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新しい日々と少しの切なさ
悲しみと切なさは似ているけど、少しちがうよなぁ、と満員電車に乗りながら考えていた。
おととい引っ越したあたしは、新しい駅から会社にむかっている。
上野にある新居は新しくはないが、十分すぎる日当たりとスカイツリーが真正面に見えることが売りのマンションだ(ベランダになぜか小さな木が生えてる)。
ここはあたしと恋人、2人きりの家だ。
そういうわけで、あたしの引っ越しは「栄転」と言っても差し支えないもので、幸福に満ちたものである。
しかし、同じ台東区の旧居を去るとき、なんとも言えない気持ちになった。寂しいみたいな、切ないみたいな、別れがたい気持ち。卒業式で、もう会えないかもしれない友だちに別れを告げるときのようだった。
旧居をとりわけ気に入っていたわけではない。ただ、この家で暮らした記憶は大切なのだと思った。あたしたちが遠距離恋愛をした、最初で最後の場所。
初めての仕事にまごつきながらも、なんとか1人で暮らしていたあたしにも、関西から何度もこの家を訪ねてくれた恋人にも、もう会えない。それらはみんな過去になってしまった。
なんだか切ないけれど、悲しくない。やっぱり、この二つは少しだけちがうのだ。