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私を変えた市民ミュージカルの話

2022年7月16日、コロナ禍で中止を余儀なくされていたミュージカルが、再び幕を開けました。
その名は「A COMMON BEAT」(以下、コモンビート)。
年齢も職業もばらばらな一般市民100人が100日で作り上げる、ちょっと変わったミュージカルです。

私は、コロナ禍前の最後の公演となった2020年2月の公演に出演しました。
しかし本番直後にコロナの流行が本格化し、既に練習をスタートしていた期も含め、以降のプログラムは全て中止に。
ミュージカルを主催する団体はオンライン中心の活動を余儀なくされていましたが、コミュニケーションの方法や感染対策など試行錯誤を重ね、2年半の時を経て再開公演が実現したのです。

そんな背景もあり楽しみにしていた再開公演。
観客として観に行ってきました。

公演を観て余韻を楽しむ中で2年半前のことを色々思い出したので、今回のミュージカルの感想もそこそこに、自分語りをしたいと思います。
noteの雰囲気なら、自分要素多めでもいいよね?笑

その前に、コモンビートってどんな話?

知らない方もたくさんいらっしゃると思うので、団体の公式サイトを引用しながら、あらすじをご紹介します。

「世界」は様々な文化を持った4つの大陸で成り立っています。
国境警備隊に守られながら、人々はお互いに他の大陸の存在を知らずに、独自の文化に根ざした、彩り豊かな歌や踊りを楽しんでいました。

https://commonbeat.org/musical-acb/story/

ある時、一人の少女が他の大陸の存在に気づいたことをきっかけに、言葉や文化の違う大陸の間で交流が始まります。
しかし、自分たちの文化を守りたいなどの思いから、交流を良く思わない人も。
やがて世界中を巻き込み衝突が起こり・・・。

文化やバックグラウンドが違っても、私たち人間は理解し合い、共存することができるのでしょうか。

https://commonbeat.org/musical-acb/story/

この一文が作品の大きなテーマです。

実はミュージカルをやること自体は、主催団体(NPO法人コモンビート)にとっての一番の目的ではありません。
目指すのは、「自分らしく・たくましく、違いを認め合える人」を育てること。
参加者はミュージカルプログラムを通して、多様な個性を大切にすることを学び、実践しながら公演本番を目指します。
そういう意味でも少し変わったミュージカルなのです。

再開公演を観て

まずは感謝の気持ちを

ミュージカルだから、歌と踊りは必須。
しかも普段は別々の環境で生活し、別に本業がある人たちが100人も集まるのです。
コロナ禍ではかなり無理があるプログラムなのは、それだけでも想像がつくかと思います。

それでも、なんとかミュージカルを再開したいと結集したメンバーたち。
対面での練習は最低限に抑えて期間を空け、対面のときは様々な感染対策を講じて。
キャスト・スタッフがそれぞれに努力した結果、無事に公演を終えられたことに心から拍手を贈ります!!

観客として観て気づいたこと-個性を生かす大切さ

公演を客席から観ることで、いちキャストだった当時は気付くことのなかった発見がありました。

コモンビートでは役に優劣はないものの、前に出て演技やダンスをしたりソロで歌う機会があったりと、目立つ役の人はいます。
参加していた当時、自分が目立つ役に選ばれないことが正直不満でした。
結局歌やダンスがうまい人がいい役になるんだと拗ねる思いもありました。

でも客席から観ると、一見目立たない、背景のように見える役でも必要な存在だと素直に理解できました。

生まれ持った声質によって、ソロで歌ったとき輝ける曲は違います。
年齢、顔立ち、身長などによって、権力者の役が合う人と少女の役が合う人は違います。

歌がうまい人、ダンスがうまい人、演技がうまい人。
ステージ上には表れないけど、影から支えることで力を発揮した人。

その人自身では変えられない部分は受け入れつつ、個性を生かし切ってその人らしい輝きを見せることが大事なのだと、ステージに立っている一人ひとりを見て気付かされました。

コモンビート参加で変われたこと-心を開く

馴染めなかった初期の頃と、参加を決めた強い思い

今でこそコモンビートへの参加は素晴らしい経験だったと思っているけれど、最初からプログラムを楽しめていたわけではありませんでした。
最初の数回の練習は、やたらテンション高いし、歌やダンスの指導は半ば勢いで進んでいくし。
内向的で人見知りな私は、正直怖かったというか、ノリについていけなかった。

