなければ成し遂げることはできず、事業の成長を左右するのは実行する人であり、人の活躍は組織づくりにかかっています。
採用段階で一定の土台ができ、入社後にエンプロイーエクスペリエンスを高め続ければ、人の可能性を引き上げていくことができます。
限られた接点に留まる選考過程で人の相性を決めつけることはできないものですが、理想を言語化して、都度、採用するか否かのwhyの判断基準を明確にすることは組織力の向上のために重要なのではないでしょうか。

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