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ドキュメンタリー《誰がラヴェルのボレロを盗んだのか》日本語訳台本 エピソード9「《ボレロ》を愉しむ」

日本モーリス・ラヴェル友の会では2016年5月よりフランス国内で報じられてきましたラヴェルの著作権や遺産問題について折に触れてきましたが、その時期、フランスのテレビ局やインターネット上で公開されましたドキュメンタリー映像《Qui a volé le Boléro de Ravel ?》(誰がラヴェルのボレロを盗んだのか)の監督であるファビアン・コー=ラール氏とコンタクトを取り、この映像作品の9章のエピソードの日本語訳の翻訳権を得て、2017年から2018年にかけて連載企画として当友の会Facebookページにて台本を掲載しました。

本年2月14日、フランスで「ボレロ」裁判が始まったことを受けて、改めてラヴェルの著作権・遺産問題を振り返るために、こちらnoteにて再掲いたします。

上のYouTubeの映像と共にご覧ください。
ピクチャインピクチャの設定で台本と映像が同時に観られます。



ドキュメンタリー《誰がラヴェルのボレロを盗んだのか》日本語訳台本 
2008-2016年 エピソード9「《ボレロ》を愉しむ」



2008年1月1日。果たして《ボレロ》の著作権は消滅したのだろうか?

画家クロード・モネの戦時加算を取り消し、著作権消滅を推進した破棄院の判決は、判例として《ボレロ》にも適用可能なのだろうか?

エマニュエル・ピエラ(弁護士)
「私の同僚、弁護士、法学の教授たちはすべて、破棄院の決定を音楽についても適用すべきであり、裁判になれば同じ判決(戦時加算の取り消し)がなされると概ね考えていましたが、実際のところ破棄院に審理を持ち込んでまで、それを検証する者は誰一人いませんでした。」

ジャック・ラング(元文化大臣)
「“法律”とは、大理石に永遠に刻まれるようなものではなく、特定の時に特定の状況に対応するために決められるものです。個人的には、それらすべての問題が出尽くしたところで、(ラング法の)見直しを図ることに全く異議はありませんよ。」

しかし、SACEMの勢いは止まらない。

《ボレロ》の著作権消滅は、2016年5月1日まで延期されたのだ。

フロランス・モテ(音楽評論家)
「偉大な音楽は、人々の脳に入り込んだ瞬間から、人々がその曲の所有者となるんだと思うわ。」

ラヴェルはジャズを愛し、ジャズもまた彼に多くをもたらした。

スウェーデンの3人組ジャズ・ミュージシャン『トリオ・エックス・オブ・スウェーデン』は、30年前のザッパのように《ボレロ》へオマージュを捧げた。

2009年、《ボレロ》の著作権所有者の一人、ジャン=ジャック・ルモワーヌは100歳を迎え、同年モナコにて死去した。
誰が彼の巨万の富を受け継いだのかは、謎に包まれたままである。

モナコ大公宮殿ではルモワーヌの追悼コンサートが開催された。

アルベール2世(モナコ大公) は彼に敬意を表し、世界中の著作権を守るための模範的な行動を讃えた。 人々は彼に感謝することでしょう、と…

ルモワーヌが経営していた複数のARIMA関連会社のうち、最後に生まれた一社は彼の死後、モナコに所在を移している。この会社は匿名性を守られ、且つ非課税対象となる特定の民間企業である。

スイスのグスタードでは、モーリス・ラヴェルの"控えめな"相続人、ジョルジェット・タヴェルヌが93歳で亡くなり、彼女の娘エヴリーヌが《ボレロ》の著作権継承者となった。

上海万博。ここではヒューマノイド・ロボット『NAO』が《ボレロ》に合わせてダンスを披露!プログラムにより動きを同期させることが可能な人型ロボットである。
オートマタ(自動人形)を愛していたラヴェルは、きっと喜んだに違いない…

フランス2『20時のニュース』 - ロラン・ドゥラウース(ニュースキャスター)
「その曲は、 おそらく世界で最も演奏された曲の1つであり、最も奇妙な曲の1つでもあります。ラヴェルの《ボレロ》は明日、著作権が消滅します。」

フランス国際放送TV5モンド
「ラヴェルの《ボレロ》は、フランスの作曲家による音楽作品で、今週日曜に著作権が消滅します。」

ラジオ局フランスアンテール
「昨日からラヴェルの《ボレロ》は相続人たちの所有権を離れ、フランスにおいて著作権が消滅しました。」

しかしその2日後、驚くべき展開が待っていた。

フィガロ紙上で、新たな相続人たちの登場が報じられたのである。

彼らの弁護人の要求は「《ボレロ》の公式発表書類に共作者を追加する」ことだった。
共作者とはアレクサンドル・ブノワ、1928年にバレエ公演を行った時の舞台芸術家である。

アレクサンドル・ブノワは1960年に亡くなっているため、彼らの要求が通れば、ラヴェルの相続人達は20年間の期間延長による利益を享受することになる。

さらに驚くことに、この弁護士部隊を率いていた人物は、ジャン=マニュエル・スカルノ、デュラン社の元社長だったのである。この最後の新展開で彼が果たす役割とは? ラヴェルの元専属編集人として、今回も《ボレロ》の著作権消滅を覆すことができるのか?

クロード・ルルーシュ(映画監督)
「これまで《ボレロ》を成功させてきたのは一般大衆ですから、その成功の恩恵を一般大衆が受け取るのは当然です。」

では、自分の作品があらゆる編曲をされてきたことについて、モーリス・ラヴェルは何を思うだろうか?

「見本を選び、模倣してみてください。何か伝えたいことがあるならば、あなたの個性は無意識に見本を裏切っている部分にこそ、より明白に現れているでしょう。」


(終)


※当ドキュメンタリーの日本語訳の翻訳権は日本モーリス・ラヴェル友の会に帰属しております。翻訳文の無断コピー及び転載は禁止となっております。なおシェアは推奨しております。

なおこの続きの、2016-2019年 エピソード10「証拠不十分」の動画もありますが、当友の会では未翻訳となっており、また機会を得て公開したいと思います。



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