映画『サムサフィ』/もう、うんざりした毎日。
『サムサフィ』(1992年/ヴィルジネー・テヴネ監督作品/日仏合作)
この映画はたしか、20代前半のときにツタヤでレンタルしたのが最初の出会いで(当時はVHSだった!)、すぐにだいすきな映画だ!と、一目惚れして、何度も借りた。そのうちレンタル棚から商品が消えていた。その後も作品のイメージがずっと焼きついていて、何年か後にDVDをネットで検索したらすでに廃盤、中古市場で高額で出回っていてもう悪意としか思えない状況にがっかりして、この映画は記憶の端っこに追いやられていった。唯一映画の中古パンフレットを買って宝物にした。ボロボロになるまで眺めた。
32歳、息子を妊娠中に、ふと思い出した。どうしてもみたくなった。つわりでマクドのポテトが異常に食べたくなる衝動の如く、わたしは『サムサフィ』が観たかった。ネットでレンタル落ちしたVHSが安価で売られていて、即購入してそれをDVDに落としてもらった。
久しぶりに観たこの映画はやっぱりよかった。ストリッパーでその日暮らしのエヴァが突然そんな普通じゃない生活に嫌気がさし、普通の生活こそエキゾチックだ!と、まともな生活を送ることを決心する。でもエヴァがまともを目指せば目指すほど、まともじゃないところがかわいくておもしろい。周囲をとりまく人間も、ゲイの中年カップル(ひとりは一日中クレームの手紙を書き続けて、もうひとりはその彼に尽くすように陶酔している)、毎日草の絵を描き続けるゲイの画家、昔のエヴァのように身を売りながらその日暮らしをするパーティ好きの女友達・・誰ひとり世間で言われるようなまともな人が出てこない。エヴァも「普通に生きることが刺激的」だと思って生活してるが中身が奔放なので、普通だとは言いがたい。だけどそこにはかりきれない魅力を感じる。世間から異質と思われる人たちがいるその世界に、わたしは心から安堵するのだ。結末、エヴァはふたつのものを生み出して映画が終わる。ピカソの絵画みたいなスペインの個性派女優ロッシ・デ・パルマも美しい。なによりも、世間の普通の人たちが退屈だと思う毎日を、エヴァにとっては刺激的にクリエイティブに生きる姿がだいすきなのだ。
パリでのロッシ・デ・パルマ展の記事を見つけた。日本でもやってほしい!