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君の名はスケソウダラ
まず、この題名を見て「え、スケトウダラじゃないの?」などと言う声が聞こえてきそうである。そう、私も「ん?どちらの名前も聞いた事があるけど違う魚なのかな」などと思いググって見たのである。するとこんな感じの回答がたくさん出てきた。
Q. スケトウダラとスケソウダラ。どっちが正しいのでしょうか。
A. どちらで呼んでも大丈夫です。学術的な標準和名はスケトウダラですが、スケソウダラという名前も広く使われているので間違いではありません。漢字では「介宗鱈」あるいは「助惣鱈」と書きます。食品市場ではスケソウダラと呼ばれる事が多いようです。また、地域によって色々な呼び名があり、ナットオダラ、シラミダラなどと呼ばれている地域もあります。
どうやら正式名称は、「スケトウダラ」らしい。しかし日常的には「スケソウダラ」と言う呼び名の方をよく聞くような気がする。食品の包装の裏側の原材料などの欄には「スケソウダラ」と書いてある事が多いのではないか。
ま、それはともかく、「どちらで呼んでも大丈夫」ってだいぶ失礼ではないだろうか。本人が自分でそう言っているのならいざ知らず、「あいつ何て名前?」と聞かれた同じクラスの奴が「ああ、あいつはマサオでもマサシでも良いよ」と言っているのを聞いてしまったような気分になる。クラスで非常に雑な扱いを受けている人を見ている様で同情を禁じ得ない。
最初から、そんな寂しい話で始まってしまったが、今日はこのスケソウダラについてちょっとお話ししたい。文句を言いたいのではない。むしろ褒め称えたい。それが本日の趣旨である。
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スケソウダラ、偉大な魚である。この「偉大さ」と「気の毒さ」が同居する不思議な魚に焦点を当てて見たい。
そもそも、この魚がいないと日本の食は成り立たないのではないか。私も子供の頃から今までどれだけ食べて来ただろう。何なら私の体の50%くらいはスケソウダラでできているかもしれない。
しかしその活躍の割には表舞台に個人名が登場する事が少ないのである。そして、前述の様に「どちらの名前で呼んでも良い」らしいが、どっちの名前も今ひとつ野暮ったくて華がない。
そのせいか、フランス料理店のメニューに「スケソウダラのムニエル」などまずないし、和食の定食でも「焼きスケソウダラ定食」なんて聞いた事がない。寿司屋の壁に貼られたお品書きに名を連ねている姿も見たことがない。
唯一この魚の名前を目にするのは「原材料欄」である。そう、加工食品のパックの裏に小さく書いてあるアレである。しかしそこに「スケソウダラ」と書かれていればよいが、「魚類」などと書かれていることも多い。魚類って。
子供の名札に「2年1組 子供」などと書いてあるような、もしくは中年の男性にもらった名刺に「㈱○○商事 中年」などと書かれているような、そんな投げやり感がある。
そんな不名誉な扱いを受け、日の当たることの少ないスケソウダラだが、古来より加工食品業界専門に活躍してきた名プレーヤーである。古くは蒲鉾、ちくわ、さつま揚げ、はんぺんなど、いわゆる「練り物」に形を変えて人々に愛されてきた。この広い品目を一手に担ってきたのである。
きっと名前を聞かれても、「いやいや、私はそんなアレじゃないので、いやいや、たははは」などと謙虚に生きてきたのだろう。
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しかしそんなスケソウダラ、その後その変身技術を磨き、今日では、カニカマ(カニもどき)、魚肉ソーセージ(ソーセージもどき)、うな次郎(ウナギもどき)、と言ったいわゆる「日本もどき界」を席巻し、実はマックのフィレオフィッシュなどの姿でも人々に愛されているのである。
もっと威張っても良いのではないのか。
もっと表舞台に出ても良いのではないのか。
どんな形になっても美味しい貴方にはその資格がある。
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しかし前述の通り、こんなに活躍しているのに、本人名で登場する事はほとんどなく、商品前面に書かれた顔は人気者のカニだったりウナギだったりするところが実に切ない。
そして、たまに運よく製品名にタラの名前が使われている時も「タラタラしてんじゃね~よ」などと言うダジャレでお茶を濁されていたりする。
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これだけ魔法の様に姿を変えながら色んなところに出没しているのに、名前にも触れられずスポットライトが当たらない魚も珍しい。
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しかも本人は自慢しないが、実は海外でも大人気なのである。カニカマは世界で60万トンが消費されており、消費量1位がフランス、2位がスペインと続き、本家の日本は3位なのである。アメリカではスーパーボウル(アメフト優勝決定戦)を見ながらカニカマを食べるのが定番になっている。
そして栄養価も高い。SDGsが叫ばれ、代替肉(肉以外の原料から作った疑似肉製品)などが注目を浴びている昨今、江戸時代から練り物をやってるこのスケソウダラが今まさに世界の脚光を浴びようとしている(たぶん)。
しかも最近では、このカニカマを使ったスナックが TikTok界を揺るがしているのだ。その名も Air Fryer Crab Bites(直訳:エアフライヤ―のひとくちカニ) だ。要はバターを塗ってスパイスをかけたカニカマをエアフライヤ―でカリカリに揚げたものだ。それをガーリック・バターにつけて食べる。
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簡単に作れて美味しいので TikTok で紹介されて以来、凄い人気である。しかし英語でもまた Crab Bites(ひとくちカニ)などと呼ばれている。
やはり欧米でもスケソウダラはその名を隠して潔く影の男に徹している。ちなみにスケソウダラの英名は walleye pollack、確かに覚えにくいしちょっと長い。そんなところも匿名生活の理由なのかもしれない。
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ついでなので、スケソウダラの子供についても少し触れておきたい。子供も父のようにひっそりと控えめに生活しているのだろうか。実は全くそんなことはないのである。
スケソウダラの子供はなんと、泣く子も黙る日本の食卓のスター、明太子なのだ。この「明太子」と言う名前には華がある。字面もどこか「皇太子」に通じるものがある。
知らなかった。身内にそんな有名人がいるならもっと早く言えばいいじゃないか。あんた、なんて奥ゆかしいんだ。
そしてなんとその素敵な名前「明太子」の「明太」というのはスケソウダラの別名なのだそうだ。良く考えてみれば当たり前の話だが、明太の子供だから明太子なのだ。
「明太」なんてイカす名前を持っているなら最初からそれを前面に押し出して行けばもっと売れたのではないのか。でもきっと何か考えがあっての事なのだろう。
そんな、目立たないが妙に思い出に残る親戚のおじさんのようなスケソウダラ。私はこれからも貴方を支持して行きたい。
(了)
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