第30章 「作用・反作用の法則をわかってない理系の人多すぎ問題」
お久しぶりです。
あれよあれよという間に年末ですね。
さて今回は「作用・反作用の法則」という、理科嫌いの人には天敵ともいえる物理(力学)の基礎の話をします。
まず、なんで今回このテーマにしたのかということですが、私が大学で電磁気学の講義を担当していて、この力学の基本的な法則がわかってない人があまりにも多いなと思ったからです。
ちなみに私が教えているのは日本の有名な国立大学の理系大学生です。
これは私の感覚で正確な数値は不明ですが、この感じだとたぶん理系大学生の8~9割ぐらいがわかってないんちゃうかと。
それで、ふと思ったのが
「もしかして中学・高校の理科の先生が嘘を教えてる可能性あるな」
と疑い始めました。
まあ、たぶんさすがに高校物理の先生はちゃんと教えてるんやと思います。
学生がちゃんと理解できてないだけなんでしょうね。
塾や家庭教師のバイトで高校生に物理を教えている大学生は嘘を教えている、もしくは正しく説明できていない可能性は高いと思います。
いよいよ大学入試の本番が目の前に来ている時期ですが、受験生は今回の話をちゃんと理解できれば物理の成績がグッと伸びて有利になるかも知れません。
と、前置きが少し長くなりましたが、本題に入りましょう。
1. 作用と反作用って何?
さて問題です。
下の図を見てください。
図のように手のひらの上に 1 kg の重りを持っている人がいたとします。
重りには 1 kgf(約 9.8 N)の重力が下向きにかかります。
この重りが床に向かって落ちないのは、手のひらで支えているからですね。
では、この重りにかかる重力に対する反作用は何でしょう?
図示してみてください。
こんなん簡単やん。と思ったあなた。
こんな図を書きませんでしたか?
ブー!不正解!
明日から「自分は物理が得意」とか言わないようにしましょう。
もしあなたが誰かに力学を教える立場だったとしたら、反省してください。
ちゃんと勉強しましょう。
でもまあ安心してください。
少しキツい言い方をしてしまいましたが、私の観測範囲ではほとんどの理系大学生が間違えるやつです。
ちゃんと正解の図が描けた人はこの続きは読まなくても大丈夫です。
2. つねに成り立つ関係性
それでは、間違った図を書いてしまった人のためにヒントとなる解説をしましょう。
「作用」と「反作用」というのは、その名前から誤解されがちですが、どちらかが「作用」でもう一方が「反作用」と決まっているわけではありません。
せっかくなのでさっきの図を使いましょう。
手のひらで重りを上向きに支える力があります。
このように、ある物体(この場合は手のひら)が他の物体(重り)に力を及ぼしているときに、必ずその逆向きの同じ大きさ力が存在します。
手のひらが重りを上向きに押す力を「作用」とすると、「反作用」は何か?
重りが手のひらを下向きに押す力が「反作用」です。
「手のひらが重りを上向きに押す力(作用)」が存在する限り、同時に「重りが手のひらを下向きに押す力(反作用)」は必ず存在します。
作用と反作用が逆と考えても良いです。
「重りが手のひらを下向きに押す力」を「作用」と考えれば、「手のひらが重りを上向きに押す力」が「反作用」になります。
どちらが先ということもなく、本質的に順逆はありません。
これが力学の原理です。
さて、勘の良い人はそろそろさっきの問題の正解に気づいたかもしれませんが、もう少し説明させてください。
3. 「力のつり合い」と「作用・反作用」の違い
上の説明を読んで、納得がいかない人もいるでしょう。
「重りが手のひらを下向きに押す力」って要するに「重力」やんけ!
一緒やん!
と思ったかもしれません。
一緒ではないんです。
今回のケースでは、手のひらでバッチリ重りを支えて同じ高さに留めていますよね。
なぜこの重りが落ちずに静止しているのかというと、「力がつり合っている」からです。
つり合っているのは「重りにかかる重力(1 kgf)」と「手のひらが重りを上向きに押す力(1 kgf)」です。
この両者の力が逆向きに一致してつり合っているので、重りはその場で静止できているのです。
図に書くとこうなります。
これは作用・反作用とは別の話です。
では、つり合っていない場合はどうなるでしょう?
手が疲れてきて、「手のひらが重りを上向きに押す力」が 1 kgf よりも小さくなったら、重りに下向きにかかる力の方が大きくなりますから、重りは下向きに加速、つまり落下し始めます。
この場合でも、「手のひらが重りを上向きに押す力」の反作用は「重りが手のひらを下向きに押す力」であり、下の図のように「手のひらが重りを上向きに押す力」と同じ大きさで逆向きに働きます。
「重りが手のひらを下向きに押す力」は「重りにかかる重力(1 kgf)」よりも小さく、両者は等しくはありません。
力の強弱関係が逆の場合でも同じです。
「手のひらが重りを上向きに押す力」が 1 kgf よりも大きい場合はどうでしょう?
重量挙げのように、重りは手の力によって上向きに加速します。
この場合ももちろん、「重りが手のひらを下向きに押す力」と「重りにかかる重力(1 kgf)」は等しくなりません。
「重りが手のひらを下向きに押す力」と「重りにかかる重力」が等しくなるのは、たまたま力がつり合っているときだけなのです。
だんだんわかってきましたか?
逆に「ますますわけわかんねーよ。」と思うかもしれませんね。
4. 重力の反作用
それではもう少し極端な例を出します。
重りを支えている手をサッと取り除いて、重りを空中に投げ出したらどうなるでしょう?
当然、重りは重力によって地表に向かって引っ張られ、自然落下しますね。
手で支えているかどうかに関わらず、重力はそこに存在します。
さて、それでは重力の反作用はどこにあるのか?
「重力の反作用は存在しない」
と思いますか?
ちゃんと存在します。
答えは「『重りにかかる重力』とは何か?」を考えればわかります。
何かが重りを引っ張っていますね。
地球です。
「地球が重りを引っ張る力」が「重りにかかる重力」の正体です。
つまり、「重りにかかる重力」の反作用は「重りが地球を引っ張る力」ということになります。
地球が大きすぎて気づきにくいですが、地球と地球上の物体はお互いに引っ張り合っているわけです。
「万有引力の法則」というやつですね。
5. 終わりに
この記事を書いてから、色々とググってみたら、この記事の内容とほぼ同じような内容の話がいきなりヒットして、ちょっと凹んでます。
パクったわけではないですよ(汗)
まあ、説明の順序や解説方法が違うから良しとしましょう。
理系の大学生でも結構わかっていないのは事実なので、あらためて私のnoteでとりあげる価値はあったと考えることにします。
以上です。
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