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変態さんいらっしゃい

題名を読んで、思わず自分が呼ばれている気がしてこの記事を開いた貴殿。そして、変態の文字を見て迷った上で怖いもの見たさについクリックしてしまった貴女。謹んでお詫び申し上げたい。

決して呼びかけたつもりはなく、ただちょっと真面目な文化人類学に関する話(ほんとか)がしたかったのである。そう、「変態」または「ヘンタイ」という言葉についての考察である。

私の中で「変態」と言うと、頭の中が上のタイトル画像の様になっている人を呼ぶ言葉のイメージなのだが、最近この言葉の定義が変わってきているように感じるのである。

***

暖かくなってきたのでちょっとすっきりして春を迎えたいと思い、先日髪を切りに行った時のことである。担当は、もう付き合いが長く色んなことを話し気心も知れているお兄さん、その日も色んな話をしながら髪を切ってもらったのだった。

ひと通り切ってもらった後で鏡を渡されて、いつもの
「後ろこんな感じですがどうですか」
「お、丁度いいです」
という儀式が終わったところで、お兄さんは「今日はこれから予定あるんですか?」と聞いてきた。

(あ、そういや前にお兄さんに、定期的に英語の試験を受けてる話はしたことあったな)と思い出し、

「実は今日もまた午後から英語の試験なんですよ ...」と答えると、
「ああ、そういえばおっしゃってましたね。英検とかトーイックとかそういうヤツですか?」とお兄さんは言ったのだった。

実はこのお兄さん、イギリスに住み込みで二年程髪切り修行に出かけたことがあり、その頃言葉に苦労したとのことで、英語系の話にも結構乗ってくるのである。

「そうなんですよ。その TOEIC を随分受けてるんですが、なかなか目標の点数が出たり出なかったりで ... 」

「お、目標は何点なんですか?」

「990点なんすよ」

「え、なんか微妙な点狙ってますね。TOEIC って何点満点でしたっけ?」

よく、ありがちな話の展開である。

「いや、その990点が満点なんですよ」と俺が言うと、

「えー! 満点を狙っているんですか! それはもはや変態ですね。凄いなあ!」とお兄さんは言ったのである。

(変態か... )

そこでふと、(そういや先週も別の人に変態と言われたなあ)と思ったのだった。その日、知り合って間もない人と飲みに行って話をしていたのだが、その時に少し地を出して微妙に下世話な話をしてしまったら、「あ、クリストファーさん(実際は本名)って、堅い人かと思ったらやっぱり変態なんですね。安心しました」と言われたのである。

その時はなんとなく聞き流していたのだが、考えて見れば「変態で安心しました」とは妙な話である。

そしてまた今回も変態の名を仰せつかったおかげで、もみ上げを短くしてもらいすっきりしたての俺の頭の中を「変態」という言葉がゆっくりと回り始めたのである。

どちらの場面でも、変態と言う言葉がやや褒め言葉的に使われている印象がある。良く考えれば不思議な言葉である。本来の意味と離れたこのようなポジティブな用法を良く聞くように思うが、いつ頃からこのように使われるようになったのだろうか。また、正式に認められた用法なのだろうか。

気になったことを放っておいてはいけない。早速調べなければ。俺は美容室を出て商店街のベンチに腰をかけると、「へんたい、へんたい」と言いながらポケットからスマホを取り出した。

すると、近くに座っていたご婦人が急に立ち上がり去っていった。

ちょっと声が大きかったか? しかしそんなことを気にして探究心を燻らせてはいけない。俺は、Googleに「変態 意味」と入れて調べてみたのである。

いくつか出てきたリンクの中からウィキペディアのリンクをクリックして見た。

・ 変態(へんたい)とは、形を変えること。また標準的なものから変異した状態。また派生的に変態性欲、変態性欲者のことをいう。さらに派生して精神性、行動、スタイルなどが異様で突飛なことを指すこともある。

(なるほど、これが本来の意味だな)
さらにこんな事も書いてある。

・ エッチの語源は変態の頭文字 H が由来である。

(おお、それは聞いたことあるなあ)
そして更に色々な用法も書かれている。

・ 一般常識を超える技術や性能、もしくをそれらを備えた人物や工業製品などを指すスラング。変態性欲が非常識なものとされることから転じたものであるが、賞賛と困惑が入り乱れる文脈で使われる事が多い。

・ 変態 (音楽) - 音楽の演奏におけるスラングの一つ。「変態系」などとも呼ばれる。主にロック/ジャズ/ポップスなどのポピュラー音楽の演奏において、単なる超絶技巧演奏の範疇を超えた複雑な演奏技術、もしくは難解な進行の楽曲を指す。

(なるほど、もう褒め言葉としても正式に認知されてる訳だな)

この延長線上で、ポジティブな用法が色々な場面で使われるようになったということだろう。確かに最近は、例えば英語学習者の間でも、極限の勉強をしている人や、特殊な問題集や大量の問題集に苛められる喜びを持つ人が親しみと敬意をこめてヘンタイと呼ばれているのを時折耳にする。
※ 好意的な意味をあらわす時はカタカナ表記が無難なのであろう。

そして、ウィキペディアの「変態」のページを読み進めると、こんなものもあった。

・ 土佐闘犬の反則技の一つ。交尾する体勢で相手にのしかかること。

もの凄い技があったものである。これは知らなかった。

***

さて、それはともかく、ついでなので英語寄りの話に展開してみるのだが、皆さん「変態」という意味で使う英単語はなんだろうか。

"pervert" という人が多いと思う。
私もそうである。( ← 決して、 I am a pervert, too という意味ではないので注意)

とすると、「この英語の "pervert" も、日本語の変態のようにポジティブな意味に使えるのだろうか?」という疑問が湧いてくる。

言葉が言葉なので変に思われないように気をつけつつ英語が母国語の人間に聞いて見たのだが、やっぱり駄目のようである。

少なくとも日本語の「ヘンタイ」に見られるようなポジティブな用法はなさそうである。おそらく「異常性欲者」、または百歩譲っても、「変質者」という響きにしかならないようなのである。

「変態」や「ヘンタイ」と言う言葉には、まあ許しちゃおうと思うどこか可愛い響きがあるが、「変質者」は決して簡単に許してはいけない感じがする。

変質者と言う言葉を使うとその響きは大きく変わる。

「へー、そんなことにチャレンジしてるんですか、変質者ですねえ」
「さすが変質者ですね」
「あなたは、きっと変質者だと思ってたんですよ」

どれも言われてあまり嬉しい気はしない。英語で "pervert" と呼ばれるのはきっとこのような感じなのではないだろうか。

とすると英語圏にそのような表現があるのだろうか。うーん、強いて言えば maniac や abnormal、はたまた geek あたりだろうか。しかし「変態」にあたるような味のあるニュアンスの言葉はなかなかないような気がするのである。

また時間のある時にでも調べて見たいが、これ以上追究すると、明日から「変態を追求している人」などと誤解を招くような名前で呼ばれそうなので、今日はこの辺りにしておこうと思う。


(了)

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