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ここはすべての夜明けまえを将棋ファンが読んでみた
何から語ろうかと思ったが、私の読書傾向は偏っている。
小学校入学前から海外ミステリを読み漁り、バレエの戯曲を物語にした子供向けの本が好きだった。学生時代に出会った野沢尚作品には人生を変えられたと言っても過言ではない。
最近は来年までに、泉鏡花について研究深い方と話をするために勉強をしている状態である。
そんな私はSF小説を手にすることは少ない。昔読んだ星新一のショートショートや戯曲きっかけのレイ・ブラッドベリくらいだ。
このSF小説について知識の浅い私が、果たして読めるのだろうかと不安を覚えながらも手に取った。
全ては渡辺明先生の仰った「永瀬先生のエピソード」目的である。我ながら不純である。
最初のページを開くと、圧倒的ひらがなと足りない句読点。これは苦戦しそうだぞ……と思いながらページを繰る。案の定、目は文字を捉えるが脳に意味を落とし込むのに時間がかかる。いくつか見かけた感想でアルジャーノンが挙げられていたが、なるほどそういうことか。
だが永瀬ファンは、どうしても永瀬先生のエピソードが読みたいのである。いつもより時間をかけながら読み進めていく。途中にボカロの話等も落とし込まれていて、これが現代調のSFなのかと少し寂しいような、自分も歳を重ねたなと実感しながら、比較的早い段階で目的のページにたどり着いた。
あまりネタバレをするのは、この作品においては野暮なので一将棋ファン、永瀬ファンの感想を記す。
128ページ中、約5ページも!
将棋を知らないわからない人にも、あの時の永瀬先生の凄さが伝わるような描写をしてくれて嬉しい。そして改めて永瀬先生は人間なんだ!
元々この作品は、手術によって老いない身体を手に入れた女性の話である。身体をマシン化することでメモリを入れ、脳にも影響があるのではないかと言われるような世界である。
家族も恋人も失ってから、やることがなくなり父に言われていた家族史を書いていくのが前半。
そのため、ひらがなばかりで幼さの残る拙い文章なのだ。だが彼女は25歳、それにしては思考が幼すぎる。そう感じた伏線も全て後半から最終章にかけて回収されていく。
残念ながら私には純粋さや人の心といったものが欠けているので泣くことはなかった。
そしてこの結末は一種の幸福のかたちとも思えた。恐らく今の自分の環境や、心理状態によって読後感は様々だろう。
こうして考える余地のある作品はなかなか素敵ではないだろうか。
永瀬先生のエピソードも出しっぱなしではなく、最後に回収されたことが永瀬ファンは嬉しい。永瀬先生の言葉が息づいている作品を読むことができてよかった。