《乳屋さん、今日終わる ④》
2023年5月31日の営業をもって、弊社は事業を閉じることにした。これまでのご愛顧をありがとうございました。
日付が5月31日に変わっての深夜。
私は母にメールを送った、ちょうど最後の配達が始まろうとする時間。
「最後の配達、気を付けて行ってらっしゃい。今までありがとう!」
朝の4時前に母から返信があった。いろんな人に感謝して、父が愛して止まなかった鳥羽一郎を聞きながら配達に行ってくる。キレイな朝焼けが見れると嬉しいな。との内容だった。
私は結局、朝の5時近くまで眠れなかった。特に何かをしていたわけでもなく、ボケッとしていた。母が1人で寂しく、申し訳ない気持ちを抱えて配達しているのかと思うと、気の毒だった。
朝、寝不足だったが出勤の用意をしながら、LINEをチェックした。
朝の7時前に配達を終えた母から何通かLINEが入っていた。
読んだ瞬間、私は一瞬、呼吸が止まった。
色とりどりの花。乳屋の最期の配達を待ち構えていたのは、思いも寄らぬお客様たちからの溢れんばかりの花だった。
私はスマホを片手に嗚咽した。
これほど心を震えさせる花があっただろうか、母に対して私自身が表現したかったけれど、どうすればいいのかわからなかったこと。
それを私ではなく地域の人がしてくれていた。数多の言葉よりも、花に込められた心遣いがありがたくて、私自身が救われた気持ちがして涙が止まらなかった。
私も人間として、こういう気遣いのできる人でありたいと心底思った。
どうして私たち母子がこんなに複雑な気持ちを抱えていることを皆、知っているのだろう。そして、そういう人間がいたときにどう寄り添えばいいのか何故、知っているのだろう。
花よ
33年の幕を閉じる乳屋さん。
母も私もいろいろな思いが心の中に巡るなか、この花たちによって、全てが昇華された。地域の役割をまっとうしたのだと心から感じさせてくれた。
33年前の母の賭けは、花となった。
2023年5月31日、乳屋さん終わりました。
皆さん、ありがとうございました。
後記:
5月31日に出勤しながら、この気持ちを絶対に言葉にしなければと思い書きました。自分にとって、書くことによって自然な流れで33年を振り返ることとなりました。本筋は、どこにでもある商店のどこにでもある廃業です。
つまり、こんなに思いやりに溢れた人間の行いが、どこにでもあるということを書きたかったのです。そういったものはとても静かで目立たず壊れやすいもので、探さずとも元からそこにあるのでしょう。
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