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動かない月

ひとりで新幹線に乗ると、
ずーっと窓の外を眺めてしまう。

知らない土地の風景が
ものすごいスピードで流れていく。

あの家ひとつひとつに
住んでる人がいて、
そのひとつひとつに生活がある。

みんな私と同じ人間で、
テレビを見て、
洗濯して、
ごはんを食べて、
お風呂に入って、
歯を磨いて、
布団に入って、
ひとりひとり生活している。

おもしろいよなあ。
私から見えている人や生活は
本当にちょびっとで、
私が知る世界は本当に狭い。

屋根の数だけ、生活がある。
窓の数だけ、誰かの人生がある。

日本中、世界中、
みんなそれぞれを生きている。

同じ空の下で、同じ星の上で、
同じ今を生きている。



新幹線から眺めた風景。
ものすごい数の人の生活が
左から右に流れていくけれど、
空に浮かぶ月だけはずっと動かない。

空の下、なにがあっても、
スッとそこに浮かび続けている。
私たちの星の周りを
ずっと回り続けている。

すごいなあ、心強いなあ。
だって、なにがあっても、月は
ずっとそばについてきてくれるんだもん。

すべての人の生活の中で、
月はいつまでもずっとそこにいる。



映画「夜明けのすべて」で、
誰しもが抱えている夜の闇を救うように
語られる、このセリフが自然と思い浮かぶ。

夜明け前がいちばん暗い。
・・・
地球が時速1700kmで自転している限り
夜も朝も等しく巡ってくる。
そして
地球が時速11万kmで公転している限り
同じ夜や同じ朝は存在し得ない。


どんな空にも、
形や色は違えど月は必ずそこにいて、
ぐっと夜を堪える私たちを
ずっと静かに上から眺めている。

あの人から見た月も
私から見た月も
今日は綺麗に見えますように。

新幹線から見えた、
多く知らない誰かの家からも、
優しい光が見えますように。

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