昔から、心を開くのは苦手でした。
家庭環境や友人関係に大きな問題があったわけではありません。
ただ、人のちょっとした発言や反応が気になって、勝手に「こうしちゃだめだ」とたくさん思い込んで生きてきました。
悪気のない様々な言葉や常識に影響されて、無意識のうちに自分を制限しまくってきた。
そして自分でも気づかないうちに、他人にも自分の「常識」を押し付けてしまうことがあったと思います。

当時の自分にとって大切だった人間関係を失ってしまったことを機に、これまでの自分を振り返り、ようやく気付いたことでした。

自分を変えたい、強烈な思い。
外から強制的に自分にはないものを取り入れることで、大きな変化を起こしたいと思っていました。

そんな中でたまたま、コモンビートの参加者募集の体験会をやっていることを知りました。
体験会に参加してみて、自分にかけ離れたものを感じました。
このハイテンション、苦手かも。

でも、団体のビジョンはまさに私がなりたい姿そのもの。
そしてなんか面白そうではある。

怖さはあったけど、ここならきっとなりたい自分に変われる、という直感を信じ、思い切って飛び込んだ。
だからこそ心折れることなく、変化のきっかけをつかんでいけたのかもしれません。

コモンビートには「違いを認め合う」という土壌があり、参加者の共通認識にもなっています。
だから、互いに素直に気持ちを伝えることができる人がたくさんいたし、自分の気持ちを素直に話しても受け止めてくれる安心感がありました。
圧倒的に受け入れてもらえる環境に身を置いたことで、否定されるのではという恐怖を乗り越え、心を開くことができるようになりました。

自分を変えてどうなったか

コモンビートの参加者の中で心が開けるようになってからは、自分の好きなことや得意なことを発揮しながら、活動に参加できるようになりました。

・衣装を考えること
コモンビートでは、衣装は自己表現の手段の一つで、自前で用意することになっています。
作品を演じるに当たり必要な条件を満たしさえすればかなり自由。
自分を表現できる衣装を考えて実現させるのが楽しくて、衣装調達のために海外旅行に行ったりもしました。

・キャラ設定を考えること
コモンビートの登場人物に細かい設定はなく、特に「その他大勢」的な人は自由に設定を作って動きで表現することができます。
自分が出演するナンバーから想像して、キャラ設定を組み立てることにハマりました。
設定づくりが楽しすぎて、他のメンバーも使えるように、キャラ設定を深める質問集を用意したりもしました。

・エンゲージメント
その時の話の流れと逆のことを言いながら、自分の考えを伝えたり。
他の人のいいところやフィードバックも積極的に伝えたり。
こんなにもたくさん人に働きかけをしたことは今までなかったけど、本音でぶつかり合うのは面白く、やりがいも感じていました。
この経験は、今のキャリア志向にもつながっています。

・ミュージカル以外で起こったこと
思い切って新たな環境に飛び込み、自分を変えることができたことで、自分に制限を設けずやりたいことにはチャレンジしてみようと思えるようになりました。
ずっと興味があったけど勇気が出なかった異動希望を出し、やりたかった仕事ができました。
その異動が決まったことがきっかけで、間接的に転職にもつながっていく経験もできました。
あと、ミュージカルに参加して自己表現を続けていきたいと思ったことをきっかけで、noteを始めたりもしています。

本当に、コモンビートに参加していなかったら今の私はないと思います。

そしてこれから

「今後、コモンビートのミュージカルに参加したいか」と聞かれたなら、今のところは「No」です。
ミュージカルへの参加は自分にとってかけがえのない経験となったし、大変なこともあったけど、楽しさや達成感の方がずっとずっと上回っていました。
でも、あの時のように強烈な「変わりたい」という意志がなければ、あの濃密な100日間をもう一度やることは難しいかも、と思っています。
そのくらい、大きなパワーが必要な100日間だった。

いつか気が変われば参加するかもしれないけど、今のところは2年半前に十分やり尽くした気持ちです。

ミュージカルの本番直後に始まったコロナ禍。
人との繋がりは制限されたけど、元々一人が平気なタイプだった私はあっさりその環境にも馴染みました。
優しい人たちに囲まれた夢の世界から現実の人間関係に戻り、心を開いて親切に接しているだけでは自分を守れないこともあると知りました。

そんなわけでここ2年ほどは、なかなか他人に心を許すことのできない自分への揺り戻しがあったように思います。

あの時のことを思い出して、ちょっと心のオープンさを取り戻してみようかな。
ミュージカルの余韻に浸りながら、そんなことを思っています。


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