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紅葉と登山

天気がよかったのでジョギングに出てみると、近所の小川沿いの公園に、地面に落ちた枯れ葉や、黄色味を帯びた葉のある木が増えてきたことに気が付いた。ジョギングを始めた頃はピンクの桜の花びらが舞っていたこの場所も、そのうち鮮やかな緑に包まれたせせらぎへと表情を変え、そして長くジメジメとした梅雨とギラつく日差しに照りつけられた夏を超えて、また違う色に変わる季節がいつしかやってきたようだ。

秋と言えば食欲の秋、読書の秋、スポーツの秋…と色々言われるけれど、あの日見た景色が衝撃的過ぎて、秋と言われていつも思い出すのは、あの槍ヶ岳登山の途中で出会った、写真の紅葉の風景だ。

近くの沢を流れる静かな水音と、柔らかな風が木々を揺らす木の葉のざわめきと、休憩しながら談笑する仲間たちの笑い声以外に聞こえるものは無く、ここが天国かと強烈に思ったのを覚えている。特に紅葉が有名なスポットで撮った写真でもなく、道の途中で休憩時にスマホで気軽にパシャリと撮っただけで、大して技術があるわけでもないのに、岩山の白と空の青と木々の黄と赤が鮮やかで、急に写真がうまくなったのではと錯覚さえ覚えるほどだった。

この時は、日本一の紅葉とも言われるあの場所がすぐ近くにあるなんて知らなかった。なんなら横尾の分岐で仲間に「こっちが涸沢に続く道で」と言われたときも全くもってピンときていなかった。「へえ、カラサワって山があるんだ」ぐらいにしか思っていなかった。無知もいいところである。今思えばそれくらい山に関する知識が無い中で、多くの登山者達の憧れの1つである槍ヶ岳に登頂するなんて、なんとも恐ろしいことをやったものだと思う。


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<槍ヶ岳のモルゲンロート>


あの登山から幾分か時が経って、友人と一緒によく山に行くようになった。平日に毎日ネットとにらめっこして天気を判断して、週末にふらっと近くの山に1人で行くようにもなった。雑誌や本を読んで色んな知識を自分できちんと学ぶようになった。もっと重い荷物を背負えるようにと毎日筋トレもするようになった。急登でへばる自分を知ってからは、少しづつだけれども苦手なジョギングもするようになった。

いつか見たあの絶景達をもう一度、今度は誰かに連れられるのではなく、ちゃんと自分の力で登って見たい。それが原動力となっている。

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<槍ヶ岳山頂から望む雲海と穂高連峰>


色んな登山雑誌を読むうちに、いつか聞いた「カラサワ」が、あの槍ヶ岳から見た穂高連峰に囲まれる「涸沢カール」として、日本一の紅葉とも呼び声高い場所であることを知った。写真で見る紅葉の涸沢カールは、奥穂高岳を始めとする3000m級の山々に包まれた、緑と赤と黄色の草木のパッチワークに彩られた場所で、なんて素敵な空間だろうと思った。


それ以来、ずっと一度は紅葉の涸沢カールに行ってみたい、絶景の穂高連峰に囲まれながらテント泊をしてみたい、奥穂高岳のモルゲンロートを見てみたい、そして欲を言えば北アルプス最高峰・日本第3位の標高を持つ奥穂高岳そのものにも登ってみたいと思っている。

シーズン中は行きも帰りも登山者だらけで渋滞すると言っても、テント場はテントだらけで芋洗い状態と言っても、石ころだらけだから注意深くテントを張らないと穴が開くと言っても、そもそも今の自分にはテント泊装備を背負っての登山なんてまだまだ先の話でも、それでも、いつか一度はあの場所に行ってみたいのである。

そんなわけで、憧れの景色をこの目で見るいつの日かの登山のために、私は今日も走っている。

#一度は行きたいあの場所

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