「黄禍論の再来だ」:コロナ禍で米国の中華レストランが直面する外国人嫌悪
ウェブマガジンのFast Companyに連載中のRestaurant Diariesシリーズでは、食品業界に生きる人々が、コロナウィルスの時代をどう生きぬいているかを取材している。今回は米国全土に展開するアメリカン・チャイニーズ料理チェーン、Panda Expressの創始者へのインタビュー。コロナ禍での外国人嫌悪に向き合いながらも、最前線労働者を支援する体験談(2020年4月7日掲載)を日本語訳した。
原文: https://tinyurl.com/y9lykpd4
アンドリューとペギー・チュンは、1983年にカリフォルニア州グレンデールで最初の店を開いた。以来、2人はパンダ・レストラン・グループの共同設立者・CEOとして、親しみやすいアメリカン・チャイニーズ料理を提供してきた。現在は約2200店舗を経営し、4万人以上を雇用している。コロナ渦で高まる人種差別とたたかいながら、運営や従業員の保護のために奮闘する彼らにインタビューを行った。
従業員と会話するたびに、彼らの声ににじむ恐怖を感じます。「なぜ私たちは最前線に立たされているのか」という単純な疑問です。食料供給は、一夜にして必要不可欠なサービスとみなされました。これは従業員にとって、働くという行為そのものを恐怖に変えます。給料のために命を危険にさらしたい人などいません。しかもこれは一般的な隔離期間とされる「14日間」で済まされるものではなく、すくなくとも数ヶ月の長期にわたるのですから。これを理解した上で、企業のリーダーとしてできることがあります。はたらく彼らの気持ちを理解して、必要なことは何でもするという覚悟です。会社として、できるだけ安全で、安定した働き方を保障しなければいけません。
コロナウィルス危機の初期段階は、わからないことだらけでした。
「お客様と従業員の安全・安心をまもるにはどうすればいいのか?」
私たちは1月に2週間ほどの短期間でPanda COVID-19 Task Forceという特別部門を設けました。
・全国の店舗内の飲食スペースの早期閉鎖
・チェーン全体での予防原則の設定と共有
・現場のオペレーションチームに勝手の良い、提供メニューの簡素化
・非接触での販売提供方法の確率(オンライン注文、ドライブスルー、集荷流通の調整)
などを課題としてビジネスモデルを変え、従業員が自分と家族のために必要な時間を確保できるようにしたのです。
従業員のための手袋、マスク、手指消毒剤、安全衛生手当、営業手当の変更、閉店手当、感謝手当などの新しい福利厚生もシステム化しました。また、健康保険の適用範囲を拡大し、病気休暇制度を設定するとともに、ホットラインも開設しました。これは従業員の精神的ストレスやCOVID-19の医学的質問に、専門の危機管理知識を持った看護師が対応するためのものです。また会社として、レストラン産業とその労働者を支援する連邦救済法案を支持しました。
会社としての方向転換や調整に終わりはありません。毎朝なにか新しいことが発表されるたびに、コマを出発点にもどされた気分になります。新しい条例、発表、問題が常に出てくるのですから。例えば2週間前に、マンハッタンの状況が悪化しました。これを受けて、ニューヨーク市内の店舗リーダー達は、一時的に全11店舗を閉鎖するに至りました。とても厳しい選択でした。その直前まで、毎日何百もの温かい食事を作り、地元の病院の医療従事者に寄付してきたのに。弊社独自の健康保険をつくり、最大6週間分の給与を支払う手配はしました。しかし、都市閉鎖の波がつづくなか、私たちは全国規模で事業の修正を見極めないといけません。
いま私たちが直面しているのは、財政的な危機だけでなく、もっと陰湿な外国人差別の恐怖です。商売上、いままで経験したことがありませんでしたが、文化や民族的アイデンティティについての誤解や攻撃の矢面に立たされています。パンダ・エクスプレスは、いままで多くの方から愛され、米国内の中国系企業としての認知度も高かったので、これはとても不幸なことです。
従業員たちは、アジア系であることや「パンダ・エクスプレス」の社用車に乗っているだけで、人種差別的なやじを浴びせられるのです。信じられないことです。一番胸が痛むのは、アジア人コミュニティ全体に対する暴力の激化です。コロナウィルスは、すべての人にとって等しく「見えざる敵」です。命をかけてみな戦っているのに、なぜ罪のない人をせめるのでしょうか?ヘイトで解決しますか?自分と違うものや、見慣れないものを「危険」であるとか「異端」であるとレッテルを貼るのは、時代遅れだというのに。これは「黄禍論」の再来で、善良な人たちに対するでたらめな恐怖です。破壊的な不信感しか生みださないでしょう。
私たちの会社はアメリカン・チャイニーズです。そのことで怯えずに堂々としていたい。私たちはあらゆる肌の色や背景を持つ人々の集まりです。弊社は中国の味や伝統を紹介し、半世紀近くも文化を橋渡してきました。食を通じて、異文化をより身近に感じていただき、最終的には文化の違いに社会が感謝できるように努めてきたのです。
企業として、いま最前線で働いている人々が、きちんと食べられるように協力する責任を感じています。医療や物流、教師、警察官、消防士、救命士、その他のエッセンシャルワーカーや労働者たちに食料供給を続けられるよう、なるべく店舗の閉鎖はさけています。米国各地では従業員がPanda Cares Boxプログラム(https://www.pandacares.org/)を通じて、医療コミュニティ支援のための資金調達もしています。3月25日から4月18日まで寄付を集め、それを陽性患者のとくに多い州—ワシントン、カリフォルニア、ニューヨーク、ニュージャージー—の医療従事者向けの保護具(PPE)の調達と寄付に使っています。私たち個人もこの基金に寄付しています。
いまは最前線のパンダ・エクスプレス従業員に使い捨てマスクを提供するのが至急の課題です。
呼吸器保護のためのKN95レスピレーターマスクの物品寄付も募っています。米国全土の供給不足のために、アジア圏のパートナー達とのつながりを通じて、マスク、手袋、フェイスシールド、医療ガウンなどの供給もしています。これらの支援物資はすべて、パンダ・エクスプレスの従業員が現場に直接運ぶのです。一番最初に届いた200万ドル相当のマスクと手袋は、すでにロサンゼルスの病院にお届けしました。
このパンデミックは全人類に衝撃をあたえています。一人ひとりが、自ら掘り下げて、いままで思いつかなかった形で「与える」機会でしょう。私たちは、店や従業員を通じて、必要なところに支援を届けたい。それはとても美しい仕事ではありませんか。最近チームの一つがロサンゼルスの病院に食事と防護品を届けた際に、こんなお礼状をいただきました。「身も心も縮こまって自分のことだけ考えるのは簡単です。このご時世でパンダ・エクスプレスは他者を支える仕事に従事しています。危険に立ち向かう時、なにかがあったら誰かに支えてもらえると感じるのは何にも代えがたい幸福です。」手紙を受け取った従業員は、次に病院への配給をするのも心待ちにしているそうです。これぞ#PandaStrong #PandaProud の精神です。
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ヘッダー: Tony Websiter
その他: Panda Express
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