精神病棟の帰り道に考えたこと。
アル中のTさんがついに精神病院に入院することになった。
Tさんは普段は大人しい人なのだが、お酒が入ると気が大きくなって喚いたり、路上で寝ては警察に保護されたりすることを繰り返していた。
それでも酒を飲むことはTさんにとって生きることそのものなので、私たちは飲みすぎないようにたしなめつつ、大事には至らぬよう見守りを続けていた。
しかし、ある日とうとう過ちを犯してしまい、本人同意のうえでアルコール依存症の治療のための入院をすることになった。
山奥にある精神病院までの道のりは遠い。緑が深くなる車の中でTさんは「酒とタバコがなかったら死んだほうがましや」と寂しそうに笑った。
Tさんが退院したときに、酒とタバコがなくても楽しい世界を見せてあげられるだろうか。
そんなことを考えながらひとりで帰った。
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